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レンタル彼氏の調教付き極上トップロマンス ~時間貸しお試し契約の恋人はS系社長~

  • 作家加藤文果
  • イラストnira.
  • 販売日2015/4/30
  • 販売価格400円

「ま、まさか……社長が指名していたレンタル彼氏だなんて……!?」 本社会議に現れた社長は、以前、優奈が友達の紹介で登録した「レンタル彼氏」サービスからお試し派遣された司さんだった。エッチな恋人タイムを思い出して会議中に上の空になった優奈は、致命的な失敗をして大ピンチ。呼び出されて社長室に行くと予想通り、人事の見直しを宣告される。(わ、私、クビになっちゃうかも……!)「世間知らずでは仕事は務まらない。これは業務指導だ」。オフィス最上階にある全面窓ガラスの密室で淫らな行為を強いられ、スパルタな人事制裁の調教レッスンが始まって……!? エロティックなトップロマンス純愛ストーリー!

「ち、ちょっと、あの……っ! なんでここに」
先輩の代理で出た会議中、五分遅れで駆け込んできた男性の姿に私は絶句した。思わず椅子から立ち上がり、叫びだしそうになる。
(なんで職場に来ちゃうのっ、し、指名取れてなかったのに!? それにしても、まずいってばっ)
彼……「レンタル彼氏」サービスで知り合った司(つかさ)さんはそんな私の動揺に目もくれず、つかつかと私が座っている議事録担当席を通り過ぎて最奥の重役席の方に向かっていく。スラリとした長身に仕立てのいいダークスーツを着こなしたその姿は、颯爽としていて海外の金融ドラマに出てくるやり手のビジネスマンみたいだ。
端正な顔立ちには知性と品のよさが漂っている。
大会議室の蛍光灯がスポットライトになったかのように彼を照らし出し、オフィスの無機質な空間の中で、そこだけ立体的に色づいているかのようだった。
(どうしてくれるの。会社の人に説明がつかないっ……)
彼は部屋の奥に進むと役員が並んだ列に空いていた中心部の椅子を引き、何食わぬ顔をして座り込んだ。
「……あ、あの……わっ……」
声を上げてしまった私の方に顔を向けると、彼は一瞬怪訝そうに眉根を寄せた後、やれやれといった表情をした。「黙って」とでもいうようにグレーがかった深い色の瞳で言い含めるような強い視線を送ってきた。
(あ、その目……)
射すくめられると、強烈な目力に私は腰が抜けそうになってしまう。大事な会議の席で、あの夜のベッドの行為を思い出してしまった。
(な、なんで今日なのっ、大体、指名入れてもずっと取れなかった理由もよくわからなくて落ち込んでいたのは私だし、ここ仕事場だし……よりによって今日は、お偉いさんが出席している大事な本社の全体会議なんだから!)
先輩の代理で議事録係として出席した会議室に、「レンタル彼氏センター」で[お気に!]登録をしていた司さんが入ってくるなんて、夢や幻なんじゃないかと思って何度も目を擦ってしまう。
(ま、間違いないっ……どうして……ま、まさか、私のことを追いかけてきたの?)
自意識過剰だろうか。でも、寝不足で本社に遅刻寸前で駆け込んだ私の今日の肌やメイクはボロボロだし、顔を合わせるのも恥ずかしい。
こんな状態で会いたくなかった。
それでいて脳内に仕事中とプライベートの秘密な時間がシャッフルされてしまった。先月、指名して二人きりで過ごした時間がよみがえってドキドキしてくる。
派遣されたレンタル彼氏とのセンターを通じない接触は基本的に禁じられているのに、仕事場で顔を合わせるなんて、もうどうしたらいいかわからなかった。
(あ、私……悪い夢でも見ているの!?)
