夢中文庫

恋魔女の呪縛~湖城の公爵は優しきメイドに救われる~

  • 作家臣桜
  • イラスト風凪ひかり
  • 販売日2018/8/10
  • 販売価格700円

「お前なんて――。一生恋を知らず、あたしの好意を無下にしたことを後悔するがいい!」恋の魔女エマニュエルの言葉と共に、湖の公爵ジュールは呪いをかけられた。少年の姿になってしまった彼の前に現れたのは、メイドのイネス。心優しい彼女はジュールの呪いを解くのに奔走してくれ、その健気な姿にジュールも惹かれてゆく。しかしイネスが仕える主は好色なことで有名な侯爵。侯爵から愛人になれと迫られ、期限が迫るなか二人は魔女の呪いを解くために黒い森へ――。魔女の使い魔に誘われて進んだ先には、魔女の住処が。そこにいた魔女と対峙した二人は――。ジュールの呪いは無事に解け、二人は結ばれるのか――?

YAHOO!JAPANブックストアで購入
BookLiveで購入

序章 魔女の呪い
「本当にすまない。……急なことだし、君の申し出は受けられない」
 陽が燦々(さんさん)と差し込むサロンで、男性は秀麗な眉を下げて申し訳なさそうな顔をする。
 周囲には貴族と思われる、着飾った男女がいた。
 白い丸テーブルにはお茶やティースタンドなどがあり、彼らがお茶と共に談笑を楽しんでいたのが窺える。
「……なんで……」
 男性の正面に立っているのは、一人の女性。
 ──とは言っても、貴族の女性のようにフリルやレースがついたドレスを着ているわけではない。
 彼女は、淑女から見れば「はしたない」と思われてしまいそうな格好をしていた。
 胸元が大きく開き、肩や腕も出ている上半身。そしてなまめかしい肢体にフィットするドレスの下半身は、魅惑的な腿のあたりから深いスリットが入っていた。
 その妖艶なドレスの色は──黒。
 人と対峙する礼儀のつもりか、彼女は被っていた帽子を両手で持っていた。
 つばの広い大きなとんがり帽子には、ぐるりと野の花が飾られている。
「……恋の魔女、エマニュエルよ」
 誰かが、声を潜めてそう囁いたのが聞こえた。
 魔女と呼ばれた女性は、豊かにウェーブした黒髪を結わずに流していた。エメラルドのような鮮やかな色の目は、いま激しい感情を伴って目の前の男性を睨んでいる。
 気の強そうなその顔は、羞恥と怒りに歪んでいた。
「どうして……と言われても……。俺は君のことを知らない。女性とお付き合いをする時は、やはりその人をちゃんと知ってから決定したいんだ」
 困ったように微笑する青年は、実に美しい容姿をしていた。
 輝く金髪に、翡翠色の美しい目。
 スラリとした長身に加え、清潔できちんとした洋服の下には、男性らしく逞しく鍛えられた肉体が窺えた。
 その姿を見れば、誰もが惚れ惚れとするような美丈夫だ。
「あたしのこと……知らないっていうの!?」
 青年の言葉に、恋の魔女エマニュエルはヒステリックな声をあげる。
 その瞬間、彼女の周囲でオーラが燃え上がったように見えた。
 女性客がキャアッと声をあげ、男性客もうろたえた声を出す。使用人たちは右往左往し、衛兵たちも相手が魔女なだけに、うかつに手を出せない。
「恋の魔女エマニュエル。君の名前だけは知っている。けれど俺は、君がどういう性格で、どういうものに心惹かれ、何に対して笑顔を見せるのか……。そういうことを知らないんだ」
 男性は、とても誠実な答えをしていた。
 圧倒的な力を持つ魔女という存在を目の前にして、怯えることなく悠然と立っている。
 もしかしたらその心の奥には、恐怖があったかもしれない。
 だが、そういう態度をとれば相手を傷つけるだろう──。
 そう思った彼は、同じ目線から魔女に相対していた。
「だって……、みんなあたしのことなんて知りたがらないじゃない! 姿を見たら逃げて、あたしが化けて街に紛れても、みんなあたしの悪口を言ってるわ! あんただってそう! あたしが勇気を出して告白しても、結局はそう言って断るのよ!」
 激情のままにエマニュエルはわめき散らし、その感情と共にオーブのような光がサロンを舞う。
 パンッと大きな音をたてて、シャンデリアの一部が破壊され、さすがに男性も大きな声を出す。
「違う……! そうじゃないんだ!」
 とうとうお茶会の客たちは立ち上がり、悲鳴をあげてその場から逃げだそうとした。
「なにが違うのよ! みんなあたしを恐れてるじゃない! みんな嫌い!」
 手がつけられない──。
 男性は絶望を感じ、とにかくエマニュエルを宥めようと手を差し伸べる。
「お前なんて──。一生恋を知らず、あたしの好意を無下にしたことを後悔するがいい!」
 最後に悲しみを孕んだ呪いの声が聞こえると、まばゆい光に包まれていたはずのサロンは──闇に包まれた。
 この世から光が失われたかのように感じ、見えないどこかから苦痛を伴ったうめき声が聞こえる。
 誰かが「助けて」と言ったような気がし、青年は手を伸ばそうとした。
 だが、その腕も手も指も、骨が一本一本折られていくような激痛に襲われた。そして青年もまた、絶望と痛みのなか意識を手放した──。

オススメ書籍

そんな君が堕ちるとき・・・

著者如月一花
イラスト繭果あこ

「そういうの、俺燃える」──アパレル店で働く瞳の元に、新しい店長としてやってきた柴田。爽やかな印象とは裏腹に、初対面で瞳を口説き、突然キスをしてくる柴田に翻弄され、動揺する瞳。その後も事あるごとに彼の強引で甘美なアピールは続き、抵抗虚しく体を蹂躙されていく──。けれど瞳は努めて平静を装い、「周囲の望む理想の自分」でい続けようと奮闘するが…それでも柴田に追いつめられていく。次第に拒むことが出来なくなった瞳は惹かれつつある気持ちを認められないまま、柴田の世話を焼いていたが、ある日柴田から「重い」と言われてしまう…。今までの自分を否定され、ヤケ酒を飲む瞳に、見知らぬ男性が近づいて――。

この作品の詳細はこちら