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蜜愛御曹司が旦那さま~溺れるほどの愛をあげる~【SS付】

  • 作家有坂芽流
  • イラスト西臣匡子
  • 販売日2018/9/28
  • 販売価格400円

本当はもっとちゃんと触れてほしい……絶対に実らない恋なのに。どうしようもない想いが溢れそう──両親を相次いで亡くした花は16歳のころから三峰グループの御曹司・翔馬の妻となった。しかしそれは彼女を狙う卑劣な輩から守るためであり、一緒には暮らすけれど寝室は別、夫婦として触れられることもない、いわゆる偽装結婚。6年経った今でもそれは守られ、変わらず彼は優しかった。きっといつか翔馬は誰かと本当の結婚をする…彼の邪魔にならないようにしなければと悩み続けるなか、なぜ翔馬が自分を妻にしたのか、その理由を聞いてしまった花──切なくジレったいふたり。花の秘めた想いは翔馬に届くのか?【SS付】

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御曹司さまは過保護な旦那さま
 とろ火にしたガスコンロにかけられたお味噌汁の鍋から、温かな湯気が立ち上がっている。
 グリルの中では昨日おとりよせ便で届いたばかりのカレイの干物が程よく焼き上がり、どこか懐かしい香ばしい香りがキッチンを満たしていた。
 九谷焼の角皿に手早く料理を盛り付け、マホガニーのダイニングテーブルにふたり分の朝食をセットする。藍染のランチョンマットの上に一汁三菜が並べられると、私の口からふっと息が漏れた。
 カレイは焼き加減が命、といつも楽しそうに台所に立っていた今は亡き母の言葉がふと脳裏を過ぎる。日本海にある小さな漁師町出身の母は、贅沢のできない家計をやりくりして、いつもささやかながら父の好む料理で食卓を彩っていた。
 絵を描くこと以外まるで何もできず、いつもただひた向きに筆を握っていた父が、穏やかな笑顔をみせてくれたあの優しいひととき。
 今の私にとっては、もう全て失われてしまったかけがえのない時間だ。
「これでよし、と。……美味しく焼けたかな」
 感傷的な気分を打ち消し、私は上質な綿のテーブルクロスの皺を伸ばす。
 これが今私が暮らす家の、いつもの朝の風景だ。
 壁にかけられたアンティークの柱時計は午前六時を示している。もうそろそろ、彼が起きてくる時間だ。
 そう想いを巡らせたタイミングで、ダイニングの扉が開けられた。
 今日も彼は、とても時間に正確だ。
「おはよう。……食欲をそそられる匂いだね。今日の朝ごはんは何かな」
「おはようございます。あの、昨日届いた干物を焼いてみたんですけど……」
「ふぅん。……カレイか。大好物だ。毎朝食卓を見るのがこんなに楽しみだなんて、僕は本当に幸せだな」
 テーブルにつくと、彼は優雅な仕草で「いただきます」と手を合わせて食事を始める。そして向かい合わせに座る私に時々「おいしいね」とアイコンタクトを伝えながら、とても美味しそうにお皿に載せられたものを平らげていく。
 彼、三峰(みつみね)翔馬(しょうま)さんは今年三十三歳。日本有数の財閥系企業、三峰グループの御曹司で将来的にグループを束ねる立場にある彼は、現在は系列のシンクタンクで代表を務めている。
 私は仕事をしている翔馬さんを見たことはないけれど、時折ここへ資料などを届けにくる秘書の佐伯(さえき)さんとの隙のないやり取りから、彼が時として冷徹なほどの冷静さで仕事に臨んでいることは見て取れる。
 でも、ここで私と過ごしている翔馬さんはまるで娘を甘やかす父親のよう。きっと私のことをまだ小さな子供のように思っているのだろう。それが嬉しくもあり、また最近の悩みの種でもある。
 私、三峰花(はな)は現在二十二歳。少し前までは大学生だったけれど、この春無事に大学を卒業したばかり。だから今は、いわゆる“専業主婦”という立場だ。
 そして形式上、父を亡くした十六歳のころから私は三峰グループの御曹司、翔馬さんの妻ということになっている。
 ……そのことについては、色々な事情があるのだけれど。
 それでも、翔馬さんとの生活は穏やかで、まるで陽だまりの中にいるような毎日だ。
 翔馬さんは仕事で帰りが遅くなることもあるけれど、それ以外の日は家で夕食を摂ることが多い。いつも何でも「美味しい」と食べてくれるから、お料理する身としては本当に嬉しい。
 小学校高学年の頃に母が病で帰らぬ人となり、父とふたりの生活になった。
 それ以来、家のことなど何もできない父に代わって私が食事の支度をしていたから、料理は得意な方だ。
 それに六年前父が亡くなるまで家事全般をこなしていたから、今こうして彼の身の周りの世話をすることも苦にならない。母を失った子供の頃は大変だったけれど、その苦労が今に活かされていると思うと、何となく感慨深い。
 やがて食事を終え食後のコーヒーを飲み干した翔馬さんが、ちらりと腕時計に視線を落として立ち上がった。

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