「田所(たどころ)さん、何ぽかんと口開けてるの。社長が来たんだからちゃんとしてよ」
隣に座った佐々木(ささき)主任が私を注意する。
主任が示す先には、レンタル彼氏の司さんの姿があった。
「ちょっ、あ、あの人がしゃっ……社長だなんて!?……ま、まさかっ」
31歳にして年商150億に急成長させたうちの社長は、IT企業の代表として、雑誌や新聞でもよく取材されていたが、メタルフレームのメガネ姿に前髪を横に流し、キッチリした硬いシルエットのスーツに身を包んだ神経質そうな風貌は、近寄りがたい鋼の意思を持つ経営者と言った印象だった。
若くして千人近くの社員を率いる敏腕社長として尊敬してはいたけれども、お給料をくれる機関の代表者、といった存在でしか捉えていなかった。
「大体、メガネもかけてないし、髪型も違う……」
「一色(いっしき)社長、伊達(だて)だって知らなかった? メガネは対外的なイメージ戦略用のスタイリングだよ。年齢の若さから企業代表として対外的にマイナスの印象を与えないためにプロのスタイリストを付けてるって話だ」
一色(いっしき)悠司(ゆうじ)……それが社長の名前だった。
実名の文字から源氏名を付けるのは水商売ではよくあることのようだが、名前の最後の司という文字がレンタル彼氏サービスで使われている通称だなんて誰が気づくだろうか。
「そ、そうだったんですか……」
(わからないはずだわ! まるで別人のように印象が違うもの)
入社式や社内の広報用写真は眼鏡や髪型のせいで記憶に残らなかったのだろうか。なんというかいかにもIT業界のワンマン社長といった気難しく神経質な印象を与え、とても私たち平社員の近づく隙も与えないような雰囲気だ。
でも私が知っている社長は……っじゃなくてレンタル彼氏で出会った司さんはと考えてみると、スタイリッシュで品のよい抑え目の甘さに、ほろ苦さも加わった最高級のビターチョコレートのような男性、とでも表現したらぴったりくるだろうか。
スパイシーで風味や舌に残る濃厚な余韻さえ計算されているかのように、女性の心や体に作用するエッセンスがふんだんに盛り込まれて、媚薬的な後味に不安感さえ抱いてしまう。そんな危険をはらんだチョコレートに出会ったとしたら、女性だったらもう、それなしで暮らす日々を考えられなくなってしまうんじゃないだろうか。
(って、それが今の私……!?)
大事な会議中だというのに、カァッと体が熱くなり、頬が赤く染まるのが自分でもわかるほどだ。
(だって、司さん……禁止されてるエッチなことをギリギリまで……)
胸の鼓動が早まり、記憶は二人で過ごしたベッドの時間まで巻き戻ってしまう。
あの指が、唇がイケないことをしたという記憶は私の体に刻まれていて……。
「田所……田所(たどころ)優奈(ゆな)! 聞いてるのか」
「は……? は! ……あ、はい!」
指名されているのが自分だと知って顔を上げれば、社長……である司さんが私の方に視線を向け、その他の社員たちも私を注視している。
「質問を聞いていなかったのかな?」
「えっ……あ、あの……しゃ、社長……」
「今話していたプロジェクト計画について、君のような二十代前半の女性の意見を聞きたいのだが」
「プロジェクトの計画……ですか……」
「君は確か新卒で入社し、現在22歳だったはずだろう。ネットで美容や癒しスポットの総合ネットワークは、ちょうど君と同年代のターゲットに向けた新サービスになると思っていたのだが、会議ですぐに回答を求めるのは難しかったのかな。悪いが、この後で社長室に来てもらおうか」
「は、はい……」
ざわざわと会議室がどよめいた。
(司さんが……社長が……怒って……る? )
ぼんやりしていた私を吊し上げるかのように厳しく強い視線が射抜いてくる。
レンタル彼氏サービスを通じて出会った彼の、疑似「恋人タイム」とはあまりにも違う毅然(きぜん)とした態度に私はおののいてしまう。
「あ……も、申し訳ありません……」
「議事録は漏れがないように頼むぞ」
「承知しました……」
一瞬、重苦しい沈黙が会議室を覆った。
この本社会議は役員一同が顔をそろえる重要な場面なのだ。
体調不良で会社を休んでいる先輩の代理で出席した私は、そんな大事な席で司さんとの甘い記憶に酔いしれてしまった。
(いけない……私ったら、社会人として失格だわ)
録音用のICレコーダーをセットしていたとは言え、メモを取るどころか話の流れにさえついていけなかったことに自己嫌悪を覚えてしまう。
(それに、司さんとして指名していたときには、会社の名前や仕事の話も一切、触れていなかった……私が、あんなサービスで男性を呼び寄せる、不道徳で破廉恥な女だということがわかったら、自分の会社の社員としてふさわしくない人材だと思われてしまうかも……)
IT業界の寵児として若いときから経営センスを磨いていた社長は、興味を持った分野に覆面スタッフとして潜入してノウハウを得ることも厭わない、これと決めたことへの執着はだれにも負けないタイプだと聞いたことがある。もしかして、ビジネス上のリサーチのために登録し、レンタル彼氏のマーケットを探っているためだったとしたら、登録ユーザーがよりによって自社の新入社員だったことに失望するのではないだろうか。
(も、もしかして……私……クビ……!?)
