夢中文庫

十年目の恋はシャボンのバスで

misaworan01_s
  • 作家未青藍
  • イラスト炎かりよ
  • 販売日2016/05/25
  • 販売価格500円

老舗の石鹸屋のひとり娘であることから『ソープ嬢』というあだ名でからかわれ続けた真央。唯一の例外だった駿とは高校時代に順調な交際をするものの、ある事件のため半年間で破局――けれど十年後、カルチャースクールで石鹸教室の講師をしていると、なんとW講師の相方として彼と再会を果たす。大手化粧品メーカー勤務の元カレに引け目と対抗心を感じた真央は、精神的な距離を縮められないままぎくしゃくと教鞭を執り続ける。ところが、最後の教室を目前にして駿のほうから近づいてきて……彼の変わらぬ優しさに終わったはずの恋心が疼き始めるのを止められない真央。でも、あのときのことは忘れられなくて……石鹸が繋ぐ十年越しの恋の行方は?


 あたしのあだ名は『ソープ嬢』だった、小中高、と大学を除いた学生時代ずっと。
 理由は安易で石鹸(せつけん)屋の娘だったから、昭和十年創業、約八十年もの歴史を持つ老舗『ハナワ石鹸』のひとり娘であり跡取りだったから。
 ちなみにハナワって店名の響きは微妙だと自分でも子供心に思っていた、もっとも冠した所以はやむを得ないものだったんだけど、なんたってうちの名字が『塙(はなわ)』なので。立ちあげた曾お祖父ちゃんの時代はこじゃれた横文字の店名自体がそんなに多くはなかったらしい。
 で、あたし塙真央(まお)は、ソープ嬢ソープ嬢と主に学校の男子にからかわれながら大きくなった。大人になってしまえばどうにか聞き流せる冗談でも当時のあたしは傷ついた、傷ついてむかついたので言ってきた男子は容赦なくグーで殴り返してやった、女子がそろいもそろって言い返しもせずか弱く泣いてると思ったら大間違いだ。まあ殴ったところで即座に黙る物分かりのいい男子ばかりじゃなかったから、けっきょくあたしは高三の秋までその超絶くだらないあだ名で呼ばれ続けたんだけど。
 高三の秋、十七歳の秋。ほんの少しショックな事件があって、あたしは例によってからかってきた連中を怨念を込めて睨(にら)みつけた。自分では把握できてなかったけれどよほどすごい形相をしていたのだろう、それ以降あたしは誰からも気にしているあだ名で呼ばれることがなくなった……心に小さな傷は負ったものの結果としてはラッキーだった。
 ソープ嬢、ソープ嬢、ハ・ナ・ワ石鹸~のソープ嬢~♪
 適当に考えたとおぼしき節つきで、そう言われるたび胸の奥がチクチクとしたものだ。
 もちろん従事しているプロのひとたちに対しなにかを思っているわけじゃない、ただあたしという人間がバカにされる瞬間うちの店や、ひいては石鹸そのものまでもが否定されるという現状にどうにも我慢がならなかった。あたしは石鹸が好きなのだ、バスルームであれから生まれた真っ白な泡に包まれているのは至福のひとときだ、熱でほてった肌の表面を泡がすべり落ちていくのも官能的な眺めだ──単純に汚れを落とすだけでなくひとを幸せな気分にもさせてくれる、石鹸は一度で二度おいしい、素敵で無敵な存在なのだ。
 でも。
 そんなふうに石鹸と苦楽を共にしてきたあたしだけど、いままさに傍目にはソープ嬢ぽく見えるであろう行動をわけあって取っていた。バスルームで男性とふたりきりになって体を洗うのを手伝っていたのだ、相手は腰にタオルを巻いているものの裸といってもさしつかえない姿をしていた、対するあたしのほうはというといちおうスーツ姿だったから『ソープランド内のワンシーン』というほど隠微な雰囲気ではなかったかもだけど。
 ぴちゃん、と壁に立てかけてあったシャワーのヘッドから滴が落ちる、狭い密室に籠もっている湯気に石鹸の香料がとけ込んでいる。
「塙」
「なあに一ノ谷(いちのたに)くん、強かった?」
 ごしごし、と背後からナイロン製のボディタオルで腕をこすっていた手を止めるとあたしは相手に話しかけた。
 彼、一ノ谷駿(しゆん)とは高校の二年と三年のとき同じクラスに所属していた、三年の春から秋までは交際までしていた間柄だった。だから『元クラスメイト』であり『元カレ』でもある男だった、十年も前に一度は縁が切れてしまったはずの交際相手、二十七歳になって再会したあたしたちは数ヶ月の紆余曲折(うよきよくせつ)を経ていちおう元の鞘(さや)に戻りかけている。まあ、彼氏だ彼女だ言いながらいまだにエッチもしてない間柄だけど。

ご意見・ご感想

編集部

石鹸が繋ぐピュアなラブストーリー!!

気が強い下町っこ気質の真央ちゃんは
面倒見がよいしっかり者と見せかけて、
愛すべき暴走キャラ
ε=┏(゚ロ゚;)┛

対して駿君は無愛想で何を考えているか分からない……
でも、実はとっても誠実で気遣いの人!!

早とちりで暴走しまくりの真央ちゃんと
言葉が足りずに伝わらない駿君のラブは
紆余曲折しまくりで……
くるくると変化するジェットコースターのような
真央ちゃんの心の動きにハラハラ
w(゚o゚)w

この二人ならではのピュアなラブストーリーを
ご堪能ください~~~~

2016年5月25日 4:51 PM

オススメ書籍

izumirena05_muchu

この恋は錯覚・・・・・・? それとも、本物ですか?

著者泉怜奈
イラスト夢志乃

「こんなにエロいなんて、君は一体どんな女なんだ? 堅そうに見えてこんなに……」──常に冷静沈着な建築デザイナーの冬子は、大手KIRIYAから依頼を受け、何としてもこの仕事を成功させたいと意気込んでいた。そんな彼女の前に現れた営業部長・桐谷巧はエリートで美男子、しかも桐谷の御曹司。彼には絶対に自分の秘密を知られてはいけない。それなのに二人エレベーターに閉じ込められてしまった! 閉所恐怖症の冬子はパニックに陥り、理性を失い……。究極の状態から生まれた激しい恋情、これはただの吊り橋効果なのだろうか? それとも、本物の恋? 彼の心はどうなのだろう? 切なく揺れる恋の行方は……? 桐谷兄弟シリーズ第一弾

この作品の詳細はこちら