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若奥様は旦那様に惚れすぎていますっ

  • 作家深森ゆうか
  • イラスト緋月アイナ
  • 販売日2018/5/22
  • 販売価格300円

奈緒は茂と結婚したてのほやほやな新妻。毎日夫を見てはうっとりし、愛の深さを感じてしまう。毎日が幸せ、と思っているが、実は一つだけ不満というか願いがあった。「茂の体に自ら触れてみたい」だが帝国の婦女として、そのようなはしたないことが許されるわけがない。女は貞淑にして、夫にすべてを委ね、任せるのみ。そんな葛藤が態度や表情からにじみ出ている奈緒に対し、茂もまた感じ取っているものがあった。「奈緒にはもしかして、なにか憑いているのでは?」と。悩む茂に上司の竹内が一計を案じる。結果、わかったことは――文明開化華やかな明治を舞台に、深森ゆうかが贈る新婚夫婦のほんわかキテレツ・ラブコメディ。

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序章
 時は明治──帝都華やかしき頃のこと。
 所は横浜──日本で初めて鉄道が走り、文明開化が飛躍的に進み、老若男女はめまぐるしく動いている日本で生きておりました。
 そんな時代に生きた、ある一組の夫婦のお話でございます。

一章 若奥様の幸せな悩み
 タタタタ、と小気味よくまな板を走る包丁の音が台所に響いている。
 小紋の着物に白い衣紋掛けという姿の、うら若き女性が忙しく朝食の支度をしていた。
「ご飯の蒸らしもよし! 味噌汁もよし! お漬け物もよし! お弁当のおかずもよし!」
 今日の朝は、めざしもついている。しかも、弁当には卵焼き付き。
(豪華なお弁当になって、茂(しげる)さんは喜んでくださるかしら?)
 夫の喜ぶ顔を想像して奈緒(なお)は、ぽぉ、と頬を染める。
(お茶をいれる湯を沸かしている間に、茂さんを起こしにいきましょう)
 こうして愛しい旦那様のために美味しい朝食を作り、起こしにいく喜びときたら……
(何物にも代え難いのです!)
 奈緒は頭巾を外すと、足取り軽やかに寝室へと向かう。
 寝室である和室の前で両膝をついてしゃがむと、こほん、と一息。
「茂さん、起きてください。ご朝食の用意ができました」
「……ん」
 まだ眠たげな声が、障子の向こうから聞こえてくる。
(ふぁ……っん!)
 けだるそうでありながら艶やかな一声に、奈緒は奇声を発したくなる。
 しばらく待っていたが、起きた気配がしない。
「茂さん、開けますよ……?」
 スッと滑らかに障子を開けて、目の前に広がる光景のみだりがましさに奈緒は目眩がした。
 起こしにきた奈緒の声に反応して掛け布団を外したが、すぐに夢の中に戻ってしまったというところか。
 浴衣寝間着が半分はだけて、逞しい胸元が見えている。
(なんて悩ましげなお姿……!)
「……茂さん、朝ご飯が冷めないうちに召し上がってください」
 そろそろと近付き、それはそれは優しく夫の茂に声をかける。
 ──しかし、奈緒の様子はその声の主だとは思えないほどだ。
 顔は紅潮し、うっとりとした眼差しでまだ寝ぼけている茂を見ている。
 半開きになった口からは、今にも涎が垂れてきそうだ。
「し、げ、る、さん……。起きないと、触っちゃいますよ……ぉ?」
 それは小さな、聞こえるか聞こえないかの声。茂が目覚めないように、と言うような。
(こ、この艶めかしいお姿を! 一見細身でありながら、実は逞しい胸板を! ──さ、触る、触りたい……!)
 我が夫の身体を自ら触れるなんて、痴女でもあるまいし、帝国の一婦人としてはしたない!
 そう思うのに、この止められない衝動はなんなのか?
(良いじゃない! 私は茂さんの妻です! 妻が夫を起こすためにこ、この胸に触れることはけ、決してよこしまな考えがあってのことではないわ!)
 そう、やることは正当なもの。なのに、触れようとする手は喜びにわななくように震えている。
 起きちゃ駄目、起きちゃ駄目──念仏のように唱えながら、
「し、ししし茂さん……起きてください」
 と、そろそろと直に胸に触れた。
「はわわわわわわわわわぁぁああああああん!!」
(このしっとりとしながらも、しっかりと硬さのある筋肉の張り! 何物にも表現し難い弾力がああああああん! た、たまりません!)
「……奈緒?」
「──! し、茂さん! お、おはようございます。い、いつから起きていらしたんですか?」
 ぱっと、胸から手を離し奈緒はできるだけ冷静に振る舞う。
「つい、先ほどだよ。……おはよう」
 むくりと起きあがると茂は胡座をかきつつ、髪を頭に撫でつける。ついでに盛大に欠伸をしながら。
(その一見、だらしないお姿も可愛らしくて胸の動悸がおさまりません……! 頭に血がのぼって、は、鼻血が出そうです……っ!)
「はぁあ……」
「はぁあ?」
「い、いえ……! さ、早くお顔を洗ってきてくださいな。ご朝食を食べる時間がなくなってしまいます」
 さっと奈緒は立ち上がると、誤魔化すように茂に笑いかけながら急かす。
「あ、うん。すぐにいく」
 忙しいと言わんばかりに去っていく奈緒の足音を聞きながら、茂は首を傾げた。

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