まだ入社一年目で詳しいことはわからないが、実力を重んじる会社で、どんな一流大学の出身者でも、名家の出身でコネがあっても容赦なく退職に追い込むことも少なくないらしい。
それを何の取柄もなく、たまたま滑り込みで採用されたような女子社員が、男性との交友を求めるレンタル彼氏サービスを利用していて、しかも重要な会議中に意見さえ述べられずに役員たちまであきれさせてしまった。
会社の代表にとってみれば、見過ごせないほどの採用ミスだと思われても不思議はなかった。
(やばい……入社早々、退職させられたらどうしよう……)
それに、もっと心配なことが私にはあった。
こんなことがあったら、レンタル彼氏サービスで「お気に」登録をしている“司さん”をもう指名できないのではないかということだ。
ずっと女子校育ちで彼氏ナシ、経験数ゼロだった私が、初めてのデートをした男性……そして、今ではその肌や温もりに、私はすっかり翻弄(ほんろう)され虜になってしまっている。
(あ……あんなエッチ寸前のことまでした彼との時間が、はかない思い出になっちゃうなんて……)
必死で会議のメモを取りながら、視界が涙でぼんやりと霞んでくる。
(さよなら……司さん……私の初恋の男(ひと)……)
解雇されたら、無職になって、初めてデートらしきことをした男性との淡くも過激だった関係も、もう終わってしまう。
「なんて……なんてツイてないの……私……」
センチメンタルな回想と悲運なヒロイン像に胸がいっぱいになってしまい、私は目尻から溢れていく水滴が頬から顎に伝い流れるのを、なんとかうつむいてサイドの髪で隠すのがやっとだった。
そもそも「レンタル彼氏サービス」会員には自分の意志で登録したわけではなかったのだ。
幼なじみの菜々美(ななみ)がこういうサービスにはやたらと詳しくて、友達を紹介するとコンビニで使えるお得なカードがもらえるとかなんとか、そんなことで仮入会してみたのが、ずるずるとイケメン紹介メールを受け取っているうちに、ルックスがよくて趣味がコンピュータ開発だってプロフィール写真から目を離せなくなってしまった。
(こ、これって……まさか一目惚れ……?)
何度も迷った末に司さんと「お試し派遣」のデート依頼をしてみたのが、ことの始まりだった。
(運命の悪戯(いたずら)って、なんて残酷なんだろう……)
ノートの文字が滲んでいく。なんだか、それがどうしようもなく切なかった。

* * *

「……社長……お呼びですか?」
会議の後で社長室へと来るように言われた私は、死刑宣告を受けるような気持ちで本社ビル最上階にエレベーターで昇り、そのフロア奥にある漆黒の扉をノックした。ピアノ塗装のように艶やかなその質感は、まるで来る人を値踏みするかのような高級で重々しい雰囲気だ。
悲観的になっている私には、そのドアの木目を叩いた乾いた響きさえも、自分のいたらなさを嘲笑しているかのように感じられる。
(あぁ……仕事も、片思いの恋も一度に失うなんて、私ってツイてなさ過ぎる……)
大体、指名したレンタル彼氏が社長だなんて予想できるはずもない。
「田所……です。田所優奈、主任から会議後に社長室に行くようにと言われまして……」
「奥に入れ」
「失礼します……」
ドアを開けた瞬間、私は思わず室内に充満した光に目が眩みそうになった。
(ま、まぶしい……)
最上階の20階にある社長室は高い天井まで全面がガラス張りになっていて、午後の日差しが明るく室内を照らしている。
それでいて、黒い革張りのソファや家具、調度品はモダンでありながらどこかに和のスタイルを取り入れたような趣きがあり、全体に明るい室内にベージュを基調とした空間を、漆黒がアクセントになって引き締めているように見えた。
壁面を覆う本棚には古い洋書や専門書が並べられていて、真鍮でできた古めかしい美術品が、まるでブックエンド代わりでもあるかのように並べられ、それが不思議な調和を持ってクラシックで優美な空間を作り上げている。階下のオフィスとは別世界だった。
