夢中文庫

暴君の恋はいつも過激

  • 作家朝陽ゆりね
  • イラストまろ
  • 販売日2014/12/11
  • 販売価格300円

玉那は高校を卒業するまで伊澤グループ社長宅で暮らしていた。シングルマザーの母が住み込み家政婦だったから。そこで仲良くしていた三歳違いのぼっちゃまと、ある時から強引に求められて体の関係に。恋心のおかげでOKだったとはいえ、ぼっちゃまの周りにはご令嬢がいっぱい。家政婦の娘なんて相手にされないどころか迷惑。そう思って大学入学と共に屋敷を出たのに、就職した会社でぼっちゃまと再会! 社長室で迫られて……。

1、なぜ、あなたがここに?

 

 

「うそぉ~ん」

思わず呟【つぶや】いてしまった。もちろん、誰にも気づかれないように。

ここは従業員五十人ほどの食品会社で、今日からお世話になる会社の社長に入社の挨拶をしにきた。私の記憶が正しければ、面接時に会った社長は六十歳ぐらいの小太りで、大黒様のような印象の優しげなおじさまだったはず。……いや、そうなんだってば。

ところがどっこい……今、目の前にいるのは、

二十五歳の、

背が高く、

勉強ができ、

とっても立ち居振る舞いの上品なイケメン御曹司、

と、世間で囁【ささや】かれている筋金入りのおぼっちゃま。

それなのに……。

……なぜ?

ここ、チマい会社の社長室なんだけど。

そんなことを考えながら、整った綺麗な顔を見つめているのは、私こと春川【はるかわ】玉那【たまな】@新社会人&新入社員である。

このイケメン御曹司のことはよく知っている。知りすぎるぐらい、知っている。世間の誰もが知らないことまで知っている。

このイケメン御曹司の名前は、伊澤【いざわ】直哉【なおや】。

ここに私の持っている情報を加えると、

わがままで、

意地悪で、

超強引──。

と、こうなります。

だけど……なぜ?

ホントに、なぜ?

政財界に顔が利く伊澤グループの会長である伊澤【いざわ】雅彦【まさひこ】の孫にして、グループ親会社、伊澤商事の伊澤【いざわ】幸弘【ゆきひろ】社長の長男。グループ会社の将来を背負って立つために子会社の社長に就任したと母から聞いていたけど、伊澤グループの子会社なんていーっぱいある。どうしてこんなチマい会社の社長席に座っているのか? そもそも、いつからこの会社は伊澤グループに入ったのか?

おかしい。そんなの聞いてない。

隣で総務課長が、私のことを新入社員だと紹介している。ここは初対面を装って、礼儀正しく挨拶せねば。

ぼっちゃまの記憶力はスーパーコンピューター並みに良かったと記憶しているけど、もしかしたら私の顔を忘れてくれているかもしれないじゃん。だって、私、この大学四年間で女らしくなったはずだから、化粧もしてるし。

……たぶん。

自信ないけど……。

「春川玉那です、よろしくお願い致します」

ノンフレームメガネの奥の、ぼっちゃまの目が真っ直ぐ私を見ている。

この怖いぐらい真っ直ぐで真剣な視線の奥にある、訴えかけるような眼差しにほだされ続けてきた。

勉強が得意の品行方正な御曹司ではないことも知っている。口が達者なんだ、これがまた。理詰めでたたみかけるように攻めるから、誰もなにも言えなくなる。だから今も何事もなく終わるはずがない。とんでもないことを言われるのではないかとドキドキしながら待った……のだけど。

「社長の伊澤です。よろしく」

ぼっちゃまは、うっすら微笑んで……それっきりなにも言わない。

あれ?

