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愛しいひと ~背徳の夏休みレンアイ~

  • 作家逢見るい
  • イラスト琴稀りん
  • 販売日2013/11/1
  • 販売価格300円

大学一年生の夏休み、咲妃は初恋の人に言った。「わたしの処女を、もらってくれないかな」。初恋の人・サク兄は、咲妃にとって十歳離れた叔父であり、小さい頃から兄のように慕ってきた人。そして彼の職業は、SM官能小説家だった――。予想に反して咲妃の願いをあっさり承諾したサク兄が出してきた交換条件は「小説のモデルをすること」。憧れの人に優しく愛されることを期待していたのに、突き放すように冷たく身体だけの快感を与えられる咲妃。「抱いて欲しいんだろう?なら、そのまま一人でしてなさい」。サク兄の真意をつかめないまま、真夏の薄暗い部屋の中で身悶える咲妃だったが……?

まーたサクにぃってば、こんなに散らかして」

「まーた咲妃さきってば、こんなに大きくなってぇ」

どこかで蝉が、みんみんみんっと、間延びした声で鳴いていた。

たてつけの悪い戸を横にひくと、書斎として使っている奥の間の突き当たり、背の低い机に身体を向けていたサク兄が、わたしを振り返って、笑った。

平屋建ての一軒屋は、広い。サク兄一人で暮らしていると知っているから、よけいにそう感じるのかもしれない。けれど部屋の窓を閉め切りぴしゃりと戸を閉めてしまっているせいか、風通しも悪く、じめじめとしていた。

「少しは空気、入れ替えたほうがいいよ?」

「いいんだよ。いまのままのほうが、集中できるから」

畳の上には、丸められた紙や、資料にしているのだろう、建築物ばかり集めた写真集、食べたあとの菓子パンの袋、空き缶などが散乱している。男の一人暮らしといっても、サク兄は今年で二十九歳だ。年齢だけは立派に重ねていっても、中身はちっとも、昔から変わっていない。

わたしは物を踏まないように部屋の中に足を踏み入れると、ぎしっと軋んだ畳の上、得体の知れないシミができていることに気がついて、顔をしかめた。

「きったないんだから、もう」

荒井あらい咲耶さくや、わたしの母の一番下の弟で、三男にあたる。つまり、わたしからしたら叔父だった。

SM小説を書く官能小説家で、その世界ではわりと売れているようだ。幼いころ、サク兄の職業が理解できずにいたわたしに、母はよく、「昔っから変わっていた子だったけど、まさかと思ったわよ」と、笑って誤魔化ごまかしていた。

「しばらくこっちにいるんか」

散らばったゴミや書類を整理しはじめたわたしに顔だけ振り返ると、サク兄は愛しそうに目を細める。

パソコン画面に書き連なった文字、キーボードの上で止まった、細くて長い指先。 顔を隠してしまうぐらい、伸びた前髪。髪質自体はサラサラとしていて、眼鏡を外して髪を掻き上げると、涼しげな目元や筋の通った鼻筋、薄く形のいい唇が覗いてみえる。

「うん、しばらくね。いる」

わたしはドキリとする胸を無意識にてのひらでおさえると、にっこりと、特別綺麗にみえるように、笑みを浮かべた。

東京駅から新幹線に乗って一時間、郡山駅につき路線を乗り換えて一時間半、そこからさらに四十分以上、ひたすら車を走らせた場所に、サク兄の家はあった。むかしは家族で暮らしていた家だったようだが、わたしの母が東京に嫁いだかと思えば、一人二人と兄弟が巣立っていき、両親も他界、いまではサク兄だけが残った。

見渡す限り緑とは、きっとこういう場所をいう。市街地を抜けて進んでいくにつれ、人工的につくられたビルや建物が消えうせ、草や木や水田などが広がり、視界がクリアになる。山道を進んでいくとぽつんぽつんと家があり、隣の家へいくといっても、自転車かバイクを使わなきゃならない。

わたしはサク兄が暮らす家から自転車で二十分ほどの場所にある、もう一人の叔父さん、正確には一番上の叔父さん夫婦の家に、大学の夏休みを利用して、遊びにきていた。

一度は東京へ出て、仕事で神奈川、千葉と何度か移り住んだことがあったらしい叔父さん夫婦だったが、やはり地元が一番落ち着くということで、このあたりで農業をやっている。

一番上の叔父さんの家で仕事を手伝ったり、一緒に食事をしたりということは楽しかったけれど、なによりも毎年わたしが楽しみにしているのは、こうしてこっそりと、サク兄に会いにくることだった。

「つぎは、どんなの書くの?」

「んー、内緒だよ」

畳の上のゴミをそのあたりにあったスーパーのレジ袋の中に放り込んでいきながら、作業をはじめたサク兄の横顔を、盗みみる。そんなわたしの視線に気づいたのだろう。

「ひと段落したら、話して聞かせてあげる」

ちらりと横目でわたしをみたサク兄に、わたしはカーッと、頬を上気させた。背が高いくせに華奢な身体つきをしているからだろうか、サク兄の大きくくっきりと浮かび上がった喉仏が、喋るたびに上下に動く。それをみるのが、わたしは好きだった。真剣な眼差しで、指先を動かすのも、ずれてもいないのに、たまに眼鏡を持ち上げる癖も、好きだった。

「ねぇサク兄、お願いがあるんだけど」

「ん?」

わたしは畳の上に正座をすると、改まって、作業を続けているサク兄の横顔をみた。

「わたしの処女を、もらってくれないかな」

「…………え」

しばらくの間を置いて、サク兄が、ゆっくりとわたしを振り向いた。大きく目を見開いて、じっとわたしをみる。驚いたような顔をしたけれど、それは一瞬のこと。次に静かに長い睫毛まつげを羽ばたかせて、「いいけど」と、いった。

今年の夏、ここへくる前に、サク兄にお願いしようとずっと決めていたことだった。しかしこんなにもすんなりとうなずかれるとは思っていなかったわたしは、もしかしてサク兄よりも、驚いた顔をしていたかもしれない。

「交換条件として、小説のモデルを、してくれるんだったら」

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