夢中文庫

溺愛トライアングル

  • 作家望月梨莉子
  • イラストにそぶた
  • 販売日2018/8/1
  • 販売価格300円

母親を亡くしてから、父と兄の恭市と三人で暮らしてきた陽菜は、ふたりから溺愛されて育ってきた。しかし父の再婚をきっかけに家に居場所がなくなったと感じる陽菜。そんな彼女の心境を慮った恭市とともに実家を出ることを決意する。突然決まった兄との同居と新しい生活にワクワクしていると、その家は恭市の友人のものだということを知る。その友人こそ、恭市の高校時代からの悪友で、陽菜の初恋の相手、貴臣だった。成り行きで一緒に暮らすことになった貴臣は、過保護な兄・恭市から牽制されながらも、ことあるごとに陽菜を口説きだすのだが──初恋の相手からオトナに甘く愛される、溺愛ラブストーリー。

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キラキラした初夏の日差しを浴びながら、櫻庭(さくらば)陽菜(ひな)は足早に大学の門を出た。
(……)
 きょろ、とあたりを見回してみるが、出入りしているのは生徒たちだけ。不審な車も人影もない。
(今日は、いないのかな)
 いつもなら迎えに来ているはずの車が見あたらなかった。
 もしかしたら仕事が忙しいのかもしれない。それならそれで問題はないのだ。
 なんとなくほっとしながら、陽菜は駅への坂道を下りていく。
 もう随分と暑くなってきた七月の風になびくふんわりとしたセミロングの髪が、ふわふわと揺れた。猫っ毛なのは母親譲りだ。透き通るような肌の白さも、アーモンド型の大きな目も。
 陽菜の母親は、彼女がまだ小学生だった頃、病気で亡くなった。
 最愛の妻を失った父親の慟哭はそれはそれは深いもので……それは優しかった母を亡くした陽菜と、兄の恭市(きょういち)にも大きな精神的ダメージを与えた。
(だから、なんだろうな)
 お茶の誘いも、ショッピングも、映画もコンサートも断って、陽菜は今日も家に帰る。
『たまには自由になりなよ』と友達は言うけれど、それが自分のやりたいことだから仕方がない。そう思う。
 家の用事を取り仕切ることが、最初からやりがいだったとは言えない。
 けれどそうすることで、母を失った悲しみからは逃れることができた。陽菜が朝食を作り夕食を用意するから、父も兄も家に帰ってきてくれた。
 幼い末の娘が必死に繋ぎ止めた家族の絆のような食卓は、それをすることが当たり前になったいま、陽菜にとっては居場所そのものだった。
(……でも、それももう終わりにしないと)
 父親に恋人がいると聞かされたのは、つい二ヶ月ほど前のことだ。
 それから何回か週末を一緒に過ごし、相手の女性が以前父の部下だったことや、最近異動でまた同じ職場になったこと、そして恋に落ちたことなどを聞かされた。
(……お義母さん、か)
 素直にそう呼ぶことができる自信がまったくない陽菜は、父の恋人について否定する気はない。再婚すると宣言されても、反対することもできない。
 ただ彼女が十五年間必死で守ってきた『家族の食卓』は、もう陽菜が守るべきものではなくなった。その事実だけが、彼女を暗に追い詰めていた。
「あ」
 なんとなくしょんぼりとしながら歩いていく道すがら、一台の車が陽菜を追い抜いて、急ブレーキをかけた。
 陽菜は慌てて車に近寄った。赤いアテンザ。兄の愛車だ。
「お兄ちゃん……!」
 助手席の窓が開いて不機嫌そうな恭市の顔が見える。
 恭市は優しいが、貿易業の会社を経営する櫻庭グループの副社長でもある。代表取締役社長の父の補佐をしている立場上、厳しいときはとても容赦がない。
「まったく……」
 陽菜と同じベージュブラウンの髪をいまはきっちりと整えていた。グレーのピンストライプ、光沢のある生地がよく似合う。
「門のところで待ってろって言っただろ?」
「う……いなかったから、今日はお迎えないのかなって」
「できないときは連絡してるだろ。ないってことは、来るってことだ。少しくらい待ってくれてもいいだろう」
「ごめんなさい……」
 ひとつ溜息をついたあと、兄は身を乗り出して助手席のドアを開けてくれた。
「ほら、暑いから早く乗れ」
「うん」
 滑り込むようにシートに収まり、シートベルトを着ける。
「ほんと、結構暑かったー。駅までに汗だくになるところだったかも。ごめんね、お兄ちゃん」
「気にするな。……で、どこに行く? 買い物には寄るんだろう?」
「あ、うん。えーと、今日は金曜日だから……ちょっと遠回りしても良い?」
 小首を傾げて問いかけた陽菜の髪をくしゃりと撫でて、恭市はくすりと微笑んだ。
「どこだっていいよ」
 頬を緩めた兄の機嫌が直ったことを察知して、陽菜は嬉しそうに声を上げた。

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