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【逢見るいベストセレクション】イケナイ恋の檻にあまく誘い込んで

  • 作家逢見るい
  • イラスト風凪ひかり
  • 販売日2017/10/31
  • 販売価格600円

そんなに頑固ならこの辱めもどうってことないだろ?――こんなふうにされるなんて考えてもみなかった、いつもみたいに「いいよ」って言ってくれると思ってた。おっとりしているダメなOL、アブないオーディションに挑戦しようとする売れない声優、全てを諦めて流されるままの教師、そして幼い頃からの恋を胸に秘めた女子大生。彼女たちには好きな人がいるから、彼に愛されたいから……その気持ちで彼にぶつかっていったら、彼はドSな本性を見せ始める。経験したことのない快感にに喘ぐ彼女たちは、それでも彼を受け入れて。「本当は気持ちイイんだろ?」そう囁かれたら、もう抗えない……!純情な恋心をサディスティックに擽られる4編収録!!

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「聞いているのか、田口(たぐち)」
「……は、はい! すみませんっ」
 深々と頭を下げてから、わたしは半分泣き出してしまいそうな顔をして、瀬野(せの)課長を見上げた。
 巻き込まれたくないのだろう、シンッと静まり返ったオフィスでは、誰もが素知らぬ顔をして仕事を続けている。
 瀬野大介(だいすけ)、三十二歳。
 大手老舗文房具メーカー、株式会社・丸筆文具総務部システム管理課の、鬼の課長様である。
 ITを最大限活用して業務システムの効率化を図る総務部システム管理課。課が新設されたのは今から二年前、瀬野課長がまだ三十歳になったばかりの頃だ。その歳での課長への昇進は異例。それほどシステム構築責任者としては優秀で、信頼のある人だということだろう。
「何度言ったらわかるんだ? 接待での経費は、今月から一回一万までだと言ったはずだ。一万円超えの経費は、おとすな!」
「~~っ、はいっ」
 ぴしゃり、冷たい声で叱り飛ばされ、わたしはビクリと肩を揺らした。
 ストレートの柔らかそうな黒髪に、シャープな輪郭、涼しげな目元。身長は百八十近く、しっかりとした骨格をしている。
 酷薄(こくはく)そうな雰囲気を身に纏った瀬野課長は、それでも当然のように、女子社員からモテる。今だってわたしが叱られてびくついているというのに、辺りにいる女子社員たちが、ここぞとばかりにチラチラと瀬野課長をチラ見しているのが感じられる。
 そういうわたしだって、人のことは言えないのだけれど……。
「とりあえず、処理する前で良かった。俺が確認しなくても済むぐらいに、完璧にこなしてくれ。頼むから」
「す、すみません。本当に、申し訳ありません」
 反省、しなければならない。それなのに瀬野課長に見据えられると、思わずわたしは頬を上気させてしまう。
 年齢の割に若く見えるその甘いルックスももちろんそうだが、低い声で叱られ、冷めた目色で見下ろされると、何だかゾクリとする。
(わたしってば、叱られてドキドキするなんて、不謹慎だわっ)
 そうは思っても、瀬野課長がイケメン過ぎるのもいけないのだ。
「本当にわかっているんだろうな?」
 わたしを見下ろす瀬野課長の目が、不審そうに細められる。まさか胸の内を見抜かれたのではあるまいかと、わたしはなおさら身を縮め、深く頭を下げた。
「は、はい……っ」
「そんなだから、営業課の人間に舐められるんだぞ」
「は、はい……っ、本当に、申し訳ありませんっ」
「以後、十分に気を付けるように!」
「……はい、き、気を付けますっ……!」
 モジモジとするわたしに釘をさしてから、瀬野課長は自分の席へと戻っていく。
 その大きな背中をしばらく見つめてから、わたしは気が抜けるようにすとんと、自分の席へと腰をおろした。
 “そんなだから”と言われるように、本当にわたしは、何をやらせても少し抜けている。
 現に営業課の人から渡された落とせないはずの経費を、うっかりしっかり落としてしまいそうだったし。昨日は数字を間違えて、計算書を百部刷り直した。
 身長が低くて童顔のせいか、おっとりとしていて断れない性格のせいか。わたしが営業課の男の子たちにからかわれたり無茶なお願い事をされたりするのは日常茶飯事で、ほぼ日課のようになっている。それを瀬野課長も、知っているのだろう。
 からかわないでください! 営業課の男の子たちに、そう一言怒ったらいいだけなのに。それが出来ないところもまた、わたしらしい。
 社内文書の作成、管理、保存から、来客や電話の対応、社員の経費精算などを行う総務部は、いわば老舗文具メーカーである我が社の「何でも窓口」のような部署である。
 わたしがここに勤め始めたのは、いまからちょうど一年前、二十三歳のときだった。
 奇跡的に採用されたのは、わたしの見た目や雰囲気が、どこからどう見ても真面目で大人しそうに見えたからだろう。
 そうして奇跡的にクビにされずに勤め続けていられるのは、出来のいい瀬野課長のような人が上司にいるからだ。

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