夢中文庫

押しかけ同棲の甘い罠

  • 作家大北麗月
  • イラストヨシザワ
  • 販売日2018/03/09
  • 販売価格300円

夏香は父が林原コンツェルン総帥家の執事であるので、総帥の孫である祥太とは年が近いこともあって兄妹のように育てられた。しかしながら立場の違いはよくわかっている。片思いが報われることはない。だから大学進学を理由に一人暮らしを始めた。ようやく三か月目に入って一人の生活に慣れたと思い始めた矢先、いきなり祥太が訪ねてくる。そしてあろうことが、祖父とケンカしたからここに住むと言い出し、居座ってしまう。ちょっと待って、バレたらヤバいよ! そう言っても耳を貸さない祥太。そればかりか、黙って俺に抱かれてろだなんて言って強引に求めて奪ってしまって――夏香と祥太のドタバタラブ炸裂!

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 炊きたてのご飯がほっこりと湯気を上げている。だし巻き玉子、ポテトサラダ、焼き魚。味噌汁はインスタントだけど、上出来よね、と夏香(なつか)はひとり微笑む。
 この春、大学生になった。思い切って一人暮らしを始めた。三か月目。どこか頼りないような気持ち、でも少し大人になったような誇らしい気持ちは変わらないが、そんな生活にも少しずつ慣れてきた気がする。
 都内の間取り1Kの賃貸アパートはさすがに広いとはいえないし、必要最小限の物しかないからずいぶんあっさりした暮らしなのだけれど、新築物件だから小ぎれいで、女子大生の入居者を意識しているのか、壁クロスとか部屋のちょっとしたデザインがガーリーな感じになっているのも気に入っている。
 夏香は棚の上のフォトスタンドに目を向けた。この一葉の写真を見るたびに切なさが胸の底から込み上げてくる。それでもつい目を向けてしまう。
 写真の中には高校生の夏香がいる。それから父と母。いつ見ても背筋を伸ばして生真面目な表情を崩さない父の横で、母は少し困ったような微笑みを浮かべている。そしてひとりだけ飛び抜けて背の高い祥太(しょうた)さん。彼と自分たち家族三人との間は微妙に離れていて、それが少し気になるけれど、これ以外にこの四人で撮った写真はないので、仕方がない。
 はあ~とため息が漏れた。
 ホントはそばにいたかったけど……
 そんなひとりごとを振り払うようにかぶりを振って、両手を合わせる。さ、冷めないうちに食べちゃおう。
「いただきまーす」
 気合いを入れるように明るい声で言ったその瞬間、
 ピンポーン!
 と、ドアフォンの音が響いた。時計を見る。午後七時。窓の外にはまだ夏の薄暮が残っている。
 誰だろう。新聞の勧誘? なにかの集金? 断るの面倒だな──なんて思っていたら再び、
 ピンポーン!
 と。目の前の夕食を恨めしげに見て、夏香はゆっくり立ち上がり、忍び足でドアフォンのディスプレイに近づいていく。
 ピンポーン!
 しつこいな。
 ディスプレイを覗き込んだ夏香が息を呑む。
 え?
 ピンポーン!
 夏香がためらいがちにドアを開けると、写真の中にいた祥太がそこに立っていた。
「よう」
 何気ない調子で祥太が言う。ちょっとぶっきらぼうな、いつもの祥太だ。夏香は言葉も出ない。
「どうした?」
 祥太がわずかに笑みを浮かべて言った。
「それはこっちのセリフよ。祥太さん、いったいどうしたの? どうしてここへ……」
「入っていい?」
「え? あ、うん。いいけど……」
 一瞬、ホントにいいのか? とも思ったけれど、まさか、新聞難しくて読めないんです、とも、テレビないんです、とも言えないし、しょうがないよね──なんてバカなことを考えながら、ずかずかと上がり込む祥太の広い背中を追う。
「お、美味そう。俺の分ある?」
 肩から大型のスポーツバッグをどさり、と床に下ろして祥太が言った。
「ちょっとだけなら、あまりものがあるけど」
「それはラッキー。もう腹ペコなんだ」
 晩ごはんを食べに来たのか、この人は──夏香は呆れながらおかずを温め直した。
「うまかった。ごちそうさん」
「足りなかったでしょ」
「コーヒー」
「え?」
「食後のコーヒー入れてくれる?」
「はい、はい」
 祥太は目を閉じてマグカップから立ち上る湯気を嗅ぐ。
「いい香りだ」
 そして目を開けると夏香を見て言った。
「だけどさ、コーヒーと味噌汁はインスタントじゃないのがいいな、これからは」
 はあ? なに言ってるのかしら、この人は。

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