(司さんらしい空間……)
こだわりや美意識がぎゅっと込められているのを感じる。
身分を秘めた王族の跡取りが、古城とは趣向を変えて高くそびえる塔に作られた秘密基地に紛れ込んだかのようだ。
都心の一等地に建つビルの最上階に連れてこられた私は、高貴な人の前で失態を犯し、とがめられた、愚かな罪人といったところだろうか。
司さん……いや、社長は奥の書斎風の木目デスクに座ったまま振り向きもしない。何かのファイルを前に調べごとをしているようだった。呼ばれてこの部屋に来たものの、声をかけにくい雰囲気だ。
通勤用の黒いパンプスの踵(かかと)が分厚いカーペットに埋もれて靴音を吸収していく。
部屋はずっと前からそうであったかのような深い沈黙に包まれる。
本来はわずかな振動音でしかないオフィス用の空調が、一瞬部屋を揺るがすように大きくぐわぁんと反響しているような気がした。
「先ほどは、申し訳ありませんでした……」
彼の背中に向かって私は自然と頭を下げるような格好になった。
「田所くん……いや、優奈、どういうことをしたか、自分でもわかっているんだろうな?」
重い口調に、この部屋の空気までが深くずっしりと沈んでいく。
後悔の念が頭に竜巻のように渦巻いていった。
(あぁ……このまま時間を巻き戻せるものなら、私は仕事ももっとちゃんと取り組んで、レンタル彼氏サービスなんかにはまらず……普通の出会いをして、ちゃんと男女交際をして……あぁ、いっそ生まれ変わりたい……)
部屋に入ってから、私は身震いが止まらなかった。就職先を失うことや、初めての恋への別離の瞬間が、こんなに恐ろしいのかと思い知らされるかのようだ。
人は何も持たないときよりも、一度手に入れたと思ったものを失う方が不安を感じるのかもしれない。
「今回のこと、許す気はないからな」
「つ、司さん……い、いえ……社長……」
やはり怒りは相当なもののようだ。
「反省しております……」
私の中で、ようやく秘密の時間を過ごす「レンタル彼氏」の司さんと、年商150億の若手VIP社長という人物像が重なってくる。
どちらも自分の感性に忠実で、掲げた理想に近づくためには手段を選ばない。完璧主義で意識が高いところは、確かに司さんと一色社長が同一人物だという証に思えてくる。
社会人として、常識のレベルでありえないミスをしてしまった。
しかも個人生活も恋人ができずに業者頼みで派遣された相手に身を委ねて破廉恥なことをしているなんて、私ってどうしょうもない女で……。
「本当に、何て言っていいのか……で、でも信じてほしいのは、レンタル彼氏サービスに登録したのも、幼なじみからどうしてもって言われたからで……」
「ほう、それが何か?」
釈明なんか聞く耳を持たないという司さんの態度に、声が詰まってしまう。
「あの、本当に……最初は友人紹介のキャッシュバックと粗品目当ての彼女に名前を貸しただけでした。興味はあったけど、まさか自分がお試し派遣を利用するんなんて思ってなかったんです……」
入会登録した経緯について司さんに話すのは初めてだった。
初めて出会った日から私は舞い上がってしまって、ちゃんとした会話なんかできなかった気がする。
「つか……いえ、社長……本日は本当にご迷惑おかけしました」
「全くだ」
酌量の余地は1ミリも残されていない。
そんな決意が感じられる響きだった。
「……」
黒い革製の高級デスクチェアを回転させると、無表情なまま、立ち上がった長身のシルエットが私に近づいてきた。室内の張りつめた空気がキンッと音を立てるかのように体を凍りつかせた。
「そんなに初々しいスーツ姿をオレに見せつけるんだからな」
司さんは、入り口で立ちすくんでいた私を複雑な表情で見下ろし、眉をひそめた。
「は……い?」
「仕事用の服を着て予告もなく会議に出てくるなんて、なんて悪いコなんだ」
「し……社長……、今、何て……」

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