夢中文庫

「強引社長の溺愛」って、こんなに甘い香りなんですか!?

  • 作家桐野りの
  • イラストゆえこ
  • 販売日2018/02/09
  • 販売価格300円

顔が真っ赤だぞ、君は本当に可愛いな。そんな甘い囁きをもらう日が来るなんて考えたこともなかったのに!――謙虚で優しい芦田ゆりは花のこととなると真剣そのもの。花屋を一人で切り盛りし、丁寧に美しい花束を生み出していく。大きな花輪も小さなコサージュも心を込めて。その姿を見かけた上坂拓郎。上場企業の社長である彼はゆりに「君を買いに来た」と言った。驚くゆりだがあるオーダーを受け、とても楽しくその仕事に励む。上坂がゆりをデートに誘ったことから急接近!の筈が、氷のような女性がゆりに嫌がらせを始めて……?淫らな悦楽を上坂に与えられ、ゆりは困惑する。女性の影が見え隠れするのにゆりの体に愛を刻む上坂の本心とは――?

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◆一話
 最後の一本を生け終えて、気が緩んだらしい。
 額の汗をぬぐった瞬間目眩(めまい)がして、芦田(あしだ)ゆりは脚立から足を踏み外した。
 背面からロビーの床にダイブする間、ゆりが心配していたのは数秒後の怪我ではなく、落ちる寸前に触れてしまった花瓶だった。
 底に滑り止めを施す前だったので、全体が激しくぐらついている。さほど高価なものではないが半年前に亡くなった父の形見だ。ゆりは思わず両手を広げ、花瓶をキャッチする体勢をとった。
 どん、と鈍い音がして、ゆりが床に仰向けに転がると同時に、花瓶は安定を取り戻し、花台の上に落ち着いた。危機一髪、形見は無事だ。
「よかった……」
 ゆりは安堵のため息をつく。と、体の真下からくぐもった声がした。
「重い……」
「えっ?」
 下を向いたゆりはあまりのことに絶句した。
 なんと体の下に人がいた。
 三十代前半くらいの男性だ。
 そういえば、落ちる寸前に、誰かの声と足音を聞いた気がする。道理でどこも痛くないはずだ。
「す、すみませんっ。あのっ、大丈夫ですか?」
 慌てて飛びのき、声をかける。男性は半身を起こしながら呟いた。
「頭部打撲……骨折……筋肉断裂もアリだな」
 想像以上の重症である。
「あのっ、救急車を呼びますから、じっとしててください」
 震える手でスマホを取り出し、ゆりは通話画面を呼び出した。しかし、番号をタップしようとした時、右の手首を掴まれてしまう。
「ちょい待て。何をやってる」
 男性が手首を握ったまま尋ねてきた。
「何って、救急車を……」
「大怪我の可能性があった、と言っただけだ。これくらいの高さでも、打ち所が悪ければ死ぬんだぞ。気をつけろ」
「……はい」
 ゆりが頷くと、男性は手を離し立ち上がった。そして再び片手を差し出す。
「ほら」
 起こしてくれようとしているのだとわかり、おずおずと手を伸ばす。
 体が引き上げられた。
「……ありがとうございます」
「いや……」
 男性はそっけなく言うと手を離し、衣服についたほこりを払い始めた。
 改めて見るととても綺麗な人だった。
 背が高く手足が長いモデル体型で、クールビューティ、という形容詞がぴったりである。
 動作がとてもキビキビとしていて、いかにもできる人、といった感じだ。
「……? なんだよ」
 視線に気づき、男性はいぶかしむようなまなざしをゆりに向けた。
「すみません。本当に大丈夫なのかな、って思って」
「見ての通りピンピンしてるよ。さっきのはただの脅しだ。さっきから見てたけど、君、なんか、危なっかしかったから。それよりさ、」
 男性は話題を変えるように頭上の花台に目を向けた。
「このビルの装花(そうか)は全部君の担当か?」
「いいえ。ロビー中央と、ここの二ヶ所だけです」
「リューガトロンとダリア……それにカサブランカ。斬新だな」
 独り言のように男性は呟く。ゆりは驚いた。
「リューガトロンなんてよくご存知ですね。珍しい名前なのに」
「まあ、な。身近にいたんだよ。ちょっと異常なくらいの花好きが」
 男性は微笑んだ。
「なかなかいいセンスじゃないか。知り合いの店があるからこのビルにはよく来るが、そいつもお気に入りだと言ってたな。わざわざ休憩時間に見に来てるらしいぞ」
 さらり、と告げられた言葉にゆりは両目を見開いた。
(えっと、もしかして……褒められてる……?)
 今時、クライアントや花屋に来る客だって、アレンジの感想なんて口にしない。
 ましてや通りすがりの人からの褒め言葉なんて初めてだ。
 心臓がとくん、と音を立てる。
(どうしよう……嬉しいかも……!)
 お礼を言おうとした時、隣を通りすぎようとしていた誰かが立ち止まり、「上坂(かみさか)さん!」と、男性に向かって呼びかけた。
「おう、今行く」
 上坂と呼ばれた男性は片手を上げて呼びかけに答え、ゆりに向き直ると、
「もう二度と落ちるなよ。じゃあ、また」
 そう言って立ち去ろうとした。
「あ、待って」
 思わずゆりは呼び止めていた。
「ん?」
 上坂は振り向く。
(どうしよう……)
 呼び止めてみたものの、話しかける言葉が見つからない。ふと、花を入れたバスケットが目に入った。
(そうだ……!)
 ゆりはバスケットの中からカサブランカを一本掴み、上坂の前に差し出していた。
「あの、これ、もらってください……!」

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