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愛しあってますっ?

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  • 作家あゆざき悠
  • イラストまろ
  • 販売日2016/02/05
  • 販売価格400円

「好きだよ、桃。俺、半端な愛し方はできないから、覚悟しろよ」――就職先の上司は憧れの幼馴染みの雪平君!? 突然の再会に驚き、喜ぶ桃だけど、仕事では接点がなくてガッカリ。歓迎会の夜、ある出来事をきっかけに彼の家に居候することになって急接近! そんな中、雪平君にお見合い話が持ち上がって……思い切って告白したら「「俺も――好きだよ」と、恋人同士に。ラブラブな生活が待っていると思っていたのに、社内恋愛禁止だから職場では上司と部下の関係。しかも、お見合い相手は、本部長の娘で超美人。自信の無い桃は社内の噂話にモヤモヤ……私とはしないのに、あの人とはデートするの? 本当に好きって気持ち、信じてもいいですか?

《再会》
 四月、小山内桃(おさないもも)は晴れて社会人になった。桜の花びらが舞う中、真新しいスーツに身を包んだ桃は急ぎ足で会社に向かった。
 配属された部署は総務、桃は時間よりも少し前に部署に到着した。
 桃と一緒に総務に配属された新入社員は、全部で五人らしい。朝礼の時にそれぞれが自己紹介をする。
 自分の自己紹介が終わるまで緊張していた桃は、周りがまったく見えていなかった。ようやく顔を上げ、先輩たちの顔を見渡した。
 正面に立つ一人の男性に桃は目を止めた。
(あ、あれっ? あれれっ?)
 どこかで見た顔だ。いや、夢にまで出てきたことがあるその顔に、桃は驚くばかりだ。
「永田雪平(ながたゆきひら)です」
 総務の課長という役職と共に、その名前を聞いた瞬間だった。桃はびりりっと雷に打たれたような衝撃を受けた。
(う、嘘っ? 雪平くんっ?)
 桃には五つ年上の兄がいる。今は東北の大学で微生物の研究に勤しんでいる兄だ。兄の幼馴染みに淡い恋心を抱き、憧れていた。いわば、桃の初恋相手が永田雪平だった。
 兄が実家から離れてしまうと、雪平と会う機会にも恵まれなかった。こんなところで再会するとは思いもしなかった。
 以前よりも少し鋭さを増したダークブラウンの吊り目、フレームレスの眼鏡を掛けたシャープな面立ち。神経質そうな雰囲気が漂う雪平だが、笑うと秀麗な顔がふにゃっと崩れる。その瞬間が、たまらなく好きだったのだ。
「小山内の妹──だよな?」
 昼休憩のときに雪平に声を掛けられた桃は、笑みを浮かべる。社員食堂でトレーを持って並んでいると、目の前には雪平がいた。
「はい、桃です。覚えていてくださったんですか?」
「小山内は元気?」
「はい、東北で微生物の研究をしています」
「あぁ、やっぱりあの教授に付いて行ったんだな。あいつの微生物愛は相変わらずすごいんだな」
 雪平が苦笑を浮かべ、期待していた笑顔とは違うことに気付いた。雪平はトレーを持って別のテーブルに行ってしまった。追いかけることもできず、桃は総務の女性社員たちの間に招かれるように入った。
「小山内さん、さっそく課長に目をつけられた?」
「えっ? 何ですか? それ」
「厳しいわよぉ。永田課長」
「えぇぇっ?」
 兄の幼馴染みだと言うつもりだったが、つい言いそびれてしまった。
「神経質っていうか几帳面っていうか」
「そうそう、一つ一つが細かいの。でも仕事はすごくできるし」
「私生活は謎だし?」
 女性社員たちの話を聞きながら、桃はちらっと横目で雪平を捉えた。確かに、他の社員と食事をしていても笑う姿は見受けられない。
(お兄ちゃんと一緒にいるときは、ずっと爆笑しているような人だったのになぁ)
 桃にも優しく、一時は雪平が兄だったら良かったのにと思うほどだった。
 午後になると、桃は先輩に仕事を教わる。総務の仕事はいろいろあり、分担されていた。
 桃に与えられた仕事は備品担当だ。備品担当には主に三つの仕事がある。一つは各部署を巡る、いわゆるご用聞きだ。もう一つは備品庫の在庫チェック、そして三つ目が納品チェックと振り分け作業である。
「小山内さん、ご用聞きに行こうか」
「はい」
 先輩と一緒に各部署を回り、名刺の発注や社名入りの文房具の発注を受ける。全部の部署を曜日ごとに回り、夕方にはその日の発注を終わらせる。ご用を聞きながら、頼まれていた備品を届ける仕事も同時に行う。カートに乗せた段ボールの中から、間違えずに配るのはなかなか難しいことだった。
(うぅ、名前が書かれていても顔がわからないんだもん)
 先輩に聞きながら、どうにか一日目の仕事を終わらせた。
 入社して数日、桃は足がパンパンだった。筋肉痛との付き合いはあったが、雪平との接点はまったくなかった。声をかけられたのはたったの一回だけ。
(それでも顔が見られるだけで、幸せなんだけどっ!)
 桃は憧れの人に毎日会えるだけで、幸せだった。
 入社して二週間ほどが経った金曜日のことだ。
「毎年恒例の歓迎会を行います」
 数日前から言われていた花見を兼ねた歓迎会だ。退社後、みんなでぞろぞろと居酒屋に移動した。
 桃が務める会社は駅からの桜並木が圧巻だったが、この桜並木よりも素晴らしい場所があるらしい。
 駅を越え、川縁にある居酒屋に向かう。居酒屋は三階にあり、その宴会席から見下ろす川と桜の木々は想像を超える。
「うわ、すごいですね」
 窓で遮られているのが勿体無(もつたいな)いのだが、こんな光景を桃は見たことが無かった。
「この時期、この居酒屋はなかなか予約できないのよ。うちは毎年、予約しているからねぇ」
 自慢げに先輩が言い、桃はころころと笑いだした。
「桃ちゃんは笑顔が可愛いよね」
 女性社員から桃ちゃんと呼ばれるようになっていたが、相変わらず雪平とは接点が無いままだった。
 乾杯と叫んで呑むお酒の美味しさを桃は初めて知った。
(仕事あがりのビールが美味しいっていうけど、本当だなぁ)
 桃は普段、まったくアルコールを呑まない。大学の時もサークルの飲み会で少し呑む程度だった。
 しかし、この日は違う。先輩たちの陽気な話に盛り上がり、ついお酒が進んでしまった。
(う、やばい──目が回る)
 二時間ほどの歓迎会が終わり、居酒屋の外に出た桃は立っているのが精一杯だった。
「危ないな。家、どっちだ?」
 誰かの声に、桃は指を差した。
「同じ方向だから、送っていく」
 その声に桃はハッとした。
(えぇぇっ? ゆ、雪平くんっ? じゃなくて、課長?)
 心の中では常に雪平くんと呼んでいるのだが、さすがに口に出したことはない。
「い、いえ、大丈夫です。課長」
 平静を装うが、ふらつく足元は隠せない。
「ついでだからな。じゃ、お疲れ」
 みんなと別れ、雪平に腕を引っ張られるように歩いた。

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