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恋ノ病ハわんこナいとこ

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  • 作家朝陽ゆりね
  • イラストまろ
  • 販売日2015/5/1
  • 販売価格300円

人懐っこくて大型犬のような祥太郎は、絢子の家に居候中の大学生で、おまけにいとこ。絢子にしょっちゅうじゃれついては、叱られている。このなつき方は行き過ぎ? と思いはするものの、可愛いじゃないの、って感じ。だけど、友達に「その彼のこと、本気で好きなんじゃないの?」とツッコミを入れられてから絢子の悩める日々が始まった。年下で、大学生で、いとこ……こんな存在を好きになっていいの? いけない、いけない、やっぱりダメよ……そう思い、同期の遠藤君と食事に行ってみたりしたけど、なんかモヤモヤ。やっぱり祥太郎がいい……ようやく本心に気付いたのだけど……

第一章 いとこハわんこ
「絢姉(あやねぇ)、やっぱ、おっぱい、おっきいよね?」
「こら!」
いきなり後ろから羽交い絞めにして人のバストを掴むってどういう了見よ!
と、思ってはみるけど、実際に口に出しては責めない私こそどうよ!?
「やめてよっ。それ、セクハラよっ」
「あれ、僕でもセクハラになるわけ?」
「当たり前じゃない。放しなさい!」
「そっかなぁ~」
「あっ」
手を放すどころか、笑いながら顔をすり寄せたかと思ったら、頬にチュッて!
「祥太郎(しょうたろう)!」
「いいじゃない、ほっぺたぐらい」
「こら!――え?」
耳元でなんか呟いたみたいだったけど、聞こえなかった。
「祥太郎、聞き取れなかった。なんて言ったの?」
「ん? やっぱりおっぱいデカいって言ったんだけど」
「祥太郎!」
「あははははっ」
呑気に笑いながら手を放して、そばの椅子に座ったのは五歳年下のいとこの工藤(くどう)祥太郎(しょうたろう)、現在二十歳、理系大学生。専攻は私には難しくてよくわからない。
東京の大学に通うってことで上京してきて、我が家に居候してる。結婚して家を出た兄の部屋が空いているから、居候はぜんぜんOKなんだけどね。
しかも小学、中学、高校と、なぜか長期休みに入ったらホームステイのごとくやってきていたので、ぜんぜん、まったく、違和感がない。だから、大学通学に我が家を下宿先にしたいと言われた時も、家族全員「あ、そ、了解」という感じだった。
それにしても……よっぽど東京が好きなのね。
祥太郎は背が高くてガッチリ体型。しかも勉強も得意で将来有望。だけど……このなつきよう。頼り甲斐って意味ではいささか心配しているけど、家族は無用な心配だっていう。祥太郎はしっかり者だって。
……ホントかな? だって……今だって、ふわふわのしっぽを思い切り振っているのが見える気がするのに。
あーでも、問題は祥太郎のなつき度だけじゃない。この私もそう。五歳も年下のいとこに、バスト触られて、頬にキスまでされて、それを怒る訳じゃなく、仕方ないなぁ~とか思っているから始末に負えない。実際イヤじゃないから困ったものだわ。
「絢姉、コーヒー入ったよ」
「……ありがと」
祥太郎……こうやって眺めていると、グレート・ピレニーズ……って思わず言いたくなるのよね。
大型で穏やかて人懐っこい、真っ白のふわっふわの犬がいるじゃない? アレを思い出すのよ。
私にとっては、わんこ! って感じのいとこ君。
「仕事、忙しそうだね」
「まぁね。でも、今週までだから。来週からまた一ヶ月マシになる」
「だね、そういうサイクルだったね」
経理なんて、いきなりトラブル&ハプニングがなければ、毎月することは決まっている。ルーチンワークってこんなもんよ。けど、今は月末締めの時期だから、残業は仕方がない。そういうわけで、残業から帰ってきて、これから食事って時に後ろから羽交い絞めにされたんだ。まさしくレンジの前に立っている時に。
「でも、コーヒー入れるの早いわよ。これからって状態なのに」
「よく言うよ、冷凍のピザ、チンしてる人が」
「……」
スープでもいいじゃない……とは言わなかった。この時間だし、カロリーを考慮すればスープよりコーヒーのほうがいい。ほんのわずかな差であっても。
「ねぇ、絢姉、明後日の土曜、映画行かない?」
「……祥太郎と?」
「そ」
「行く相手が違うんじゃないの?」
「いないから誘ってる。それに友達と行ったら割り勘だけど、絢姉と行ったらタダだから」
「――」
世の中をうまくわたっているな、わんこ大学生。
「ねぇ」
「仕方ないわねぇ」
言いつつため息。ここで「カレシと出かけるからダメなのよ」と言えないから情けない。
それに……祥太郎は可愛い。
………………ダメよね、これ、やっぱり。
五歳も年下で、いとこで、大学生なのよ? やっぱり頑張ってカレシ作ろう。作るべき。
「どうしたの? ため息ついちゃって」
「……」
「絢姉?」
「別に。いや、週末にいとこと映画に行ってるなんてダメだよなぁ~と思っただけ。早くカレシ作らなきゃって思って」
「カレシが欲しいなら、僕がカレシになってあげるよ」
「はぁ?」
「俺も立派なオトコだから」
「バカ言ってんじゃないわよ、大学生。勉強しろ」
「はいはい」
祥太郎は大袈裟に肩をすぼめてみせると、席を立ってダイニングから出ていった。
だからさ、いくら〝オトコ〟だって言ったって、
五歳年下で、
いとこで、
大学生、
なんだよ、君は。私には文字通りに〝三重苦〟ってもんでね。
……はぁ。
ため息がつきないわ。

