夢中文庫

薫る雨 紅孔雀2 ~祠☆闘士シリーズ~

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  • 作家朝陽ゆりね
  • イラストもなか知弘
  • 販売日2015/12/15
  • 販売価格700円

「この世界に引き込む僕を許してほしい。だけど必ず守るから傍にいてほしい」一流のカメラマンを夢見る彩羽は、有慶と知り合って以降、彼の兄康匡や裏同業者の妹怜柯といった世界的デザイナー、更にそのツテも紹介してもらって嬉々とする。ある日俳優桜塚の紹介で富士山へ取材に行く大仕事が舞い込んできた。有慶と共に神道の世界で生きるか迷う彩羽は、桜塚に言い寄られ、挙句樹海で悪霊に襲われる。彩羽をこの世界に巻き込みたくないのに手放せない矛盾に悩んでいた有慶だったが、斎王の騒動を経て『朱雀』の頭領となり彩羽を守り抜くことを決意した。華麗に応える『炎劉』と共に。役割と夢に揺れる二人の未来が重なる感動のクライマックス!

~プロローグ~
 ししおどしの鋭く澄んだ音が響く。広い和造りの庭園に身を置き、吉武知里は美しい風景をゆるゆると眺めていた。
 ここに来てそろそろふた月。全身を包んでいた倦怠感が少しずつだが薄まり、寝ていることが苦痛になってきた。
(綺麗……)
 整えられた日本庭園は彩る花々だけではなく、木々の緑がまた深く鮮やかに映えて美しい。なにより漂う空気が違う。張り詰め、研ぎ澄まされているようで、それでいて優しい。澄んでいるとは陳腐な感想だが、それ以外の言葉が出てこない。
 目を閉じ、鼻からゆっくりと大きく息を吸い込むだけで身の内側が清められていくような気がする。知里は教わった通りに、可能な限りゆっくりと鼻から息を吸い、同様にゆっくりと口から吐き出して深呼吸をした。
(気持ちがいい)
 今度は目を開け、広がる彩りの遠くを見つめる。
(ホントに気持ちがいい。こんな世界があるなんて。私、ずっとここにいたい。それに……)
 脳裏に女の姿が蘇った。知里はその姿を丁寧に思い出し、そして恋する乙女のように頬を染めて雲一つない空を見上げた。
(イロハの傍にいて、イロハを守らなきゃってずっと思い続けてた。それが私の使命──生まれてきた意味だって。だけど、一瞬で変わってしまった。お姿を見た瞬間、私の中のなにもかもが変わってしまった! 信じられない。あんな凄い方がこの世にいらっしゃるなんて)
 青一色の空に薄く張った雲が一筋流れてきた。知里の目がそれを捉え、追う。
(ごめんね、イロハ。私……)
 一筋の涙がつと流れ落ちる。心が震える。
(ここにいて、斎王様のお傍でお仕えしたい。斎王様のためなら死んでもいい。だから、ごめん。もうイロハのもとへは帰れない)
 そんな知里はふと人の気配を感じて振り返った。
「お邪魔でしたか」
「いいんです。違うんです。私、斎王様と出会えたことが嬉しくて」
 知里に声をかけた三十前後ぐらいの青年はうっすらと微笑んだ。立ち居振る舞いがしなやかで美しい。それは袴姿だからだろうか。さらに穏やかな雰囲気がますます気品を感じさせる。
 この青年とはじめて会った時、知里は日野原有慶(ありよし)という名の不思議な男を思い出した。霊力を操り、悪霊と戦う、術師と呼ばれる霊能力者だ。その男も神道の神官だった。神官という職業は、澄んだ風を思わせるような爽やかで穏やかな雰囲気を身につけるものなのだろうか。
「そうですか。それは本当にようございました。日野原さんに感謝、ですね」
「はい!」
 元気な知里の返事に、今度こそ明確な笑みが青年の顔に浮かんだ。
「昼食が済みましたら、奥の宮へご案内をと思います。体調はいかがですか?」
「すごく調子がいいです。でも、あの、奥の宮って、森の中の?」
「えぇ。中に立ち入ることはムリですが、鳥居の前でなら大丈夫です。森の中の空気に触れれば、どれぐらい回復しているのかわかりますから」
「もうすっかりって思うんですけど……」
 青年は一段穏やかに微笑んだ。
「それが勘違いであることを理解するためにも、森に入ることは必要でしょうね。まずは昼食に致しましょう。斎王様がご一緒にと仰せです」
 その瞬間、知里の顔が歓喜に染まった。
「斎王様とご一緒できるのですか? わっ、嬉しい!」
「よかったですね。では、まいりましょうか」
 青年に導かれ、知里は部屋を後にした。

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