夢中文庫

ゆっくり激しく愛して~マリッジ☆ラブ~

  • 作家朝陽ゆりね
  • イラストまろ
  • 販売日2016/02/17
  • 販売価格300円

広告代理店に勤める園子は自分に自信がない。このまま恋愛もせず、結婚もしないで終わるのかなぁと思っていたら、上司に紙媒体で活躍している同社のクリエイター・准平を紹介される。半年間の交際を経て結婚することに。だけど大恋愛をしたわけでもなく、最初から結婚前提の交際でいわゆるお見合い結婚したことに戸惑いが。夫婦として結ばれてもなんだか燃え上がらず、ますます心は揺れる。そんな時、准平が綺麗な女性と二人きりで会っている姿を目撃して……。結婚から恋が始まる。

「え、っと、あの……すみません」
目の前に座る男性に対し、どう接していいのかわからない。
二十七歳にして、男性ときちんとした交際をしたことがなくて、キスの経験もなくて、であれば当たり前だけどセックスの経験もなくて、女としてはきっとかなり残念だと思う自分自身としては、なぜこんな状況になっているのか困惑中で、おどおどと情けなくも挙動不審状態に陥っていた。
「そんなに緊張しなくていいですよ」
「……は、い」
そうはおっしゃっても……。
あなた様ご自身が“丁寧語”でしゃべっているじゃないの。
「折笠(おりかさ)部長ってけっこう世話焼きで、いろいろやってるみたいだから、きっと気楽に構えていると思います。嫌ならそう言ってください。そのあたりは気兼ねする必要はありませんし、むしろそのほうがいいと思います」
「……そう、ですか」
そう言ってもらえたら少しは気持ちも楽なのだけど、いきなりこういう場になってしまって驚いている私とは正反対に、落ち着いていて状況を完全に把握していると見受けられるあなた様はどう考えているのでしょうか?……とは言えないから脂汗が噴きだしてくるのを感じながら黙っている。でも、やっぱり気になるから……。
「あの……」
「はい」
「長谷川(はせがわ)さんは……そのぉ……おイヤじゃないのですか?」
人が介しているのに、露骨すぎたかな? 直接聞いちゃまずかった?
……でも、微笑んでいるから、大丈夫っぽいような。
「僕はイヤじゃありませんけど」
「……そうですか」
どうしよう……。
でも……。
逃げ出したくなるほどイヤでもないから迷ってしまう。とはいえ、このままこの人とゴールインしてしまうのも、なんとなく抵抗が。
あぁ、私、接続詞ばっかりだ。
「僕は今三十五で、来月には六になる。今の仕事に集中している以上、上手な恋愛って無理だと思っています。三原(みはら)さんが僕のような男でも交際してみようと思ってくださるなら、折笠部長の善意にも甘え、様子を見させていただけたらと考えています」
ということは、上司紹介のお見合い状況とわかってやって来たということね。私とは違って。
「……そう、ですか」
あぁ、ヤだ、同じ言葉しか出てこない。
どうしよう。
「これ、僕の携帯番号とアドレス。ご存知だと思いますが、なかなか自由な時間が取れませんので、遊びにいくのもままならないかもしれません。それでも僕との交際が嫌でなければ今週の日曜日、映画でも観にいきませんか?」
「は、い」
差し出されたのは名刺。でも、これ、仕事で使ってるものじゃ……。
「公私同じ番号を使っています」
「そうなんですか」
しっかり読まれてる。
「負担をかけたくないので、出かけるなら後でここに連絡をください。見合わせたいということならスルーしてください」
いえ、行きます……と言いかけたそこへ、彼の携帯が鳴った。
「すみません、ちょっと失礼します」
私がうなずくと、長谷川さんは携帯に出た。
「長谷川です。え? リテイク? あれがですか?……そうですか。意外だな。するっと通ると思ったのに。え? いや、そうは言いません。先方だってコストをかけているんですから、好みで話してなどいないと思います。先方の気持ちを掴んでいなかったってことなので。今から戻ってやり直します」
そう言って切ると、私に顔を向けた。
「すみません。今朝出したポスターの提案、クライアントからリテイクがあったそうなので、今から会社に戻ります」
「こんな時間から?」
お酒も飲んだのに?
「納期が迫っているので」
「……そうなんですか……大変ですね」
「よくあることですから」
「あ、あの」
立ちかけた長谷川さんになぜだかとっさに話しかけていた。
「はい」
「そうは思いませんっていうのは、どういう意味なんですか?」
思わず言ってしまった質問。長谷川さんは苦笑を浮かべた。
「好みで選んでいて、よさがわかっていないんじゃないか? って、クライアントをけなすものだから。まぁ、確かに往々にしてそういうことがあるんですけど、それを言っては話にならないので。本当にすみません。ここで失礼します。では」
長谷川さんは清算書を手にして去っていった。
え、あっ、なにをぼんやり見送っているのよ。私も帰るわ!
慌てて立ち上がり、私の分まで出してもらったお礼を言って、別れた。
はぁ……なんだか、緊張した。それでもって、あの人と結婚するかもしれないと思うと、なんだか複雑な心境なんだけど……。

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