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丸ごと溺愛ラプンツェル~ロールキャベツ王子の淫謀~

  • 作家華藤りえ
  • イラストロジ
  • 販売日2016/02/23
  • 販売価格500円

「二回以上謝ったら、もっと忘れられない事をする」調理師の仕事に情熱を持っていた柚香は、ある事件がきっかけで仕事先を解雇された過去を持つ普通の女の子。けれど事件の時に上司から言われた暴言が元で臆病になり、何をするにも自信がなく失敗ばかりしてしまう。ある日、長く続いたバイト先の定食屋を店主の都合で今週いっぱいで辞めてくれと言われる。かわりに紹介された新しい仕事は、謎が多い一人暮らしイケメンセレブのメイドさん……!裏で何かを企んでいる青年・司と、謝ることが癖になった柚香は、なりゆきで同居生活を送る事になり……。表向きは紳士、でも恋愛は強引肉食系ヒーローと、臆病なヒロインの密室スイートラブ!

プロローグ

田舎の山奥を通る高速道路のサービスエリアは、今や闇に包まれていた。
地震についでおきた二度の地滑りの後、サービスエリアに入ってくる車は皆無だった。運悪くその場に留(とど)められた人たちは、不安げな顔で、誰からともなく閉店後のフードコート広場へ集まっていた。
帰省ラッシュの途切れ目になる元旦早朝であることや、一番近くの出入り口から向こうは、日本人でもほとんど名を知らない古民家だらけの村しかないことから、その日の利用者は少なく、建材の物流を担うトラック業者が二台と、あとは、帰省ラッシュを避けて実家へ戻ろうとしていた家族が三つほどの人数だけだった。
三頭寺(みとうじ)司(つかさ)は喪服の喉元を飾る黒無地のネクタイを緩め、闇の中、息をひそめて動く影たちをぼんやりと眺めていた。
――なにもかもが、どうでもよかった。
地震により引き起こされた雪崩の土砂や倒木が、ちょうどこのサービスエリアを挟む形で発生し、高速道路が分断されたことも。
埋設されていた電線すら断たれ、非常灯すら灯すことができず、自動販売機の明かりすらない異様な状況のことも。
無線で警察から、避難路を確保するまでその場に待機してくださいと言われましたと、警備のために残っていた初老の男が、手にした懐中電灯の乏しい明かりを掲げながら、一人一人に説明しているのも。
なにもかもが、どうでもよかった。
いっそこのまま全員が死に絶えるまで、ここに閉じ込められるのも面白いかもしれないな、と皮肉すら考えてしまう。
それほどまでに司は、世の中にむなしさを感じていた。
大学時代に学友と起こしたITベンチャー企業があっという間に波に乗り、東京証券取引所の新興企業向け株式市場へとんとん拍子に上場し、一部上場も間近と見られていた会社の代表取締役社長である自分がむなしいなどと言えば、周囲は贅沢だと眉をひそめるだろう。
けれど事実、三頭寺司はむなしいと感じる。
たった一週間前までは、世界が自分のものであるような気がしていた。
金も、仕事も、そして異性からの注目だって欲しいままにできていた。
今まで自分を虐げてきたものたちに、ざまあみろと高笑いしながら、シャンパンを高層ビルの最上階オフィスで惜しげもなく飲んでは、他人の無力さをあざ笑い、自分より弱い立場の企業を強引に買収していった。
だが……こんなことになるとは。
司はたった一人の家族である母の葬式を出した帰りに、このサービスエリアに立ち寄り――そのまま閉じ込められていた。
長い息をついて、唇を噛む。いまでも母の死に顔が目に浮かぶ。
築何年経ったのかわからない古びた屋敷の離れ小屋の中、家財道具も、年代物と言えば聞こえがよいが、くすみ古ぼけたものばかりで、畳の表などはところどころ毛羽立っていた。
未だに旦那様という呼び名が当たり前のように飛び交う地方の旧家。その当主の愛人として母は生きていたのだ。
先の旦那様……司の血縁上の父が生きている間は、まだそれなりの暮らしができていたのだと、棺を出すのを手伝ってくれた老庭師がささやいた。
父が亡くなった後、つまり庇護者(ひごしゃ)を亡くした後、愛人が本妻にどういじめられ、閉鎖的な村でどれだけ嫌われたか考えるまでもなかった。
両親の社会道徳から逸脱した関係によりいじめや差別を受け、それが嫌で、司は中学から遠方の全寮制の男子校へと逃げ込み、その後、社会人となってからも、父や母に、一度も会わずにいた。
それでも、と思う。
母の立場を疎(うと)み、思春期ゆえの潔癖さで嫌い抜き連絡を避けていた。
大人になって多少物わかりがよくなった頃には、旦那様に手をつけられた女中は逃げることなどできず、身ごもった息子を育てるには、ひたすら耐えるしかなかったと悟った。
だが、今度はそれまで無視してきた気まずさから、今更、息子として振る舞うのも恥ずかしく、あえて考えずにいた。その結果がこれだ。
時代の寵児(ちょうじ)と呼ばれ、年収に億を数える司とは裏腹に、母はみじめに……冬になると水道管すら凍るような離れで、誰にも見守られず息を引き取ったのだ。
遺品を片付ける中、司が社長として受けたインタビューが載っている新聞や雑誌の切り抜きを、母は大事そうに手縫いの縮緬(ちりめん)袋に入れ、枕の下に敷いていたのを見つけた。それが余計に哀れを誘った。
役場から母の死を伝えられ、わびしい死の有様を見て、生活が苦しいのなら、なぜ自分に連絡しなかったのだと身勝手に怒りもした。

ご意見・ご感想

編集部

なにかのきっかけで今まで出来ていたことが出来なくなっちゃうことってありますよね…積極的だった女の子が、「起こりうるかもしれない」きっかけで弱気な子になってしまう描写が切ないです…イケメンセレブを救ってくれたのは彼女なのに!!
さぁ、イケメンセレブよ、今度はあなたが彼女を救うのです!…え!?いきなりそんな強引なやり方で!?
上品なのにSっ気を醸し出しまくる様子に悶えます…!

2016年2月23日 2:16 PM

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