おかしい……これだけだなんて。

あ、いや、ホントに私の顔を、忘れたのかな? 名前ごと。

いやいや、それはあり得ないから、ここはビジネスライクなのだろう。

これで終わりのようで、総務課長が、「では」と言った矢先、ぼっちゃまが「これから」と口を開いた。途端に総務課長の顔が引きつる。なんか……ぼっちゃまにビビっている感じだ。

「秘書を置きたいので、その新入社員は私付きの秘書とします」

「え、秘書?」

ぼっちゃまが「はい」と頷【うなず】いた。

「ここに着任して三ヶ月。業務状況、財務内容、社員の勤務実態を詳細に確認してきました。今後は社内改革に着手するので、スケジュールの管理や根回しの連絡等、私をフォローしてくれる人員が必要です」

「はぁ」

「総務課は課長のあなたを含めて六人もいます。閑談しながら業務を進めても終業時間と同時に退社できるのですから、一人減っても問題ないでしょう」

「──え」

「口を噤【つぐ】んで仕事をすれば業務効率は格段に上がります。退職者一人分の労働量など簡単に埋められるでしょう。退職者からの引き継ぎは春川さんも入れてするように。しかしながら春川さんは総務課員ではないので、総務の仕事ではなく、会社全体のルール説明だけでけっこう」

「……」

総務課長の顔がますます引きつっていく。

「わかりましたか?」

「はい」

「それから」

続けての言葉に、総務課長の体がまたしてもビクリと震えた。

「この森三食品はすでに伊澤グループ傘下の会社です。ご存じの通り、伊澤グループは世界に向けて多くの業種の事業を展開しておりますので、この会社のみなさんもグローバルな意識を持っていただきたい。例えば異動。対象は伊澤グループ全社となりますので、そのことを明日の朝礼で社員に伝えてください」

「異動?」

「えぇ。伊澤グループの各社は、海外にも多くの支社や営業所を持つ企業グループですから」

「海外って……」

「ニューヨークやロンドンにもあれば、モザンピークにも当グループの営業所はありますよ」

モザンピークって……安全なの?

「先月はアゼルバイジャンに支社をかまえた会社があります。そこでもけっこうですが」

……アゼルバイジャンってどこよ?

「いえ、その、異動は……この会社には今まで異動はなかったので、そういうお話が出ると社員は驚きます。それにこの会社は地域密着型の食品卸会社で……」

「あるかないかは社長の私が決めることです」

ビシリ!

って、漫画だったらきっとバックに文字が入るはず。取りつく島もない斬り捨てごめん的な言い方に総務課長が息を呑んでまたまたビクンと震えた。

ぼっちゃま……相変わらず暴君ぶりは絶好調ですね……。

「この会社は変わったのです。それにこの三ヶ月間で私がどんな人間かわかったでしょう? 明日からは日本を背負って立つ会社になってもらうよう、気合いを入れて頑張ってください。もちろん、それに見合う給料を出しますから。以上です」

出ていけと言わんばかりの冷たいセリフを吐いたら、ぼっちゃまは書類を手にしてそれを読み始めた。

総務課長と一緒に、一礼して社長室から出たのはいいけれど……課長さんは、お気の毒にも顔面蒼白だった。

それにしても……従業員五十人ぐらいの地域密着型中小企業の社員に向け、日本を背負って立つ会社になってくれって……よくそんな嫌味が言えるもんだわ。しかも……。

モダンピークとか、アゼルバイジャンとか、暴君すぎる。

総務課に戻った私達。課長さんの説明に、居並ぶ課員は課長同様の蒼白状態。その中でただ一人、一週間後に辞める鈴木【すずき】さんだけが例外だった。

そりゃそうよね。辞めるんだもん。

一年前に結婚した鈴木さんは、旦那さんが海外転勤となり、慌てて退職を希望。その後任に私が採用された。来月、先行して渡米している旦那さんを追って、アメリカはロサンゼルスに行くそうだ。いいよなぁ、ロサンゼルス。それだったら行くよね、うん。きっと誰もモザンピークとかアゼルバイジャンには行きたがらないと思う。

本当にそんなところに支社や営業所があるのかどうか知らないけどね。

モザンピークがアフリカのどっかにあることは知ってるけど、アゼルバイジャンがどこにあるのか知らないわぁ。

総務から退社する人の後任に私が採用されたのに、なに、これ。秘書ってさ。なにをするのかよくわからないのだけど。しかも、ぼっちゃまの……イヤな予感~。

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