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月夜に姫は攫われて~忘れじの平安恋物語~

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  • 作家乃村寧音
  • イラストにそぶた
  • 販売日2017/03/10
  • 販売価格400円

練香作りが得意で歌を詠むのが苦手な平安女子・内裏勤めの月夜(つきよ)には許婚を亡くした過去がある。本気の恋はもうできない、遊ぶだけでいいと、恋人をとっかえひっかえしつつも平和な日々だったが、恋人のひとりだった三条の宮(さんじょうのみや)が本気になってしまう。言い寄ってくる彼すら相手にしていなかった月夜だが、そんな折に幼馴染の俊延(としのぶ)の告白を受け…。本当は誰を好きなのか、一体何から逃げていたのか、人生を甘く見ていたことに後悔する月夜。やっといろんなことに気がつけたのに、もう間に合わないの…? 運命には従うべき…? 一生忘れられない人がいても、幸せを探していいのかな…。忘れじの平安恋物語。

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「どうなさったんですか、月夜(つきよ)様」
 わたし付きの女房(侍女)である若菜(わかな)に声をかけられるまで、わたしは飼い猫のスミを抱きながらぼうっとしていた。
「のどかだなぁって、思っていたの」
「それはそうでございますね。本当に今日は『光のどけき 春の日に』ですわね。スミも朝から寝てばかりですわ」
 宮中に出仕して二年になる。内裏に住み、老いた帝(みかど)の側近くに仕えている。帝の信頼が篤(あつ)かった叔母が結婚のため役を辞して、その代わりにと望まれたのだった。才女として名を馳せた叔母にはまったく届かない出来のわたしだが、お優しい主上(うえ)は怒りもせず側に置いてくれ、日々穏やかに暮らしている。
 スミは弘徽殿女御(こきでんにようご)のところで飼われていた黒猫が産んだ五匹の猫のうちの一匹で、白が混じったような薄墨色の猫だ。真っ黒な猫が好まれる宮中では半端な白毛交じりの黒猫は貰い手がなく、庭に打ち捨てられていたのを拾ってきたのだ。飼ってみれば良く懐き、可愛く大人しい子だ。
 幼いころも、猫を拾って飼っていたことがある……それが良い思い出だから、わたしは猫が好きなのかもしれない。
 簀子縁(すのこえん)に面した房の中に、ちらほらと散り始めた桜の花びらが入り込んでくる。
 わたしと若菜は縫い物の手を止めてそれらを拾い集めた。今日は少し風が強い。これでは瞬く間にすべて散ってしまうだろう。
「名残惜しいですわね。もう、散ってしまうなんて」
「そうね……でも良いのではないかしら。今年はもう、十分楽しんだわ。宴も終わったし」
「今日は昨日よりも肌寒いですわ。桜の散る頃は冷えると言われますけれど、本当ですわね。もう一枚、袿(うちぎ)を重ねたほうがよろしいかもしれません。お持ちしましょうか」
「わたしなら大丈夫よ。そんなに寒くないもの。それより……。ずっと、こうであって欲しいわね。穏やかで、静かな日々が、いつまでも……」
 わたしが呟くと、頭が良くて気が利きよく役に立ってくれる女房なのだけれど、ほんのちょっと間の抜けたところのある若菜は、何を勘違いしたのかしたり顔で頷きながらおかしなことを言い出した。
「ほんと、そうですわね。穏やかな日々であって欲しいですわ。最近毎晩のように、隣の房の右近(うこん)さんのところに恋人の左馬頭(さまのかみ)が来てイチャイチャするもんですから、寝ているわたしには堪ったものじゃなくって。よほど、几帳(きちよう)を蹴倒してやろうかと思いましたわ。そうじゃなかったら、側で寝ていたスミを放り込んでやるとか。本当にもう、耐えられません。右近が結婚して内裏を出るか、佐馬頭に新しい恋人ができるかして、早く静かになって貰いたいんですけど」
 と、全然関係ないことを言い出した。
(そういう意味じゃないのに)
 思わず、クスクス笑ってしまった。
「几帳を蹴倒すって……。やめておきなさいよ、そんなこと。バカねえ。それに、そんなのスミだっていい迷惑よ。可哀想なこと、するもんじゃないわ」
 若菜といると飽きない。内裏に来て良かったと思う。
 若菜は出仕の時に里(実家)で雇ってくれたわたし付きの女房なので、出会ったのはあの大きな流行り病の後だった。そのせいか、なんとはなしに気が楽なところがあるのかもしれない。里では、あの日から……。許婚(いいなずけ)だった夕葉(ゆうは)が亡くなったときから、腫れものを扱うようにされてきたので。
「そんなことをおっしゃいますけれど、少し離れて寝(やす)んでいらっしゃる月夜さまにはわからないのですわ。本当にひどいんですのよ、右近のあの声ったら……」
「もう、やめなさいよ、そんな話……」
 そう言うと若菜は膨れっ面になったが、そんな様子も、
(今が平和だからよね。こんな話をしていられるのですもの)
 わたしはそう思った。

ご意見・ご感想

編集部


ずっと、このままでいられると思ってた…
穏やかな日々がどうやって終わるのか、知っていたはずなのに…

数々の男を虜にする平安乙女・月夜ちゃん!
明るい笑顔や独特な特技で老若男女を魅了します!
しかし、彼女はまさかの嫁ぎ遅れ……
それにはある”理由”があって……

流行病によって運命を狂わされた3人の、
切なくも情熱的な恋物語です!
プレイボーイな性格なのに、月夜ちゃんに本気になってしまった(!?)
三条の宮様に、幼なじみで堅実、エリートな俊延様…
二人の男の間で揺れる月夜ちゃんの心は、
やがて避けようのない現実を突きつけられます。

彼女と一緒に生きるのはどちらか……
多くの恋模様が絡まり合う平安恋物語
ぜひお楽しみ下さい(*´艸`*)

2017年3月10日 12:36 PM

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