夢中文庫

溺愛策士の策略でしっかり餌付けされました

  • 作家黒田美優
  • イラスト松本美奈子
  • 販売日2018/02/02
  • 販売価格300円

連日の残業ですっかり枯れ生活の綾女。今夜も疲れて帰ってきたら、いつの間にか久保田という名のお隣さんが引っ越してきていることに気づく。そしてベランダで顔を合わせることに。イケメンだけど、どうやら雪子という名のカノジョがいて、ケンカの末、仲直りをする前の事故に遭って入院中? なのに久保田は手作りの料理を作りすぎたとおすそ分けしてくれるようになる。戸惑う綾女だが、料理はおいしいし、久保田は素敵だし……すっかり気持ちを持っていかれていることに気づく。でも、彼には雪子さんが……。背徳と恋心に悩む綾女だったが、そんなある日の夜、久保田がコンビニに行こうと誘ってきて、そして告白を――

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「ただいま~」
 薄暗い玄関でヘロヘロになりながら、私、徳島(とくしま)綾女(あやめ)はパンプスを脱ぎ捨てた。
「疲れた、疲れた~~」
 一人暮らしが三年にもなると独り言が多くなる。
 リビングにつくとソファにカバンをポイと投げ、テーブルにコンビニ弁当の入った袋をドサッと置いた。
 ソファに腰を下ろそうとしたが、やめた。
 立ち上がるのがもっと辛くなるからだ。
 そのままベランダへ向かい、洗濯機の蓋を開けた。そこにはシワシワの洗濯物。
「わ~明日までに乾くかなぁ……」
 ここのところ忙しくて、洗濯する暇がなかった。
 今朝、慌てて洗濯を予約してから出勤したけれど、洗濯機のタイマーなんて簡易的で最長でも九時間後に洗い終わってしまう。
「まさか家の主が十二時間働くなんて洗濯機も想定してないよね」
 三時間近く放置された洗濯物を、手で伸ばしながら干していく。近隣の迷惑にならないよう、あくまでも静かに。
 ふいに、ベランダの仕切りから光が漏れているのに気付いた。
 隣、引っ越してきたんだ。
 記憶では去年老夫婦が引っ越してから、ずっと空き家だった。
 基本的に帰宅が遅く、日をまたいでから帰ってくることも多いので、お隣さんの存在に今まで気付かなかった。
 洗濯物を干し終え、柵にだらしなくもたれかかる。
「いい匂い。肉じゃがかな」
 隣から香る夕食の匂いに、思わず目を閉じて意識を傾ける。出汁の甘い香り。耳を澄ますと男女の笑い声。特に女性の声がよく聞こえる。
「雪子(ゆきこ)、ごはん美味しい?」
 優しい男性の声がした。
 若いカップルかな……。幸せそうだな。
「いけない、いけない。私にも晩ごはんが待ってくれているんだった!」
 とはいえ、コンビニのカルビ牛丼なわけだが。
 ベランダからリビングへ戻り、袋からお弁当を取り出した。
「ぬるい……」
 温めてもらったお弁当は缶ビールとともにぬるくなっている。
 そういえば「温かいものと冷たいもの、袋はお分けしましょうか?」と言ってくれた店員さんに「すぐ食べるんで一緒で大丈夫です!」と言ったんだった。
 仕方がないのでお弁当は電子レンジに入れて温め直す。その間に缶ビールを空け、飲んだ。ぬるいビールが喉を流れていく。
「ふー……」
 改めて、部屋を見渡す。
 整理整頓がされていない散らかった部屋。コンビニ弁当。缶ビール。
「私って、枯れてる」
 お隣さんから聞こえてくる壁越しの話し声が、より一層、虚しくさせた。

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