夢中文庫

純情セカンドナイト

  • 作家坂井志緒
  • イラスト駒宮十
  • 販売日2018/6/29
  • 販売価格300円

三年前、異動が決まった上司の緒形と一夜を過ごした瑠衣は、翌朝部屋に緒形の姿がないことに愕然とする。好きと言えないまま身を預け、失意に陥ったあの日から三年。すっかり立ち直った瑠衣の前に新上司として再び緒形が現れた。どう接したらいいか悩む瑠衣は以前のように「口の悪い兄と生意気な妹」として振る舞うものの…歓迎会の夜、二人きりの状況に我慢できず……。互いに求め合い、迎えた翌朝、緒形の姿に安堵する瑠衣。理由はなんでもいい。肌を重ねられたら。ずっとあなたが好きだったから――ナガオエレクトロニクス株式会社、通称ナガエレを舞台にした恋愛ラブロマンス。

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一 カムバック
 忘れられない一夜がある。
 もう三年も前のことだけれど、今でも頻繁に思い出しては胸が焦がれ身体が熱を帯びるほどの、強烈に甘く痺れた一夜だ。
 彼の低い声が私の名を呼ぶだけで全身に快感が走った。
 彼の強い眼差しに見つめられるだけで恍惚感に包まれた。
 身体だけでなく魂までとろけてしまうような、まさに甘美な夜だった。
 それなのに、翌朝私が目を覚ましたとき、彼は忽然と姿を消していた。
 私がこの一夜を忘れられないのは、彼がいないことに気づいたときの、大きな喪失感のせいかもしれない。
 篠田(しのだ)瑠衣(るい)、二十八歳。
 電子部品商社であるナガオエレクトロニクス株式会社、通称ナガエレに入社して早六年。つまり七年目の社員だ。
 所属は本社半導体事業部営業一課。本社は都心の一等地から少し歩いたところにある七階建の自社ビルで、我々一課のオフィスは五階。未だ男尊女卑の文化が根強いこの業界で、私は女だてらに営業マンを務めている。
 多忙なため、ヘアスタイルはドライ時間の早さを重視したショートボブ。着ているのは動きやすくてコーディネートが楽なパンツスーツ。たまにはエレガントな格好をしてみたいとは思うものの、「媚びない感じが篠田らしい」と評されるこのスタイルから、もう何年も抜け出せない。
 人はそんな私を“キャリアウーマン”と表現するけれど、私本人にはまったくそのつもりがない。入社するときも、はじめは一般職で営業アシスタントに就こうと思っていた。しかし、私の能力と男勝りな性格ならビジネスの第一線で大いに活躍できると会社に説得され、総合職で契約を結ぶことになったのだ。
 女性が営業マンとしてやりにくい業界であることは知っていた。雇用市場において女性キャリアの有無が企業イメージを左右する時代になってきたため、なんとか女性の営業マンを育ててキャリアモデルを作りたいという会社の狙いにも、勘づいてはいた。けれど、期待されていることは純粋に嬉しかったし、元来期待には応えたくなってしまう性分である。
 私に営業のイロハを叩き込んでくれたのは、七年先輩の緒方(おがた)脩亮(しゅうすけ)主任だ。緒方さんは我が社の花形部署である一課でもやり手だと名高く、毎年年棒の査定は常にランクA。そして我が社きっての美形男性社員でもある。
 彼に初めて会ったとき、私は“大人の男の色気”がなにかを知った。
 一八〇センチ近い長身にシワのないシャツと仕立てのいいスーツをまとい、髪はくせ毛を活かした無造作なスタイル。上がり眉と力のある瞳、そして厚めの唇が印象的で、そのときの表情は気だるげだったけれど、知的な雰囲気を醸し出していた。同世代の男子には感じたことのない魅力に圧倒され、自分の幼さが急に恥ずかしくなったのを覚えている。
 そんな緒方さんが初めて私に投げてきた言葉がこれだ。
「お前さ、もっと化粧勉強しろよ。道具揃えたての中学生か」
「えっ……」
 初対面からお前呼ばわり? さらにセクハラ?
 挨拶もまだまともに交わしていない先輩からの辛辣な口上に驚きすぎて、私はなにも言い返せなかった。すると彼は、続けざまにこう追い討ちをかけた。
「そのダサいスーツも買い換えろ。靴もな」
 配属が決まったとき、人事部の女性に「緒方っていうイケメンがいるけど、口と酒癖が悪いから気をつけて」と言われたのを思い出し、ああこの人かと納得する。彼のラベリングは“性格最悪のパワハラ主任”で決定だ。
 新卒社員はみんな私と同じようなリクルートスーツを着ている。このスーツのどこがいけないの? ていうかそもそも、リクルートスーツなんてどれも同じようなものだし、ダサいもなにもないのでは。
 私は腹が立って、生意気だとは承知の上で口を開いた。
「化粧はわかりました。勉強します。でも、スーツと靴を買い換える必要がありますか?」
 私が噛み付くと、彼はあからさまに私をいやしめるような顔で告げた。
「見るからにセットで一~二万円の安っぽいスーツで、億単位の仕事ができるかよ。あえて新人感丸出しにしてればミスを許されるような、甘い業界じゃないんだぞ」
 彼の言葉に、私は息を呑んだ。彼の指導の意図を悟ったのだ。

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