夢中文庫

泣いたらロマンスが降ってきました

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  • 作家佐久良慶
  • イラストPIKOPIKO
  • 販売日2017/08/10
  • 販売価格300円

頼れる上司が結婚……それを知った瞬間、彼に恋をしていたことを自覚してしまった沙織。その恋心は刹那、失恋へと変わる。へこんでいるところに、同期の和眞と帰り道にバッタリ会って飲みに誘われた。お酒と一緒に飲み流してしまえとばかりに応じると、なんと和眞も失恋をしたらしい!互いに失恋をした者同士、慰め合おう……そんな思いで始めた関係だったのに、和眞は思いのほか親切で優しかった。お願い、優しくしないで、勘違いしそうだから……だんだんこの関係が辛くなってきた沙織は、またしても自分の鈍感さにショックを受ける。いつの間にか和眞を……。この関係を断ち切ろうとするが、和眞の本音を知って――誤解から始まるハートフルラブ。

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改札を出て、お気に入りの音楽を聴きながらオフィスまでの道を歩く。今日は快晴。風もほどよく吹いていて気持ちがいい。
 私、広田(ひろた)沙織(さおり)は女性向けウェブマガジン、エトワールの運営をしている企画営業職の会社員だ。新卒でこの会社に入り、今年が四年目。仕事にもすっかり慣れ、入ったばかりの頃は辛いだけだった毎日が少し楽しいものに変わっている。提案した企画が通ったり、その企画の評判が上々だったり、最近波に乗っていると言っても過言ではない。
 今日は午後から女子会にピッタリなレストランや、巷で話題になっている個性派カフェの取材に行くことになっている。ウェブマガジンに載せる記事の一部は外部のライターさんに頼んでいるが、内部でもライティングすることがある。私は、記者兼編集者のような立場だ。
 前から気になっていたお店の取材なので楽しみだ。そのおかげか、いつもより少し足取りが軽いような気がしていた。その時、突然後ろから肩を叩かれた。
「っ……」
 完全に油断していたからか、私はビクッと身体を震わせながら反射的に振り向いた。
「おはよう、広田さん」
 そこにいたのは、同期の市渡(いちのわたり)和眞(かずま)くんだった。一八〇センチはある背丈に、スラッとした体躯。切れ長の目が特徴的な整った顔立ちの好青年で、スーツがよく似合う。その容姿と明るい性格のおかげで、社内外で人気があるらしい。
 彼は雑誌の広告営業なので私との接点はあまりない。とはいえ、同期という点では三年以上の付き合いになる。市渡という口にすると長い名字のため、彼はみんなから和眞と呼ばれている。同期を名前で呼ぶのはなんだか照れくさいけど、私一人だけ名字というのも変なので、私も一応名前で呼んでいる。
「おはよう、和眞くん」
 イヤホンを外して形式的にそう返すと、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「朝から広田さんに名前を呼んでもらったし、今日は良い日になりそうだな。……あ、そうだ、今夜空いてる? 久しぶりに一緒に飲もうよ」
 彼の言う一緒に飲む、とは二人きりで飲むということだろう。これまでも何度かこうやって誘われたことがある。
「ごめん。仕事が忙しいから、飲みには行けないと思う」
「そっか……。仕事なら仕方ないよな。でも、俺の勘違いかもしれないけど、いつ誘ってもその返事をされてるような気がするな……」
 和眞くんはそう言って、ガッカリしたように肩を落とした。私はいつも仕事の忙しさを理由に彼の誘いを断っているので、勘違いではない。最初は本当に忙しかったのだけど、最近はいちいち別の理由を考えるのも面倒なので、毎回同じことを言って断っている。
「そんなにガッカリしなくても……和眞くんなら、他に誘いに乗ってくれる人、たくさんいるんじゃない?」
「まあそうだけど……」
 やっぱりそうなんだ。
「って、それじゃ意味ないんだよ。俺は君と飲みに行きたいんだって!」
 この台詞、他の女の子にも言ってるんだろうなぁ。
 何度も聞いた彼の軽口。はじめはドキマギしたものだけど、四年目ともなるともう完全に麻痺してしまっている。
「はいはい、そうですか」
「またそうやって適当に流すのな……もう、本当につれないなぁ」
 はぁー、とわざとらしくため息をつかれる。入社式の日に初めて会った頃から、彼は私に対して気があるような素振りを見せながら軽い感じで誘ってくる。そして、私はそれを受け流す。そんなやり取りがもう三年以上続いていた。なんだかんだ、同期の飲み会以外で彼と飲んだことはない。
「そういえば今度の社員報告会、今までと場所が違うらしいよ」
「え、そうなの? 知らなかった……」
 さっきまでの話はなかったかのように、私たちは会社の話をしながら出社する。音楽を聴く時間は削られてしまったけど、たまにはこういうのも悪くない。誘いは断るけど、彼のことを悪く思っているわけではないから。

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