夢中文庫

強引な王様に拐かされて、魔女ですが王妃になりました

  • 作家深森ゆうか
  • イラスト夜咲こん
  • 販売日2017/08/18
  • 販売価格300円

森で一人暮らしている出来損ないの魔女フレアは、ある日、熊に襲われている若者を見つけて助けることに。礼がしたいと言う若者に不要と断るフレアだが、押し問答の末に若者が放った言葉は「俺と結婚するか!」という意味不明のもので!? 「はぁ?」と驚くフレアを半ば強引に城に連れて行ってしまったこの若者は自国の王カロルだった! 王妃なんて無理! そう主張するものの、カロルは意に介さず自分の都合のいいようにフレアを翻弄し、ついには……! 「だって俺をもらってもらわないと」とあっけらかんなカロル。ところが魔女のフレアには魔女ゆえの秘密があって、子どもを宿してはいけない身で……!?

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◇第一章 人生最大の幸運日
 一人の乙女が、鼻歌を口ずさみながら足取り軽く森へ入っていく。
 乙女がたった一人、森の奥深く入っていくのは奇妙な光景だ。
 実は彼女──魔女なのだ。
 師匠から譲ってもらった森の中の小屋で、一人で住んでいる。
 このご時世、若い魔女は普通、街や村に住み着くが彼女には理由があった。
 それは……
「とにかく家賃はただ!」
 である。
 彼女の師匠が小屋を譲ったのは、この弟子が独り立ちしたら「魔女として生活に困窮する」と予想してのことだ。
 せめて住むところくらいは確保してやろうという、親心にも似た優しさであった。
 しかし、当の本人は魔女としての才能云々に関しては深く悩む、ということはなかった。
「なんとかなる!」
 という楽観的で前向きすぎる思考が師匠をより不安にさせて、こうしてわざわざ住む場所を提供させたのかもしれない。
 そして、独り立ちした彼女はこうして一人、森の中でのんびりとスローライフを送っていた。
 そんな彼女の名前は──フレアという。
 シャランシャラン、と杖の先の加工した白蝶貝が、歩くたびに透明な音を空気に響かせる。
 上機嫌の彼女は、その音に乗せて歌っているのだ。何せ──
 薬屋が、自分の言い値で薬を買い取ってくれた。
 しかも、いつも閑古鳥の占い相談でも一気に五人も客がきた。
 奮発して買った鶏肉に、卵のおまけがついた。
 マントを新調しようと買った生地が少し足りないからと、半額にしてくれた。
(今日は一生に一度、あるかないかの吉日と出たけど、私の占い当たるじゃない!)
 フレアにとって、一生に一度の幸運に恵まれたと思っていた。
 これで幸運を、すべて使い切った。とそう本人は思っていたが──天の神はまだ、最大級の幸運をフレアに落とそうとしていた。
「……あっ」
 自分が歩く先に何か異変を感じ、フレアは足を止める。
 杖にぶら下げておいた買い物袋を下ろし、杖を構えて前へ進む。
 そろそろと近づいていくと、「えい、やぁ!」という男のかけ声と、猛獣の唸り声が耳に入ってきた。
 この獣の唸り声、聞き覚えがある。
「あの熊……! また悪さしようとしてるわね!」
 フレアは声の方角に駆けだした。
「やっぱり」とフレアは口を引き結んで唸り、憤慨する。
 フレアの目の前で繰り広げられる、熊対人間の格闘。
 熊は鋭利な爪と牙で、若者を攻撃している。
 若者は爪がかすったのか袖が破れ、そこから血を流していた。
 それでも果敢に剣を振るう姿は生命力に溢れ、熊を睨みつける水色の瞳は勇ましくも輝きを放っていた。
 不意に若者と目が合う。彼はギョッとした顔をし、フレアに怒鳴る。
「逃げろ! 危ないぞ!」
 若者に強い口調で言われ、フレアは夢から覚めたようにハッとする。
「……!? いけない!!」
 その若者の闘う姿に一瞬、ボゥッとしていた。慌てて首を振る。
 見惚れている場合じゃない。彼を助けないと。
 杖を両手で握りしめ、瞳を閉じる。そして呪文に集中した。
「出でよ、水の使者! 理性を失いし者の心を静めよ!」
 ゆらりとフレアの前に出てきたのは──水の球体。
 ゆらゆらと時々、形を崩してまた球体に戻るそれは、フレアが想像したものより遙かに大きかった。
 彼女の身体全体の姿が、その球体に映るくらい。
「あれ……? 手のひら大のものを数個、呼んだつもりだったけど……」
 もう遅い。水の球体はグルン、とその場で一度回転すると、熊と若者へ向かって猛スピードで飛んでいく。
「ああああっ! ちょっ……! 若者さん、避けて!」

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