*****

金曜日、やっと週末。明日は祥太郎と映画。
会社の食堂でこの話を同期で仲よしの佐武(さたけ)倫子(りんこ)にしたら、ずーっと含み笑いをしてるのよ。ここがカラオケボックスだったらきっとお腹を抱えて転げまわっていると思う。
ちなみに倫子はとっても美人さんで、外見が麗しくて英語が堪能な人しかなれない我が社が誇る秘書室員という。ついでに言えば、秘書室の男性陣もすごいんだ。モデルか俳優かって感じで。
「そのニヤニヤ、やめてよ」
「だってさぁ。絢子(あやこ)ってばさぁ~おかしすぎるんだもん」
「どこがよ」
「全部よ全部。なにが、困ったヤツなの~、よ。ぜんぜん困った顔してないし」
反射的に両頬を手で押さえてしまった。
「マジ?」
「にやけて嬉しそう」
「やめてよっ」
「そのいとこ君、本気なんじゃない? いくらいとこ同士でも、そーいうスキンシップはしないと思うけど。私も母方のいとことはけっこう仲いいけど、ありえないわよ、胸触ったり、頬とはいえキスしたりするなんて」
「……でも、子供の頃からだもん。祥太郎が小学生の時からよ?」
「今は大学生でしょ? 自重するわよ。女の体、不用意に触ったりしないと思うけど」
「……」
「でもさ」
倫子は少しばかり身を乗り出した。声を低めて囁くように続ける。
「もし本気でカレシ作るつもりなら、同期の遠藤(えんどう)君が絢子のこと気に入ってるようだから、アプローチしてみたら?」
は? 遠藤?
「それってカジュアル部の?」
「そうよ」
「……ありえないんだけど」
「どうして? 遠藤君、背も高いし営業マンらしく爽やかでマメだし、いいんじゃない? 即交際かもよ?」
「いいよ、タイプじゃないから」
「そうなの? イケてると思うんだけど。ねぇ、じゃあ、絢子のタイプってどんな人よ」
「それは」
言いかけて脳裏に祥太郎の顔がドン!と。
ヤバいヤバい! それは違うって!
慌ててなにか言おうとして倫子と目が合った。ますます慌てる。だって妙な横目で見てるんだもん。
「なによ」
「やっぱり、そのいとこ君が好きなんじゃないの?」
「やめてよっ!」
と、叫んで慌てて手で口を押さえた。恥ずかしい……注目されてしまった。
「違うって」
「まぁいいけど。敦子(あつこ)がまた同期で集まろうって話していたから、ロマンス目指してみたら?」
「……はぁ。そういう倫子はどうなのよ」
「私? 私はいいのよ」
「どういいのよ。もういるってこと? 聞いてないぞっ」
「違うって。気になる人はいるけどってレベル」
「いるの? 誰? 誰?」
「気になる程度だからいっぱいいるのよ。あっ」
倫子が腕時計を確認して慌てて立ち上がった。
「ごめん、もう行くわ。じゃ!」
ってことは四十五分くらいかな。
秘書室は清潔をモットーにしているから、これから歯磨きと化粧直しに勤しまないといけない。大変だ。まぁ、それは私も一緒なんだけど、こっちは自分さえよければいいレベルだから、倫子みたいに慌てることはない。ランチタイム終了一〇分前を示すメロディが鳴るまでゆっくりさせてもらう。
しかしなぁ~カレシかぁ。遠藤君? うーむ。
と、頭の中で浮かんだ人物が少し先で実体化した。トレーを返却口に戻しているのは先程から話題の同期、遠藤(えんどう)新(あらた)。背も高いし、顔もそこそこだし、営業マンだけあって話術は巧みで面白く、気遣いもできる優良株であることは確か。その分、狙っている者もいるってわけだけど。遠藤君にまつわる話はちらほら聞くものの、私の分析では、彼にはカノジョがいる感じなのよね。いないなら、好きな人がいるか。
……まぁ、当たらないのが私の勘なのだけど。

