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双鬼と暁の囚われ姫~吸血の悦楽に惑う純真~

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  • 作家熊野まゆ
  • イラストルシヴィオ
  • 販売日2017/08/01
  • 販売価格700円

「おまえのすべてが欲しい。血も肉も、心もすべて俺のものだ」――
山奥の村で平穏に暮らす光瑠はある日、兄に連れられて絢爛な城へ上がることに。
わけがわからないまま暁光一族の跡を継げと言われて戸惑う。
反発した光瑠は暁光の当主の怒りを買って地下牢に入れられてしまう。
囚われた光瑠のもとへやってきたのは、残虐非道な紅い瞳の吸血鬼、哉詫。
双鬼一族の城へとさらわれた光瑠は無理やり体をもてあそばれる。
そんなとき、哉詫とそっくりな男、遥我に遭遇する。彼らは双子だった。
初めは双鬼の城から逃げ出そうとしていた光瑠だが、しだいに気持ちが変化する。
囚われの姫と双子の吸血鬼――想いが交錯する和風ラブファンタジー。
☆★挿絵入り★☆

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序章 脈動
 例えるなら彼は冬の木洩れ陽か、あるいは水底。
 もう一人の彼は、春の陽だまりか、あるいは──。
「ぁ、あ……!」
 その傷には見覚えがあった。
──そうだ。どうしていままで忘れていたのだろう。幼い頃の彼が、いまの姿に重なる。
「……く」
 彼の顔がなまめかしさをたたえて悦楽にゆがむ。
(いやだ、いやだ……!)
 身の内に埋(うず)められている彼の剛直から一刻も早く逃れたい。そう思うのに、紅い瞳の彼に重くのしかかられていて逃れられない。
「ああ、愛しい──」
 彼がつぶやいた。
(……そんなもの!)
 愛なんて生まれるはずがない。彼は残虐非道にして生き血をすする恐ろしい吸血鬼。好きになんて、絶対にならない。
(好きに、なんて……)
──体内で彼のものが脈動した。その瞬間、絶望とは呼べぬ感情が確かに湧き起こった。

第一章 秘境の娘
 仄暗い暁に目が覚めるのは当たり前のことだと思っていた。太陽がこの地に顔を出すと必ず眠りから覚める。物心ついたときからそうなので、それがみなの常なのだと思っていた。それとは相反し、闇に生きる種族がいるのだとは露ほども知らなかった。
 山をいくつも隔てたところにある、秘境ともいうべきその農村は閑散としていた。人が住まう民家はせいぜい五軒。ほかはすべて空き家である。
 ひとけは少ないがそこは肥沃な土地だった。干ばつもなく雨はほどよく降り注ぎ、日光は惜しみなく大地に射して農作物を豊かに育てる。
 この村の住人はほとんど通貨を持たない。たまにやってくる行商人と農作物を交換することで食べ物以外の日用品を得ていた。
 とりわけ貧しいというわけでもなく、かといって財にあふれているのとも違う名もない村。五軒の民家のうち四軒は年老いた夫婦や未亡人の住処だった。残る一軒には、年若い兄妹が二人きりで住んでいる。
「お早う、兄さま」
 光瑠(ひかる)は土間で茶の支度をしながら、一仕事終えて帰ってきた兄を迎えた。
「ああ、お早う」
 早朝から畑を耕しに家を出ていた龍巳(たつみ)の額にはうっすらと汗がにじんでいた。龍巳はその汗を、肩にかけていた手ぬぐいで拭き取り、土間から板張りへ上がり囲炉裏の前にあぐらをかく。光瑠が茶を出すと龍巳は「ありがとう」と言ってそれをいっきに飲み干した。
「朝ごはんにしましょう」
 囲炉裏の上の自在鉤(じざいかぎ)から吊り下がる鍋の木蓋を開け、柄杓(ひしゃく)で中の野菜粥をかき混ぜる。野菜はすべて畑で採れたもの。玄米は行商人から得たものだ。
 朝食を終えると二人はまたそれぞれの仕事に励む。
 光瑠はもっぱら藁細工を内職している。笠や籠などの実用的な品物の他には人形、それから亀や鳥など動物を模した飾り物を作っている。最近は熊の藁細工がとくに人気があるそうで、定期的にやってくる行商人からいくつか注文を受けた。
 昼食のあとはたいてい、農作業を終えた龍巳と木刀を交えて遊ぶ。光瑠はもう十九歳、龍巳に至っては二十八歳だが、ほかに娯楽がないのでこれくらいしか遊びがない。
「──よし、じゃあ次は茶だ」
「……はーい」
 まだ木刀で遊んでいたかった光瑠はしぶしぶうなずく。龍巳が言っているのはたんに茶を飲んで休憩することではない。礼儀作法を重んじる茶のことだ。
 裏の戸口から家の中へ入り、二畳ほどの小間に茶道具を揃える。龍巳の厳しい指導のもと、光瑠は決められた手順で茶を点てて彼に振る舞った。
 農村に生きる彼がなぜ剣の腕が立つのか、高級品の類に他ならない茶道具がなぜいくつも取り揃えてあるのか──光瑠が疑問に思うことはなかった。幼い頃からそうだと、習慣じみてしまい疑問にすら思わなくなる。

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