夢中文庫

優しくしてほしいの~オレ様上司との恋のはじめ方~

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  • 作家一文字鈴
  • イラストロジ
  • 販売日2016/01/29
  • 販売価格500円

「泣きそうな顔を見せられると堪らない。もっといじめたくなるよ」――22歳OLの理奈は、苦手な千堂課長に叱られてばかり。ある日、帰宅するとアパートは大規模な水漏れで住めない状態に。途方にくれた理奈の前に現れたのは、なんと千堂課長。「俺のマンションにくればいい」の一言に居候することになってしまった! 戸惑いながらも課長の意外な一面や優しさに触れ、どんどん惹かれていく里奈。その夜、布団に入ってきた課長に初めてを捧げてしまう。ところが翌日、課長からの「期間限定の身体の関係」という言葉に、愕然。追い討ちをかけるように、課長の婚約者を名乗る女性が登場。ワンコ系男子からも告白されて……理奈の頭の中は大混乱!

私は、入社した時から千堂(せんどう)課長のことが苦手だった。
 それなのに課長は、なぜか私の夢の中に頻繁に出てくる。
 仕事で失敗して落ち込んだ日に、夢の中でまで叱られるなんてあり得ないのに、今夜も課長が夢の中に出てきた。
「おい、白石理奈(しらいしりな)、頼んでおいた仕事は進んでいるか」
 パソコンの画面を見ていた私が肩越しに振り向くと、千堂課長が両手を腰に当てた威圧的な態度でこちらを見ていた。
 見上げるほど長身の課長は、いつもの黒色のスーツ姿で、彫りが深くモデルのように整った顔立ちは、精悍(せいたん)を通り越して冷血そのものだ。
「はい、今、やっているところで……」
 私が答えるよりも早く、そばに歩み寄ってきた。
 課長の凍りつくような冷たい眼差しに、夢の中なのに、緊張して顔が強張(こわば)ってしまう。
「お前、何をしていたんだ?」
「な、何って、上半期のデータをエクセルで抽出して……」
「なぜ、まだデータ抽出の段階なのかと訊(き)いている。時間がかかり過ぎだろ」
 そう言いながら、課長が私に覆(おお)いかぶさるようにして、パソコンの画面を覗き込んできたので、思わず息を呑(の)んだ。
 視線をパソコンの画面に集中させている課長の整った横顔が近くて、不意打ちの行動に心臓が早鐘を打ちつける。
 課長の横顔に釘づけになっていると、耳元で囁(ささや)くように彼の声が聞こえた。
「上半期と下半期の相対表を作るだけで、そんなに時間がかかるとは思えないが、どこかわからないところでもあるのか?」
「……い、いいえ……」
 声どころか、息づかいまで耳のすぐそばに感じられて、思わず身体を強張らせると、課長は不機嫌そうに眉根を寄せた。
「お前、さっきから、何をビクビクしているんだ? 他の資料はどこまで進んだか見せてみろ」
「あ、はい。えっと……」
 慌てて作成途中のファイルを開いた。手元の資料に視線を落とすと、残業しても終わりそうにない量の仕事が残っている。
「すみません。まだ時間がかかりそうです。明日には提出できると思いますが」
 やわらかそうな長めの前髪の下で、課長の切れ長の目が鋭く光った。嫌な予感しかしない。私は唇を噛(か)みしめた。
「いつものお前なら、とっくに下半期分に取り掛かっている頃だろう。いったい何をしていたんだ?」
 課長の不機嫌な声音が耳朶(じだ)を打ち、私はうつむいた。
「あの……少し前に、取引先から在庫数を問い合わせる電話が入ったので……」
「それで?」
「倉庫まで、在庫を確認しに行って、時間がかかってしまって……」
「わざわざ倉庫まで行かなくても、部内の共有ファイルのデータを見ればいいだろう」
 課長の端整な顔が一段と険しくなるのを見て、私は慌てて理由をつけ加えた。
「週に一度しか、データが更新されないので、正確な数字を確認して、伝えようと思ったんです」
「アホか! その融通の利かない考えは、さっさとどこかに捨てて来い! 在庫確認ごときに時間をかけるな。いいか、三時の会議までにあと半期分をまとめておけ。わかったな!」
 ひぃ、怖い……。『企画部のエース』と社内で有名な千堂課長は、最年少の二十七歳で課長に昇格した精鋭で、仕事ができる分、部下にも厳しく、怒るとさらに怖さが倍増してしまう。
「え、三時ですか?」
 顔を上げると、課長と視線がぶつかった。
「耳が悪いのか? それとも頭か? 同じことを二度も言わせるな」
 うわ、その言い方は何? 前から思っていたけれど、やはり千堂課長は超苦手なタイプです!
 さすがに頭にきた私は、黙って課長を睨(にら)むように見た。
 課長の瞳の色は色素が薄くて、ダークブラウンに近い。怒った時の彼の視線は鋭く、慈悲という言葉を知らない目になる。
 無言のまま見つめ合っていると、課長がふっとため息を吐いて言った。
「集中すれば簡単に終わる量だ。いいか、三時からの会議に使うから、必ずそれまでに仕上げろ。わかったらさっさと取り掛かれ、バカ!」
 バ、バカって、ひどい……。それに、惨事……じゃない、三時までにこの山のようなデータをまとめるなんて……。
 最初に、そう言ってくれていればよかったのに、いきなり会議に使うから三時までにと言われても困ってしまう。
 ふつふつと怒りが込み上げて、唇を噛みしめた私は、キッと千堂課長を睨んだ。
「わかりました。何とかして三時までに終わらせます。でも、ひとつだけ言わせてください」
「何だ?」
「バカ、バカとおっしゃいますが、そんなことを言う千堂課長が一番の大バカ者ですから! いくら優秀で仕事ができて顔がよくても、性格が悪いと台無しですよね!」
 課長本人を前にきっぱりと言い切ると、彼は眉をしかめて呆然(ぼうぜん)と私を見た。
 夢の中とはいえ、いつも思っていることを言えた私は、すっきりとした気持ちで寝がえりを打った。
「いいぞ、私……もっと言ってやれ……課長なんて……大っキライ……なんだからぁ……」
 寝言を言いながら、布団を身体に巻き付ける。
 実際の私は、課長の迫力に気圧されて、何も言い返すことができないのだけれど。とほほ……。

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