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芸的紳士はまさかの溺愛オオカミ!?

  • 作家泉怜奈
  • イラスト駒城ミチヲ
  • 販売日2017/11/10
  • 販売価格500円

君は僕を煽っている。その責任は取ってもらうよ――大手アパレルに勤める瑠璃子は営業部マネージャーに昇格し張り切っていた。憧れのデザイナー麗二を迎え新規ブランドを発足する、そのメンバーに選ばれ「揺るぎない社畜」と自覚するほどに。男性に対し深いトラウマを持つ瑠璃子は女性的な雰囲気の麗二に安心感を抱き、「麗二の恋のお相手は男性」という噂を信じ込む。でも彼と仕事をしていくうちに惹かれてゆき、気持ちが止められなくなってしまった。ダメなのに、気を付けなくちゃいけないのに。麗二から熱烈に口説かれ、支配的な甘い快感を与えられるが、彼が男性と親密にしている姿を目撃してしまいどうしても信じることが出来なくて……。

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プロローグ
 ぼうっと銀色の扉の横にある数字を眺める。あと少しでエレベーターがこの階に辿り着く。
──チン
 機械音に我に返り瑠璃子(るりこ)は邪魔にならないよう端に寄り、開いたドアが閉まらないように手で押さえ、目線を下に向けて人が降りるのを待った。知り合いに会っても今は挨拶する元気もなかったからだ。今日も昼食を逃し、今から近くのコンビニでおにぎりでも買ってこようと思っていた。
 コンビニ弁当は残っていないだろう。運が良ければおにぎり一個にはありつけるかもしれない。
 下を向いていると否応なしに靴に視線がいく。ブランド物の服を着てお洒落していようが靴を見ればその人となりがわかると言うが、瑠璃子もその意見に賛成だ。
 磨かれていない革靴はいくら高価なものでもげんなりしてしまう。素敵なデザインのヒールでも内側がこすれているともうだめだ。エレベーターから降りていく人の靴をチェックしていると、最後に降りた人の靴に視線がくぎ付けになった。靴はスエードのスリッポン。とてもお洒落だ。色はキャメル。新品ではない。しっかり手入れされているのは見て取れる。顔を上げた時にはその人はもう瑠璃子に背中を向けていた。
 後姿からでも瑠璃子とそう変わらない年齢だと感じる。ファッション業界特有の垢ぬけた着こなしだった。
 素敵な人だなぁ──。と、見惚れてしまう。
──きゅるるる
 やばい、おなかが鳴った。
 瑠璃子は我に返り、エレベーターに乗った。
 会社のフラッグシップブランドを新しく発足するという噂で社内は持ちきりだった。瑠璃子も誰がデザイナーに抜擢されるのだろうと、妄想を膨らませていた。
 瑠璃子の憧れのデザイナー月森(つきもり)麗二(れいじ)だったらいいのになぁ──。
 そんなことを考えていた。
 後姿の素敵な男性の顔を見逃してしまったことを少し悔しく思ったが、すぐにそのことは忘れてしまった。今はただ新規ブランド立ち上げチームに入ることだけを夢見ていた。
「高木(たかぎ)さん、A会議室に来てくれるかな」
 上司に会議室に呼び出されることほど怖いものはない。
 良い知らせか悪い知らせかのどちらかで、それは大概悪い知らせと相場は決まっている。さもなくば、セクハラということもあるかもしれないが、瑠璃子が勤める社内では聞いたことがない。
 そして瑠璃子は今、初の会議室呼び出しに緊張でガチガチになりながら上司の高橋(たかはし)営業部長の前に座っていた。高橋は50代で妻子持ち。部下には厳しいが面倒見が良い面があり瑠璃子はこの上司を尊敬してもいた。
 ドキドキと胸の鼓動が早くなる。
 仕事第一で頑張ってきた瑠璃子にとって、初めての危機的状況に、冷や汗ものの緊張が走る。
 膝の上に置いた手をぎゅっと握り、部長が話を切り出すのをじっと待つ。
「高木さん」
「はいっ」
 唐突に名前を呼ばれたものだから、少し裏返った甲高い声を瑠璃子は漏らしてしまった。
 部長が優しくほほ笑んでくれるが……。これは一体どんな裏があるのだろう。このほほ笑みの意味は……? こ、怖い! 怖すぎるっ
 脳内妄想で不安になっている瑠璃子に高橋がコホンと咳払いし、背筋を伸ばすと瑠璃子に向き直った。ますます緊張が高まる。
「君は4月から新規ブラントの営業としてマネージャーに昇格することになるだろうから、そのつもりでいて欲しい」
 瑠璃子は会議室の椅子に座ったまま、目をパチパチと瞬(しばたた)かせた。
 何か不手際があったのだろうかと、悪いことばかりを想像して心穏やかではなかったから、はっきり言って、面喰らって言葉を失ってしまった。まさに青天の霹靂(へきれき)である。これは予想外の幸運到来だ。私生活の方はさっぱりだということがどうでもよくなるくらいの大きなチャンスが舞い込んできたのだ。
 やっと今までの努力が実を結んだのだ。瑠璃子は感動のあまり放心してしまう。
「高木さん、ではよろしく頼むよ」
 一瞬にして我に返り身を引き締めた。
「は、はい!」
 瑠璃子は顔を上げると、高橋に真摯な視線を向け、意欲を伝えた。

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