夢中文庫

溺愛姫 ~私を奪い合わないで~

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  • 作家深志美由紀
  • イラスト夜桜左京
  • 販売日2013/7/10
  • 販売価格300円

「ゆま、将来必ず迎えにいくよ」―お兄ちゃんは私の小さな手を取り、左手の薬指にそっと銀色の指輪を嵌めた―幼い日、隣のお屋敷にすむお兄ちゃんとの甘やかな想いを抱きながら高級ジュエリーショップで働くゆまの前に突然現れたその人、美鶴。さらに、有名俳優の巳継が密かに現れて…。どこか似た二人から、同時にそれぞれに弄ばれ、昂められ、処女のまま絶頂を知ってしまうゆまに迫られる恋の選択……企みと甘美な運命の物語!!

小さい頃住んでいた家の隣には、古めかしい洋館が建っていた。

それは地元でも有名な資産家一家のお屋敷で、私はどんなきっかけだったか、いつの間にかそこに入り浸るようになっていた。

まるでおとぎ話に出てくるお城のような豪奢なお屋敷の中、アンティーク調に揃えられた家具。

そこで毎日私を待っていたのは、まるで王子様みたいな「お兄ちゃん」だった。

―髪をく指。

私を膝の上に乗せて長い髪をゆっくりと撫でるお兄ちゃんの指が気持ちよくてくすぐったくて、私は肩をすくめて笑う。

「ゆま」

お兄ちゃんは私の小さな手を取り、左手の薬指にそっと銀色の指輪をめた。赤い石が花びらの形をした、可憐な薔薇の指輪だ。

「ゆま、将来必ず迎えにいくよ」

彼は私に頬ずりして、甘く囁く。

「うん!」

幼い私は待つことの意味も、待たせる意味も分からずにそう応えた。

―二度と会えなくなるなんて、考えたこともなかったから。

  ******

久しぶりにお兄ちゃんの夢を見た。

私は布団からもそもそと這い出して、うんと伸びをした。カーテンの隙間から差し込む光は緩く弱い。窓を開けてみると、今にも雨が降りだしそうな厚い雲が目に入った。

こんな朝にお兄ちゃんのことを思い出してしまうのは、彼と離れ離れになった日がこんなふうな、今にも泣き出しそうな曇天だったからだろう。引越しの車の中、遠く小さくなってゆくお屋敷にお別れの意味も知らないで手を振った、小さな私。

お兄ちゃんは私が引っ越す前に住んでいた家の隣にあった古めかしい洋館の住人だった。いつの間に入り浸るようになったのか、私は毎日のようにそのお屋敷へ通っていた。

私が六歳の小学一年生で、彼はたぶん中学生くらいだったと思う。

もう名前も覚えていない。はっきりとは顔も思い出せないけれど、彼は私の初恋の人だった。

―それを恋だと思っていたのは私だけかもしれない。

でも私はお兄ちゃんが大好きだったし、きっと彼も同じ気持ちだったと今でも信じている。あれは恋だったのだと―子供ならではの純粋で美しい恋愛だったのだと、思いたいのだ。

―そんな夢みたいなことを言ってるから、二十五歳にもなって彼氏ができないのかもしれないけど。

私は化粧台の上にあるジュエリーボックスを開いて、中から小さな指輪を取り出した。プラチナの土台に、ルビーの花がちょこんとついた可憐な指輪。あの時、私がお兄ちゃんから貰ったものだ。

左手の指に嵌めてみる。あの頃は薬指にぴったりだった指輪はもう、小指の第一関節までしか入らない。

「もうこんなに小さくなっちゃった……」

分かってる。いつまでもこんなものにすがり付いている私が、バカみたいだって。

―お兄ちゃんはもういないのだ。

 

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