夢中文庫

あなたが私に教えてくれたこと

  • 作家本郷アキ
  • イラスト霧夢ラテ
  • 販売日2017/11/02
  • 販売価格500円

夢だった実家のパン屋で働きはじめたくるみ。パンさえ作れればいい…そう思っていたのに接客を任され!?対人恐怖症で緊張するくるみだったが、朝早くからふらりとやってきた長身のイケメンに目を奪われる。もちろんろくな接客などできず…。もう店に来てくれないかも…悲観するが、ある日酔っ払いに絡まれている所を彼に救われる。しかし焦っていきなり「友達になってくれませんか」と爆弾発言してしまい!?驚きながらも快諾してくれた謎の人物・龍之介。しかし龍之介は仲のいい友達ならすること、とキスを!?そしてその行為はだんだんエスカレートしていって…!?対人恐怖症のくるみと、訳ありな感じの龍之介とのほんわかラブストーリー

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プロローグ
「と、と、と、友達なんです、よね……?」
 何度も足を運んだタワーマンションの一室で、くるみは腰まである長い黒髪に鼻を擦り付け匂いを嗅ぐ男から距離を取るために、座ったままズリズリと後ろに下がる。
 拒絶しているようでしていない。男もそれはわかっているのか、あっという間に距離を詰められてしまう。
 長い前髪に隠れる、くるみのパッチリとした大きな瞳に縁取られる睫毛が、骨ばった男の顎に触れそうなほどに距離は近い。自身の太く真っ直ぐな毛質とは違い、柔らかい亜麻色の髪の隙間から左耳に着けられたシルバーのリングピアスがキラリと揺れる。
 そもそも百六十センチのくるみと、百八十センチはあろうかという男では、腕の長さすらかなりの差があり、あっという間に男の腕の中に抱き寄せられてしまう。
「何度も聞くなよ、友達ならキスぐらい当たり前だろ? つか、ほんとお前砂糖菓子みたいな匂いすんな」
 結局は友達という言葉に言い包められるのはわかっていた。もともと人に触れることを好む男らしく、知り合ってから一年経つが出会った当初から態度は変わらない。くるみよりも五つ年上のこの男は二十六にもなろうというのに、外見とは裏腹に子どもっぽい一面を併せ持っていた。
 それでもくるみは男の手が優しさに満ち溢れたもので、一見冷たくも思える言動ほど乱暴でないことも知っている。
 触れられるのは嫌じゃない。むしろ心地良く、初めて出会った日からいつしか定休日は自室で過ごすよりもこの男のそばにいることが多くなった。
「龍之介(りゅうのすけ)さ……っん」
 啄ばむようにくるみの下唇が甘噛みされると、龍之介の湿った舌がくるみの唇の隙間から入り込む。いつの間にか深く互いを味わうようなキスにも慣れてしまった。
 龍之介の舌を追いかけるようにおずおずとくるみも舌を動かすと、ますます隙間もないほどに貪られてしまう。
「はっ……んぅ……」
 くるみの舌を絡め取り歯列をなぞる動きに翻弄され、頭に靄がかかったように思考が停止する。
 薄っすらと開けた目に入るのは三日月型の美しい眉、長い睫毛にクッキリとした二重まぶたの奥に色素の薄い茶色の瞳があった。亜麻色に染められた柔らかい髪は左右に流されていて、緩くパーマがかかっているのか全体的に乱れている。
 しかし、キッチリと整えられていないのにわずかも寝癖に見えないのは、男の内側から発しているオーラや本質がそうさせるのだろうか。
 出会った頃から変わらない、嗅ぎ慣れた整髪料の香りがフワリと鼻をくすぐる。
 日本人離れした造形を持つこの男は、百八十を超える身長とくるみの胸元までありそうな足の長さ、筋肉隆々ではないけれど鍛えられていると思わせる均整の取れた肉体をしていた。
 いつもの如く龍之介の姿に目を奪われ脳裏に焼き付けたい思いに駆られるが、ただ快感だけを拾うため無意識に薄っすらと開けていた瞼を下ろし、熱い吐息と互いの唾液が混ざり合う水音に耳を傾けてしまう。
「気持ちいい?」
 チュッと音を立てて離れていった唇が艶めいた声色で告げる。くるみが答えられずにいると、クスリと小さく笑った龍之介が再び唇を塞いだ。自分ばかりが翻弄されているのは悔しくて、答えの代わりに広く逞しい背中に小さく爪を立てれば龍之介は嬉しそうに茶色の目を細めた。
「ふっ……ぅ……んっ」
 舌の動きが激しさを増し、吸われ続けて赤く腫れた唇に痛みが伴うとしばらく唇が離される。龍之介の吐く息が首筋にかかり、ピリッとした痛みと共に腰から背中にかけて震えるほどの快感が走った。
 一見凄みのある美しさを持つ男は、整い過ぎた顔立ちが人形のようであったが、冷たそうにも見えるその顔は今上機嫌に微笑みが滲んでいた──と言っても微かに口角が上がっている程度である。
 まだ互いに名前も知らなかった頃は、冷たくも見えるその表情が怖くもあったが、今はもうそれが彼の自然な笑みであることを知っている。
 そしてくるみを見つめる瞳の奥は焼けるほどの熱さを持っていた。見つめられれば大事だと言われているようで、くるみは嬉しさに胸を高鳴らせる。
 フワリと身体が浮き、筋肉質の腕がくるみを横抱きに持ち上げた。

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