夢中文庫

トモダチじゃイヤ!~おいしい恋愛はじめました~

  • 作家江原里奈
  • イラスト乃里やな
  • 販売日2018/6/1
  • 販売価格500円

過去のトラウマで男はコリゴリだと思っている地味系OL・臼倉有希。結婚にも恋愛にも無縁のまま三十路を迎えた彼女の唯一の趣味は「酒」! ある夜、酔っ払って転んだ彼女に声をかけるイケメン男性が……それは何と、エリートに進化していた大学時代の同級生・北沢君だった! 食事の好みが同じと知った二人は、自炊メインのお家デートを重ねるうち距離が縮まり、あるとき一線を越えてしまう。北沢君と過ごす夜は甘く刺激的で、生まれて初めての経験ばかり。だけど、北沢君からは告白されていないし自分もしていない。そんな微妙な状況に悩みながら、彼との関係を受け入れていた有希だったが、あるきっかけでそのバランスが崩れて……!

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プロローグ
「マスター、おかわりちょーだい!」
 女性の声が、BGMを遮った。
 グラスをカウンターに乱暴に置くと、店内にいる周りの客の視線が一気に、彼女の上に突き刺さった。
 薄暗い店内にも、その女性が美しい容姿をしていることはわかった。
 背中にさらりと流れるストレートロングの黒髪、着ているのはベージュのニットのワンピース。平凡ではあるがシンプルな装いだからこそ、ほっそりとした中に凹凸のあるスタイルをしているのがよくわかる。店の中には、彼女に見惚れる男性客もいるほどだ。
 他の客の酒を作っていたマスターは、彼女の方を振り向くと
「有希(ゆき)ちゃんってば、今夜はさすがに飲み過ぎよ! そろそろ帰ってちょーだい!」
「ひどーい、人を厄介者にして……」
「厄介者じゃないわよ。有希ちゃんを思ってのこと! まだ終電あるんだから、さっさと帰りなさいよね!」
 歯に衣着せぬ物言いとサバサバしたオネエキャラを気に入って、このバー『ムーランルージュ』に通い詰める常連客は多い。
 しかし、今夜ばかりはマスターがいつもよりも彼女に対しては冷たいようだ。
 まぁ、それも仕方ないだろう。客が少なければ何時間でも話し相手をしてくれるマスターだが、週末は飲食店にとっては稼ぎ時だ。常連客の愚痴を何時間も聞かされて、売上が減るのはまっぴらだと思っているのかもしれない。
 そんなマスターに、有希と呼ばれた美人は泣きそうな表情になる。
「もぉ、なによ、マスターまで」
 彼女は唇を尖らせて、札をテーブルに置く。
 覚束ない足取りの彼女に、マスターはさすがに心配そうだ。
「テキーラ飲んでるんだから、いくらアンタがお酒強くても危ないわよ。タクシー呼んであげよっか?」
「だいじょーぶ、自力でかえりますよーだ」
 ひらひらと手を振りながら、彼女は店を後にした。
1.あこがれの同級生とまさかの再会!
 ──私は、臼倉(うすくら)有希。同じ会社で十年以上働いている社畜OLだ。
 大学は経営学部に在籍し、広報部門を希望して入った会社だが、大企業総合職の宿命ゆえ希望通りの職場に行ける気配はない。
 コールセンターに五年、営業所の窓口対応に五年。さすがにクレーム対応に心が折れて辞表を机の中に潜ませていた効果か、去年ようやく異動が出た……が、これまでと、同じ営業所のイベント企画部門という地味な辞令だ。
 はたから見ればショボい部署だけど、これまでより希望に近い仕事だし、日々クレームで追われていた頃に比べたら百万倍マシ。そう思ってみるけど、本音を言えばもっとカッコいい部署で働きたかった。
(……本店には、いつ行けるのかなぁ? 一生行けないのかなぁ……)
 と、思うと切なくなる。
 本店はできたばかりの超高層ビルの上にある。築四十年のシケた自社ビルで長年働いている私には遥か遠い存在だ。でも、今の仕事で認められたら次は行けるかもしれない、って自分で自分を慰める日々。
 今の職場の居心地はそんなに悪くない。チームの雰囲気もいいし、仕事もそれなりにやりがいがある。
 地域イベントがあると休日勤務に駆り出されるし、事あるごとに地域のお偉いさんとの飲み会にも参加しなきゃいけないけど、それは割り切って盛り上げ役でがんばった。
 だから、この職場は私にとってようやく手に入れた小さな楽園。
 そう、昨日まではそう思っていたのに──。
 うちの会社では、基本的に男女の待遇差はない。同じ職種で入社すれば、同じだけの給料がもらえて昇進や昇級のチャンスも同じように与えられている。
 ……が、世の中の流れで「女性管理職」を増やすと会社側も言っているのに、私の昇進はとても遅かった。同期の男どもはほぼ全員が主任になって二年経った頃に、ようやく昇給辞令をもらった。同期でエリート街道まっしぐらな奴は、去年副長に昇進しているっていうのに……。

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