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りんご姫と狼青年のワケアリな関係

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  • 作家藍川せりか
  • イラストまろ
  • 販売日2015/5/1
  • 販売価格300円

美容部員として百貨店で働く北原安奈は、しっかりメイクをしてコンプレックスである赤面症を隠している。昔、小学校の同級生の秦野誠一が安奈の頬が赤くなったことをからかったのが原因だった。そんなある日、同じフロアのラグジュアリーブランドに誠一が異動してきて、バレないようにしていたのにエレベーターの中で二人きりに! 誠一に、もうこれ以上いじめられたくないと、「彼氏がいる」と嘘をついたことが裏目に出て、彼の狼スイッチを押してしまった! トップブランドのスーツを身にまとった紳士な彼が野性的な獣に豹変! 仕事中、倉庫で迫られ、強引にHなことをされてしまって、いじわるで嫌いなアイツなのに、うまく抵抗できない!

小学校のグラウンドの奥にある大きな鉄製のアスレチックはブルーのペンキが塗られていて、下から見上げると、頂上にいる友達が空に浮かんでいるように見えた。
そのアスレチックをいとも簡単に登る男子を見て、すごいなぁ、と尊敬の眼差しで見つめていた。
「ねえ、安奈(あんな)ちゃんも、登ろうよ」
「うーん、でも……」
すると隣にいた親友である上田(うえだ)紗希(さき)ちゃんに誘われた。
運動神経がいいわけでない私は、前に登ったときに足を滑らせて落ちてしまい、膝に擦り傷を作ってしまった。その傷はじくじくと痛み、まだ跡として残っている。そのことを思い出すと、やはり怖いという気持ちが優先されて、なかなか踏み出せずにいた。
すると同じクラスの秦野(はたの)誠一(せいいち)くんが、私の前まで下りてきて手を差し伸べてくれた。
「え……?」
「お前も登りたいんだろ? 手、貸してやる」
秦野くんは、クラスの中でも背が高くて、運動神経もよく、いつもみんなの中心にいる人気者の男の子だった。そんな彼に声をかけられて、私の頬はみるみるうちに熱を持ち、まるでりんごのように真っ赤に色づいた。
昔から皮膚が薄くて血行がいいせいで、恥ずかしかったり緊張したり、まわりから注目を浴びたりすると、自分の意思とは無関係にすぐに赤くなってしまう、いわゆる赤面症だった。
そしてそれは、人に指摘されると更に赤くなるという悪循環さえ持ち合わせていた。そんな私にクラスのみんなは、赤くなると「りんごちゃん可愛い」と言ってくれて、私が気にしないようにと配慮してくれていた。
――ただ一人を除いては。
「北原(きたはら)、真っ赤。茹でタコみたい。赤すぎ!」
幼い私の心にぐさりと刺さった、その言葉。私は何も言えず、うつむいてぽろぽろと涙を零して顔を手で覆った。
「秦野! なんてこと言うの! 安奈ちゃんが泣いちゃったじゃない、謝りなさいよ!」
「なんでだよ、俺、別に悪いこと言ってねえし」
そこから女子と男子の喧嘩が始まり、終わりの会で先生が仲裁に入ってもなかなか収拾がつかず、結局クラス替えの時期になるまで秦野くんと女子は対立したままだった。

――真っ赤。茹でタコみたい。赤すぎ!

