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森の楽園 ~イケメン王子とコテージで二人きり~

  • 作家乃村寧音
  • イラスト蘭蒼史
  • 販売日2015/09/30
  • 販売価格300円

「ダメ。逃がさないよ」憧れていた同期入社のイケメンエリート・長谷部裕也と、過去に一度だけベッドを共にしたことがある日和(ひより)。そのとき日和は処女だったが、半ば強引に奪われて……。それから三年、プロジェクトの成功を祝って、五名で乗り込むはずだった山奥の豪華コテージで、なぜか二人きりに!ロマンチックな雰囲気に流されながらも、都合のいい女にはなりたくなかった日和は、二泊三日の間だけ恋人になろうと提案するのだが、恋心を抑えきれなくて……。森の楽園で繰り広げられる、胸キュンラブストーリー。

「えーっ、田崎(たさき)さんも来られないんですかぁ?」
 田崎さんのマンションのエントランス脇で、わたしは思わず声を上げてしまった。
 ありえない。これで、このイベントに来られなくなった人は三人目だ。しかも、こんなに急に。
 本当は一緒に来るはずだった、小田(おだ)さんも杉坂(すぎさか)さんも、家族の予定があって……ということだったけれど、田崎さんだけは、
「日和(ひより)ちゃん、わたしは行くよ、三人で楽しもうね」
と言ってくれて、準備や買い物も一緒に行ったのに。
 照りつける日差しが肌に痛いほどの晴天で、暑いけれど湿気がないせいか、夏らしい、いい陽気だ。東京はこんな感じだけど、これから行く場所は山の中だから、きっと涼しい。
「うん、ごめんなさい。子供が急に熱を出しちゃったの。だから、今回は二人で行ってきて。お土産話、楽しみにしているから」
「でも……」
 わたしは戸惑いながら振り返った。長谷部裕也(はせべゆうや)は車に寄りかかってスマホを弄(いじ)っている。裕也が車を出してくれて、今日は三人で行く予定だったのだ。
 裕也はメールをしている様子だ。たぶん仕事だと思う。裕也は抱えている仕事がかなり多いはずで、今回も本当なら一番に参加できなくなりそうだったのに、無理をして三日間も空けたようだ。
 何度見ても、見飽きない。まるで目が吸いつけられるようだと思う。裕也は、悔しいけれどカッコいい。
 同期入社だけど、大学を休学して一年間パリで遊んでいたとかで、ひとつ年上の二十七歳。
 切れ長の目に細い顎。ゆるいウェーブがかかっている茶色い髪は、フランス人のおばあちゃん譲りらしい。大学時代はサッカーをやっていたらしく、細身だけどけっして華奢ではない。身長は百七十五センチほど。百五十六センチのわたしはヒールを履いても裕也より少し小さい。
 メールを終えたらしい裕也がポケットにスマホを突っ込み、こちらへ歩いてきた。
「いいマンションですねー、田崎さん。買ったんでしょ?」
「うん、去年、旦那と二人で。ローン山ほど組んじゃったけど、ちゃんとした子供部屋が欲しくてね」
「外観も、目立つデザインじゃないけど個性があっていいですね。建築デザイナーさん、いい仕事してますね」
「そうなの。内装もすごくいいのよ。今度遊びにきて」
「いいですね、じゃあ今回のプロジェクトメンバーで、ぜひ」
 そのとき、五階の窓から田崎さんの旦那さんと、三つになるというお嬢さんが手を振っているのが見えた。
(熱があるって言ってたけど……そんなに具合悪くみえないんだけどな。旦那さんひとりじゃ、面倒みられないのかな)
 わたしは複雑な気持ちで手を振り返した。
 裕也は何も感じていないらしい。田崎さんの旦那さんやお子さんに如才(じょさい)なく手を振り、笑顔で挨拶している。田崎さんもにこやかだ。この場で戸惑っているのはどうやら自分だけらしいと気が付き、わたしはどんな顔をしたらいいかわからなくなってしまった。
「じゃー、行くか。日和ちゃん、早く乗って」
 助手席に押し込まれると、ドアが閉まった。裕也も乗り込み、エンジンをかける。田崎さんが見送りのために近づいてきた。
「この車、裕也君の? ポルシェのカイエンじゃない。カッコいいなー」
 田崎さんはまるで今日の空のように明るい。とてもじゃないけど、急にイベントに参加できなくなった人には見えない。
「いえ、親父のですよ。荷物が入る方がいいかなと思って」
「まったく、お坊ちゃまなんだから。仕事のできるお坊ちゃまってほんと反則よね? じゃ、わたしたちの分まで楽しんできてね!」
 裕也は挨拶代りに軽く手を上げ、車を出した。
 わたしはドナドナの歌に出てくる仔牛になった気分で後ろを振り返り、小さくなる田崎さんをじっと見つめてしまった。

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