夢中文庫

聖なる乙女は漆黒の獣属賢者に愛を説かれる

  • 作家水戸けい
  • イラストもなか知弘
  • 販売日2018/01/26
  • 販売価格500円

孤児のナノンは教会で育ったためなんの疑問もなく修道女になったが、領主の息子に迫られてから結婚について悩むようになる。そんな折、森で出会った不思議な青年ラトゥールから、なぜ修道女は結婚してはいけないのだ、と問われてますます困惑を深めてしまった。そのせいか、ナノンはその夜悪魔のような男にその身を惑わされる夢を見てしまう。自分は修道女だからと拒絶しするが、強引な求愛に身も心も蕩けてしまい、すべてを捧げてしまうことに…。「おまえは俺を好んでいる。そういう匂いを出している。だから俺は、おまえを妻にすると決めた。俺もおまえが好ましい」獣の耳を生やした悪魔の純粋な言葉が忘れられない修道女・ナノンの運命は…?

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一 瞳のなかの空
 急ぎ足で草を踏みつけ、木漏れ日を見上げることもせずに、ナノンは森のなかを進んでいた。つねにきっちりと髪をおおっている修道女のベールは白い指に握りしめられ、見事な金髪が陽光を受けてかがやいていた。いつもはやわらかな新緑色の瞳が、硬質なエメラルドみたいに冷たい光を放っている。
(オディロン様は、なにを考えていらっしゃるのかしら)
 ナノンの腹の底には、修道女には似つかわしくない、困惑から生まれた怒りがあった。オディロンの整った顔立ちと鷹の羽を思わせる髪色、漆黒の瞳と堂々たる体躯を思い出し、ナノンは頭を振って彼の姿を脳裏から消した。
(私は神に仕える身。それなのに、妻になれだなんて)
 しかも彼はあろうことか、ナノンが奉仕をしているときを狙って、ひと目のあるところで迫ってきたのだ。村の娘たちはオディロンの優美な身ごなしと、このあたりの領主の息子という地位や財産、甘やかに響く自信にあふれた声に、すぐさま夢見心地な顔になる。
 そういう娘たちを相手にすればいいのにと、ナノンは唇を真一文字に引き結んだ。
「今日もうつくしいな、ナノン」
 そう言って、彼は孤児院に姿を現した。孤児院の責任者であるウィン夫人に、今月の寄付金を手渡した彼は、孤児院であり学校であり労働訓練所でもある建物内部を見渡して、若い娘たちに刺繍を教えているナノンに近づいてきた。
「見事な刺繍だ。作り手のこまやかな心が反映されている。これほどの刺繍ができる人間は、王都にだっていやしないだろうな」
 ナノンが見本用に作ったハンカチを手にしたオディロンは、大げさにほめると娘たちを見回した。
「刺繍の腕が上がれば、上流階級の屋敷にやとわれることもできる。なにせご婦人方はお茶をしながら、ちょっとした小物のすばらしい刺繍を自慢の種にするものだからな。ナノンほどの腕があれば、そういう道はいくらでもできる。なんなら、俺が紹介をしてやってもかまわないぞ」
 ニッコリしたオディロンに、娘たちは気配で黄色い悲鳴を上げた。作業中にうかれるのは、はしたないと教育されている彼女たちの、せいいっぱいの称賛を受けたオディロンは機嫌よく彼女たちの手元を見ると、ナノンの背後に立った。
「やはり、ナノンの刺繍はすばらしいな。芸術作品と言ってもさしつかえない。俺のクラヴァットに、刺繍をしてもらえないか?」
「ご依頼とあれば、よろこんでいたします。オディロン様」
 愛想のいい顔で、ナノンは彼を見上げた。彼はいつもナノンが思うよりも近い場所に体を寄せてくる。気配を通して体温が伝わってきそうだ。背中に男らしい生気を感じて、ナノンは知らず緊張をした。警戒と言ってもいいかもしれない。オディロンは押し出しが強く、体躯も大きいので小柄なナノンは、なにをされたわけでもないのに威圧を感じてしまう。
(自信があるのは、いいことだわ)
 自信というものは、過ぎたものでなければ自分を有効に活かせるものだと、養父であり、神の教えの師でもあるカヌエルに教えられていた。
(次期領主のオディロン様が、堂々としていなければ領民が不安になってしまう。交渉ごとも自信のある人のほうが、ずっといい。自信のない人間の説法は、だれの心にも届かないものだもの)
 そんなことをカヌエルが言っていたと、ナノンはこわばる自分をなだめた。領地や領民を守るために、必要な所作であり声の強さなのだ。男らしくたくましい体躯と、整った顔立ちも彼の自信を後押ししている。彼はとてもハンサムだと、ナノンも認めていた。年頃の娘たちだけでなく、すでに夫や子どものある婦人までもが、うっとりとした視線を彼に向けていたりする。
 魅力的な男性だと理解はしているのだが、苦手意識がぬぐえない。おそらくこれは神に心身をささげた修道女と、そうではない女性の差だとナノンは考えていた。
(神が私に、異性を警戒するようにとおっしゃっているんだわ。だって私の心身は神のものだもの)
 不必要に接近をして間違いがあってはいけないと、神はナノンに警戒をうながしているのだ。
 だからこれは自然なこと。しかし、それを彼にさとられてはいけないと、ナノンはほかの人々に向けるものとおなじ笑顔でオディロンを見た。

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