その言葉が頭の中をぐるぐる回る。もう何年も経っているというのに、まだ今でも思い出す。そしてその言葉は、十五年ほど経つというのに、今でも私を苦しめていた。

*****

日本の中で一番利益を上げているという都内の百貨店の化粧品フロア。色んな化粧品やフレグランスから放たれる芳しい香りが漂うこの空間に、私、北原(きたはら)安奈(あんな)は立っていた。
「いらっしゃいませー、どうぞお試しください」
そう言って、自分の勤めているブランドのエリアより少し前に立って、エスカレーターに乗って上階へ上がろうとしているお客さまに新商品のフライヤーとサンプルを配る。
私は、今、この化粧品売り場の中で最も勢いのある、ジョーカーコスメティックスという海外の有名なメイクアップアーティストが創り上げたブランドの、メイクアップアーティスト兼ショップスタッフをしている。黒のTシャツにタイトな黒のボトムをはき、腰には黒のレザーでできたブラシケースをつけている。
黒で統一された売り場は、モダンでありシック、そしてセクシーで都会的な女性をイメージしている。
このブランドの名前を言うと、女性からはいいなぁ! 憧れる! と羨ましがられ、優越感に浸ることができる。けれど、私が欲しいのはそんな優越感などではない。
赤面症を隠すことのできる、カバー力の高いファンデーションを毎日つけていても咎(とが)められることのない、この環境。ここに属することで、自分のコンプレックスを隠して、何も恐れることなく堂々としていられる。
入社したてのころは、褐色に日焼けすることも許可されていて、そのほうが頬の赤みを消せるということで惜しみなく焼いたりもしたけれど、最近のブランドの目指す傾向は美白らしく、日焼けすることを禁止された。
目を伏せると、意志の強さを表現するアイラインが目頭から目尻に向かって気持ちいい程に伸びていて、目を開けるとふさふさのまつ毛が扇状に広がる。チークはあまり塗らず、オレンジ系を少し。そして唇には真っ赤なリップを塗って、往年のマリリン・モンローを意識したようなメイクが今シーズンのルックだ。

「あんちゃん、休憩に行こう」
「あ、はい」
先輩に呼ばれたので私は売り場へと戻り、財布とメイクポーチが入ったショッパーを持って歩き出した。
二十歳から働きだして、今年で四年目。仕事ももうずいぶんと慣れ、可愛い後輩もできた。お客さまにメイクすることにも緊張しなくなったし、最近ではメイクアップアーティストとして他府県の百貨店に応援に行ったり、メイクイベントの手伝いに行ったりもするようになった。
毎日充実していて、やりたい仕事をして。好きなコスメに囲まれて、自分の顔をキャンバスのようにして毎日違う私に変身できる。
二十四歳と言えば、恋愛盛りの年齢だと思うけれど、私にはそんなこと二の次、三の次で。今は毎日が楽しくて仕方ない。

百貨店の十階には社員食堂があり、私と先輩は日替わり定食を頼んで、沢山あるテーブルの中、一番奥の席に座った。
ここの社員食堂はリーズナブルだし、サラダは取り放題。美容部員である私は、常に美を意識し、スキンケアだけでなく食べ物にも気を遣って美肌を保てるようにしている。肌が荒れていると、メイクも綺麗にのらないし、私の悩みのタネである赤みが目立ってしまう。
「あんちゃん、この前のフロア全体朝礼のとき、休みだったよね?」
「はい。……それがどうかされました?」
サラダをもりもりと頬張っていると、隣に座っている先輩が急にそわそわしだした。何事かと先輩の視線の先に目を向ける。
「FIDELIO(フィデリオ)に新しく異動してきた男の人がいてね。それが、かーなーりのイケメンなのよ。ね、見てよ!」
フィデリオとは、ラグジュアリーブランドの中で今ブームがきている人気のイタリアのファッションブランド。主にメンズものの腕時計や財布、バッグ……そしてスーツなどを取り扱っている。しかもかなりいいお値段がするので、フィデリオの物を身に着けているイコール、仕事の出来るおシャレでイケている男性という方程式ができあがる。
それよりも、だ。
それよりも、それよりも。何回も言うけど、それよりも!
先輩の目をハートにさせるフィデリオの新入りの男性。百八十を超える長身で長い四肢とイタリア製のグレンチェック柄の細身のスーツをさらっと着こなすスタイルのよさ。そして小さい顔にすっきりとした顔立ちをして上品かつ色気のある美青年。モデルだと言われれば、へえ、そうなんだ。とすぐに受け入れられるほどの容姿。
だけど……。だけど、アイツは。
「秦野……誠一」
私を今だに苦しめる『茹でタコ』という言葉を言い放った、私の憎き天敵。小学校を卒業してから、一度だけ成人式で再会したことがあって、そのときはこんがりと日焼けした私を見て、『かりんとう』と言い放った、あの秦野誠一。許せない、許せない……
「アイツ、めちゃくちゃ性格悪いですから。絶対やめておいたほうがいいです」
「ええ? あんちゃん、知り合いなの? いいなぁ」
「先輩、声が大きいですっ。私、小学校のとき、アイツにいじめられたんで、嫌いなんです。バレたくないので、アイツと接点を持っても私のことは絶対言わないで下さい」
「ふーん……。いいなぁ、いじめられたぁーい」
先輩は分かっていない。アイツがどんなに女心の分からない、デリカシーのデの字も知らないような男かを。
この前までラグジュアリーブランドは上階にあったのに、全館リニューアルがあり、一階の化粧品売り場などがあるフロアに移動してきた。そのせいで、とても顔を合わせやすい構造になっている。
ああ、どうか私が茹でタコの北原だということが絶対にバレませんように!

