夢中文庫

もう一度、恋をはじめます

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  • 作家茅原ゆみ
  • イラスト中田恵
  • 販売日2016/12/07
  • 販売価格500円

高校生の頃、平本理央は初めての恋を知った。相手は、駅のホームの向かい側に立つ青年、榊春朋。些細なことで言葉を交わすようになった二人は、春朋からの告白を機に付き合うように。しかし二人は、気持ちのすれ違いから別れてしまう。それから八年後、出版社の文芸部編集者となった理央は、飛ぶ鳥を落とす勢いの人気作家、坂井晴の担当を任される。梅雨空の中、坂井に会いに行った理央の前に現れたのは、なんと春朋だった。未だに春朋を愛していた理央は、突然の再会に激しく戸惑う。しかし春朋は人が変わったように冷淡で、酷薄な人物となっていた。そんな彼に、同居人の幼馴染みを今彼だと誤解された理央は、春朋に抱かれてしまうが――。

──理央りおの王子様は、駅の向かいのホームにいた。
 手足の長い長身を学ランに包み、涼やかな目元に鼻筋の整った理知的な顔をした彼は、よく似合うシルバーフレームの眼鏡をかけていた。指の長い綺麗きれいな手にはいつも文庫本が載せられていて、背筋がスッと伸びた立ち姿で本を読む彼は美しいほどだった。
 ブレザーの制服を着た理央は、県内でも有数の進学校に通う彼を、向かいのホームからいつも眺めていた。あの詰め襟は、国立大学進学率が県内で一位の学校のものだ。
 頭がいいんだな……というのが、第一印象。
 けれど毎朝駅の向かいに立つ彼を見ているうちに、彼の造作が美しいこと、そして自分と同じ読書が趣味であるらしいことに気づいた。
(まるで、絵本に出てくる王子様みたい……)
 同じクラスの男子が白馬に乗って現れたら笑ってしまうが、彼が白馬に乗って現れたとしても、きっと笑わない。むしろ見惚みとれてしまうに違いなかった。
 高校一年生になったばかりの理央は、すっかり彼に心奪われていた。
(なんていう名前だろう……。年はいくつかな?)
 駅のホームの先頭車両側。赤くなった顔を俯うつむかせながら、チラリチラリと彼を見る。しかし時間になって電車が来てしまえば、胸のときめきも電車と一緒に去っていく──。
(でも、今日も王子様が見られた……っ)
 ささやかな幸せとともに理央の高校生活は始まった。
 奥手で、これまで男の子を好きになったことのなかった理央だが、これが恋であることは自覚していた。初恋だった。
 桜の花びらが風に舞う季節。
 空は澄み、雲一つない。
 理央は大好きな春の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 赤くなった頬の熱を冷ますために。
 そして片想いで痛む胸を、少しでも慰めるために──。
「あれ? ないっ!」
 王子様に片想いを始めてしばらく経った頃。理央は自分の学生鞄にくまのキーホルダーがついていないことに気がついた。
「やだ、失くしちゃったのかな?」
 最寄り駅の改札口。放課後、友人たちとお茶をして帰ってきた時だった。
 日も暮れかけた薄暗い中を、必死になってくまのキーホルダーを探す。
 先日行ったオリエンテーションで、仲の良い友人とお揃いで買ったものだ。だからくまのキーホルダーは、友情の証といってもいい物なのだが……。
「どうしよう、本当にどうしよう……っ?」
 涙目になって探していると、黒い制服の袖から覗く大きな手が、失くしたと思っていたキーホルダーを差し出してきた。
「これ、君の?」
「──えっ?」
 長い髪を耳に掛けながら顔を上げると、目の前には王子様が立っていた。
(お、王子様っ!?)
 ドッキンと大きく心臓が跳ねて、理央は目を見開いたまま固まってしまう。
「そこに落ちてたんだけど。探してるみたいだったから……」
 初めて聞いた彼の声は想像していたよりも低く、そして柔らかくて優しいものだった。
「あ……ありがとう、ございます……」
 あまりのことに煩いぐらい鼓動が速まり、頬も一気に熱くなった。
 キーホルダーを受け取る時、彼の指先が手の甲に触れて飛び上がりそうになる。
 挙動不審な理央を不思議そうに彼は見ていたが、小さな笑みを一つ残すと立ち去ろうとした。
「あ、あの……っ!」
 内向的な自分の中に、彼を呼び止めるだけの勇気があるなんて知らなかった。
「お、お名前……。お名前を訊いてもいいですかっ?」
 しかも名前を訊ねるほどの大胆さがあることも──。

ご意見・ご感想

編集部

あの恋がもう一度やり直せるとしたら──?

出版社に勤める編集者の理央ちゃんが、先輩から引き継いだ小説家は
期待度No.1の新人作家「坂井晴」先生。
憧れの作家の担当になれる期待と不安を抱えながら、
いざ、坂井先生の元へ……!

しかしそこで出会ったのは、なんと高校時代の元カレ・春朋さん。

過ぎ去った日の甘酸っぱい思いを思い出す理央ちゃんですが、
すでにそれは終わった恋……それ以降は
もう恋はしない、そう決めていたのに──

封じたはずの恋心がひとつ、またひとつと蘇る…
しかし、抱えた秘密が誤解を呼び、お互いの気持ちがまたすれ違っていく…
過去の思い出と今の想いが交差する…しっとり切ないラブストーリー
ぜひご覧ください。

2016年12月7日 1:04 PM

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