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自堕落オトメに偽恋レッスン

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  • 作家玉置真珠
  • イラストキグナステルコ
  • 販売日2017/10/03
  • 販売価格300円

七歳年上の直音は、奏にとって初恋の相手。自分に自信がない奏の恋愛はそれっきりだったが、入学した大学で准教授の直音と再会することに! 目を見張るほどかっこよくなり、女生徒にモテる直音に対し、奏は乙女系小説を執筆してサイトにアップするのが趣味の引きこもり系女子。再会に胸を高鳴らせるもののとても釣り合いそうにない。そんなある日、大学で仲良くなった同級生に小説のことを他の人にバラされ!? ますます陰にこもる奏は心配する直音につい胸の内を吐露してしまう。「私も可愛くなりたい!」そんな奏に直音は恋をする練習をしようと持ち掛ける。優しくリードしてくれる直音に、押し込めていた恋心が再び疼き出してしまい――?

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「天羽(あまは)奏(かなで)さん、入学おめでとう」
 桜舞い散る立花第二(たちばなだいに)学園大学のキャンパスで、ポンと肩に手を置かれ、驚いてふり返った。
 そこに立っていたのは、見ず知らずの──けれど、とてもかっこいい男性で、二度驚く。
 栗色のミディアムウルフヘアに、涼しげな黒い切れ長の瞳。スッと通った鼻すじに、薄めの口唇。右目の下にある小さな泣きぼくろがセクシーだ。
 背も高い。一六〇センチのわたしより頭ひとつ分くらい大きいから、一八〇センチくらいだろうか。爽やかなサックスのシャツに薄茶のジャケットを羽織り、長い脚にぴたりと寄り添う白いボトムを身に着けている。彼は浅黒い手を伸ばして、にっこりとほほ笑んだ。
「はは、改まった呼び方だと変な感じだね。俺、今、分子生物学の准教授をやっているんだ。きみが薬学部に入学してくれて嬉しいよ。俺の講義も取ってくれよな」
「あなた、誰ですか? どうしてわたしの名前、知ってるんですか?」
 わたしの発したひと言に、彼は目を見開いた。
「俺のこと覚えてない? 昔、一緒に──」
「だから知らないって言ってるじゃないですか。本当に准教授なんですか? だったらずいぶんチャラいんですね。わたしなんかより、もっと可愛い子をナンパすればいいでしょ。それじゃ」
 これでもかというくらい一気にまくし立ててやる。かっこいいからってすべての女が思い通りになるなんて思わないでよね。
 握手待ちと思われる、こちらに向けて差し出されたままの大きな手を無視し、わたしはくるりと背を向けた。
 ふり返らずに正門へ向かって歩き始めると、「奏!」と鋭い声で呼び止められた。
 ぐいと力強く右腕を引かれ、転びそうになる。
「きゃっ!」
 なんなのよ、これだけきつく言ったのにまだ諦めないの?
 しかもいきなり呼び捨てだなんて、失礼な人!
 掴まれている腕を振りほどこうとしたが、男の力にはかなわない。払おうとしても払おうとしてもその手は放れず、むかむかと腹が立った。
「やめてくださいっ」
 苛立ちをたっぷりこめて睨みつけると、そいつは大声で言い募った。
「待て! 俺だ、神威(かむい)直音(なおと)だ!」
「かむい……?」
 なにごとかと周りの学生たちがこちらをチラチラと盗み見ている。
「かむい、なおと……」
 あまりに懐かしく、甘酸っぱい響きに胸がきゅんとした。
 子どもの頃、隣に住んでいた〈おにいちゃん〉。わたしの初恋の人。
 七つ年上で、かっこよくて、優しくて、それから……。
 わたしの、ファーストキスの相手だ。
 キスといっても、唇と唇が触れるか触れないか程度の軽いものだった。
 彼からしてみれば、親愛の情を示すスキンシップに過ぎなかったのかもしれない。けれど、わたしにとっては強烈な思い出だ。
「……」
 つい、目の前に立つ人の口唇を凝視してしまう。
 上側が少しだけ薄い、きれいな形。
 この口唇がわたしの唇に触れたんだ。
 意識した途端、どくん、どくん、と心臓が乱れ打ち、頬が熱く火照った。
 かっこよくなりすぎだよ。こんなに素敵になってたんじゃ、ぱっと見てすぐにわかるわけないってば──。
「直音……おにいちゃん……」
「うん。久しぶり、奏。すごく可愛くなったな」
〈可愛くなった〉のひと言が、ちくちくと胸を刺した。
 大学生にもなって化粧っけひとつなく、髪も染めず、女の子らしさのないショートボブを貫いているのは、ただ単に乾かすのが楽だから。
 今日は入学式なので仕方なく黒のスーツを着ているけれど、普段の格好はコンプレックスだらけの体型をごまかすため、メンズのパーカーにハーフパンツだ。持ち物だってモノトーンが基本で、使いやすさを最優先して購入する。
 そんな自分には〈女子力〉などというモノは存在しない。
 愛想も悪い。右上の八重歯を見られるのが嫌いだから、人前で笑うこともほとんどない。
 友達作りも苦手だし、もちろん彼氏なんて、これまで一度もできたことがない。
 しょんぼりとうつむいたわたしを見て、怖がっていると誤解したのだろうか。彼は慌てて大きな手のひらをポンポンと頭にのせてきた。
「大きな声出して悪かった。そうだ、入学式が終わって疲れただろう? よかったら、喫茶店にでも行こう。苺のクレープ、好きだったよな。甘いものを食べてる時の奏、本当に可愛くて、見てる方まで幸せになれるっていうかさ──」
 一所懸命な彼にそっとかぶりを振る。そして、苦労して口を笑みの形にした。
「昔の話でしょ。あはは……やだな、直音おにいちゃん。今のわたしが可愛いわけないじゃん」
 心臓が握り潰される。
 バカみたいだ。自分で自分の言葉に傷つくなんて、笑える。
「奏?」
「……っ」
 まだ何か言いたそうな彼をふり切って、全力疾走でその場を後にした。

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