――もし本気でカレシ作るつもりなら、同期の遠藤君が絢子のこと気に入ってるようだから、アプローチしてみたら?

倫子の勘は当たるのかな? さっきの言葉はちょっと気になるわ、やっぱり、女として。
そんなことを考えていたら、その遠藤君と目が合った。
反射的に会釈すると、遠藤君がこっちに向かって歩いてきた。
「おつ」
「お疲れ様」
「一人?」
「倫子が戦闘準備に入ったからね」
「佐武、秘書室だもんな。そりゃ準備は怠れないだろうな。で、吉(よし)高(たか)はここで座ってていいわけ?」
「いいのよ。買い手のいないトコで売り込んでも無駄な努力だから」
私の返事に遠藤君が、ははっと笑った。
「そうなの? じゃ、俺が買うかもって言ったらプロモしてくれる?」

――もし本気でカレシ作るつもりなら、同期の遠藤君が絢子のこと気に入ってるようだから、アプローチしてみたら?

マジですか?
「どうよ」
「……あ、そうね……でも、私は会計係だから、プロモとか経験なくてうまくできる自信がないわ」
「じゃあ、こういうのはどう? 今夜、仕事が終わったら居酒屋で練習ってのは」
本気?
「行け付けの店があってさ、うまくて、焼酎が最高なんだ。お薦めだからさ」
「……そう? じゃ、せっかくだから、行こうかな」
「決まり。七時にエントランスで」
「うん」
遠藤君はニコニコと笑うと、爽やかに歩き去っていった。
……え。ホントに? これって、デートの約束じゃ……。
「うわ」
思わず声が出てしまった。
なに、この急展開。我ながらビックリ……。
とはいえ、緊張とともにワクワク感が湧き起こる。やっぱり、これって、ロマンスの始まり?
そういうわけで、お母さんに夕食がいらないメールを送り、午後の仕事に打ち込んだ。緊張もあって、なんだかつまらないケアレスミスをやらかしつつも定時で終わらせ、さっさと席を立つ。
着替えて、化粧直しをして……待ち合わせの時間まで近くの書店で時間を潰そうと考える。人気の本をまだ買っていなかったから、それを手に入れようと思って。
スマホが震えていることに気づいた。
見るとメールマーク。差出人は祥太郎だ。

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