夢中文庫

誓いの前にキスをして

  • 作家水城のあ
  • イラストnira.
  • 販売日2013/2/15
  • 販売価格200円

憧れていた従兄の婚約を知り、自分もお見合い結婚をすると決意した莉子。いざお見合いに出かけてみると、そこにはパッとしない大学の准教授、宇佐見尚希にがっかりしてしまう。こんなオジサンとんでもないと思っていたのに、メガネを外したら……!すっかり彼に夢中になった莉子だけれど、結婚を前提の付き合いと言うよりは先生と生徒のような関係に、不安になる。結婚前にキスして欲しいって思うのは悪いことなの?

「では、おやすみなさい」
「送ってくれてありがと」
村瀬莉子は助手席の窓越しに婚約者、宇佐見尚希に向かって笑いかけた。
「どういたしまして。夜更かししないで早く寝るんですよ」
「もうっ! 子どもじゃないんですけど!!」
「ははっ。そうでした。では失礼します」
尚希がメガネの向こうで目尻を下げると、車はゆっくりと夜の街に向かって走り出した。
テールランプが角の向こうに消えるのを見送ってから、莉子は深いため息をらした。
―今日もなにもなかった。それが今日のデートの感想だ。
莉子が落胆しながら門扉に手をかけると、玄関の外に設置された防犯用のライトが点灯する。その明かりに誘導されるように、莉子は自宅の扉に手をかけた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
明るい声が聞こえて、母親の百合がリビングのドアを開けて顔を見せた。
「今日は宇佐見さんとデートだったんでしょ? 楽しかった? どこに行ったの?」
百合が話を聞こうと、はちきれんばかりの好奇心を浮かべた顔で莉子の前に立つ。
「……」
いつものことだとはいえ、いいかげんうんざりする。いつも莉子が尚希とのデートから帰ってくると、どこに行っただの何を食べたのかと根ほり葉ほり聞きたがるのだ。
百合は元々お嬢さん育ちで、十八歳で莉子の父親と見合いをしてそのまま結婚をした。莉子の下に年子の弟もいるから、育児などそれなりに苦労をしたはずだけれど生まれ持っての天然気質は変わらないようで、その天然ぶりでいつも周りを振り回していた。
莉子が返事もせずに自室へ足を向けようとするのを見て、百合は不満げな声を上げる。
「もぉ~ママは莉子ちゃんたちが仲良くしてるのか心配なだけなのに~」
「そんなに心配しなくても仲良くやってますっ!」
「そお? なにかあったらいつでもママに相談してね? ママ、莉子ちゃんのこと応援してるから!!」
胸元で両手を握りしめる百合にうんざりしながら、階段を昇り始める。
「あ、莉子ちゃん。悠介くんが結婚式には婚約者の宇佐見さんもどうぞって。もう再来月にお式でしょ。莉子ちゃんから宇佐見さんにスケジュールを聞いておいてくれる?」
悠介の名前に少しドキリとしながら頷くと、今度こそ二階の自室に逃げ込んだ。

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