
イラストえだじまさくら
どうせ決められた人生なら結婚相手くらいは自分で選びたい──
大企業の社長令嬢であるハルが十三歳の頃に顔で選んだ婚約者=西條史は、六年経った今もハルに恋愛感情を持ってくれない。
そんな史をどうにか振り向かせようとプロポーズするハル。
史はプロポーズを受けてくれたものの本心がわからなくて……。
同時に父から出された条件「秘密の結婚生活を送りながら社会人経験を積む」を飲むべく史の部下となったハル。
史から感じるのはいつまで経っても「家族の情」。
しかもハルは同僚の中津川と急接近してしまい!?
いつになったら本当のお嫁さんになれるの?
不安が頂点に達する頃、父から呼び出しを受けたハルは驚くべき事実を告げられる!!
一
「ハル……本当にいいんですね?」
「うん! もちろん!」
五十畳はあるリビングの大きな窓からは青く雲一つない空が広がっていた。
窓を開ければ、この時期桜の花びらが風に乗ってバルコニーまで飛んでくることが稀にある。
初めてそれを目にした先日、二十階建て最上階のバルコニーに届いた一枚だけの桜の花びらを奇跡だと感じて、住む場所をここに決めて良かったと思ったものだ。
春に生まれたからハル、なんて安直な名前だとは思うが名前の通りハルは一年の中でこの季節が一番好きだ。
爽やかな風に心地良い日差しが降り注ぎ、つい上を向きたくなる。
ハルは窓ガラス越しの空を晴れやかな気分で暫くの間見つめると、ソファーに座る男を振り返り、その隣へと腰掛けた。
ヨーロッパ製の高級マホガニーで作られた、光沢のあるロココ調のカウチソファーに腰掛けた男は、室内所々に感じる女性らしいピンクの薔薇があしらわれた家具を物ともせず、その空間にさも当然のように存在していた。
サラリと流れる男の髪は光があたると金色に輝く。
それは手を加えた色合いではなく、イギリス人である祖母からの遺伝であるらしい。
細いフレームの眼鏡の奥にある薄茶色い双眸(そうぼう)を優しげに細める様は、世の中の大概の女性を落とせるのではないかと思わせる美しさがあり、その端正な顔立ちは日本人離れしていた。
父親は百八十を超える長身だと言うから、今年二十八になった男が、百六十センチと女性にしては背の高いハルよりも二十センチほど高いことも頷ける。
「史(ふみ)こそいいの? こんな高校を卒業したばかりの小娘とで」
「嫌なら、とっくに逃げ出してますよ」
「それもそっか……」
長い足を邪魔くさそうに組みながらも、十も年下の神原(かんばら)ハルに丁寧な話し言葉で応える男は、名を西條(さいじょう)史と言う。
そして、彼はもうすぐ神原史と姓を変える。
ハルはそれが楽しみで堪らずに、毎朝使用人にセットしてもらう軽く巻いた長い髪を耳にかけると、眩いばかりの深い喜びを顔に湛えた。
ハルにとっては鼻の低さが唯一のコンプレックスであったが、顔全体のバランスは取れていて、ふわりと笑った顔は花が咲いたように愛らしく育ちの良さが滲み出ている。
思えば、小さい頃から手に入らないものなどなかった。
ただ、お金さえ出せば何でも買えるなどと思っているわけではないし、ハルの人生の中では不自由さの方が多かったように思う。
世界規模で展開する飲食店カンバラグループ代表の娘であるハルは、長者番付トップ百には必ず入ると言ってもいいほどの資産家の家に育った。
大手ファストフード店やチェーン展開する居酒屋、高級志向のレストランなど、日本全国どこに行ってもカンバラグループの店は存在する。
ご意見・ご感想
編集部
本当にいい? ねぇ、本当にOK!?
この疑問は史がハルに向かって投げかけますが(あ、もっと上品ですよ、彼)、
読者がハルに念押ししたい言葉でもあります……(*´艸`*)
彼女の考え方、行動力、思慮深いのにどこか猪突猛進系の危なっかしさ……
思わず声を掛けずにはいられない存在感!!
ちょっと幼い感覚と大人びた思考の両方を持っているハル。
応援して下さい!!彼女を、ぜひ。
環境に不満があっても腐らず「ならば自分はこうする、こうしたい」をハッキリ示し、
周囲への優しさと揺るがない芯を持つ女性。
若いからと侮ることなかれ。
んーーー、もしかしたら一番侮っていたのは……史?
彼にそのつもりはないですけど……
子ども扱いしていたかな、ハルを。
思い通りにいかない恋のジレンマを抱えるハル、
秘めた想いを決してオモテに出さない史。
二人の間にあるのは憧れなのか情なのか……それとも……?
正反対?
そっくり?
ハルと史のもどかしい恋、どうぞ見届けて下さい☆((〃ω〃))☆
2017年5月26日 9:05 AM