翌日から私は、変装に近いような、いつもより一層濃い目のメイクをして、秦野誠一に見つからないように努めていた。
社員食堂だって利用しないようにしたし、休憩室だって、わざわざ上階の休憩室を利用して過ごしていたのに……
どうして今、こういう状況になっているんだろう?

「ねえ、バレてないと思ってたの? ねえって。無視するなよなー」
上階の休憩室から一階へ戻ろうと乗った従業員用エレベーターの中。史上最強に運が悪く、秦野誠一と二人きりになってしまった。私は入口付近に立って顔を見られないようにうつむいていたというのに、背後からガンガン声をかけられて、振り向けずに冷や汗をかいていた。
「北原がここで働いていることは、元々知っていたんだからな。おーい!」
「あ、あの……人違いじゃありませんか?」
絶対にバレているって分かっているのに、鼻を摘まんで声を変えるという悪あがきをして答えるけれど、ぐっと強く肩を掴まれてしまった。
「そんなくだらない嘘をつくんだったら、ここで壁ドンとかしてやろうか?」
「やめてください、嘘をついてすみません、北原です」
私よりもニ十センチも大きな体が背後から密着してきたので、体を強張らせながら恐る恐る見上げた。
すると、しないと言ったくせに、私を壁の方へ追いやって覗き込むように私の顔をじっくりと見つめてきた。
近くで見る秦野くんは、男らしいきりっとした眉とすっきりした奥二重の目をしていて、鼻はすっと高く、唇はふっくらとバランスのいい形をしている。お肌なんかつるつるで、男性の肌とは思えないほどきれいだと思った。
「……なぁ。お前、化粧濃すぎじゃね? これ、本当に流行ってんの? お面みたいなんだけど。パカって取れそうだな」
「し、失礼な! こういう風につけるように言われているの。ちょっと、近いってば!」
まただ。こうやって私の嫌がるようなことばかり言ってくる。もう、一体何なの? 私に何の恨みがあるっていうの……
「ふぅん……。あ、やっぱ、お前、真っ赤になるの、変わってないんだな。首が赤くなってる」
やだ! もう、本当に嫌だ!
昔と同じことを言われて、泣きそうになった。そして全身の温度が上がって、赤くなっているって自覚するぐらい熱い。
「そんな赤くなって……。まさか俺と再会して、惚れ直したんじゃないだろうな?」
「そんなわけないでしょ……! 気安く私に話しかけないで」
「え、何? なんでそんな怒ってんの、おい、北原!」
一階に到着して扉が開くと、すぐに走り出して、女子トイレに逃げ込んだ。
……はぁ、怖かった。あんなに近くで顔を見られるのも嫌だったし、秦野くんのすらりと伸びる太い指が私の首筋に触れようとしていたのも、どうしていいか分からなくて戸惑った。
洗面台の前の大きな鏡に映る自分の顔を見て、崩れていないメイクにホッと安心しながら、急いで売り場へと戻った。

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