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身代わりの甘い吐息

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  • 作家玉紀直
  • イラスト中田恵
  • 販売日2017/03/28
  • 販売価格300円

「こんにちは。はじめまして」──引っ越しの手伝いに訪れた姉の恋人、龍田隆行。優しく無邪気な笑みを浮かべる彼を一目見て恋に落ちた真依子だったが、実ることのない恋だと諦めようとしていた矢先……二人が別れたという事実を知る。しかし、別れても気軽に遊びにやってくる隆行の姿に、まだ姉が好きなのだと悟った真依子は、二人の邪魔にならないようにと外出する日々が増えていく。「どうして俺を避ける?」ある日そんな真依子の態度を不満に思った隆行に問い詰められ、勢いのまま彼に抱かれてしまう。姉の身代わりでもいい……彼の腕の中で泣きたいほどの切なさに襲われながらも、心と身体は愛しい人を求め……

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第一章
「こんにちは。はじめまして」
 彼の姿を見た瞬間、視界から彼以外の一切のものが消えた。
 まだ置く位置がちゃんと決まっていないベッドも、机も。
 箱から出して積み上げたままの本も、早く置き場所を決めてあげたいお気に入りのぬいぐるみでさえ。
──彼以外は、見えなくなった。
「龍田隆行(たつたたかゆき)です。お姉さんとは同じ会社でね。かわいい妹が引っ越してくるから手伝ってくれって、力仕事を頼まれたんだ」
 爽やかな笑顔とともに差し出された右手。
 野原真依子(のはらまいこ)はこの手にどう対応したらいいかわからないまま、目を見開いて彼を凝視した。
 彼から目をそらせないどころか、身体が固まって立ちすくんだまま動けない。
 引越しの片づけはまだまだ始まったばかり。彼が部屋に入ってきたとき、真依子はちょうど下着を片づけていて、今だって片手にブラジャーを三枚かかえたままだというのに。
「んー……、真依子ちゃん……、だよね?」
 真依子がなんの反応もしないまま隆行の顔を見ているので、彼はもしや人違いなのかと思ったのかもしれない。
 困ったように笑う隆行を見て、真依子はハッとする。
「はっ……はい、野原真依子で……」
「ちょっとちょっと、なにやってんのよ、隆行!」
 慌てて口を開くが、そこに真依子の声をかき消すほどの元気な声が重なった。
「いきなりこっちの部屋に入っちゃ駄目でしょう!? ほら、真依子が驚いてるじゃない!」
「ああ、ごめん。玄関を入ったら、今まで使ってなかった部屋のドアが開いていたから。ここなんだなと思って」
「妹はおとなしくて人見知りなんだ、って言ってあったでしょう? それに、なに手なんか出してるのよ、いやらしいっ。力仕事を頼んだんだから、細かいものにまで手をつけようとしなくていいのよ」
 真依子の姉、野原眞子(まこ)は、差し出されたままだった隆行の手をパンっと叩く。真依子がブラジャーを持ったまま立っていたので、下着の片づけを手伝おうとしたとでも誤解してしまったのかもしれない。
 それはとんでもない誤解だ。真依子は説明をしようとしたが、口を出す前に隆行が楽しげに笑いだした。
「そうか、やっぱり眞子の妹さんで間違いなかったんだな。よかった~、人違いじゃなくて」
「ここにいるんだから妹に決まってるじゃない」
「お友だちが手伝いにでも来てるのかと思った。それにしても、姉妹ってこんなに印象が違うものなんだな。眞子と違って、すごくおとなしそうだし、かわいい」
「なーにー? それー。ほら、ごちゃごちゃ言ってないでベッドずらしてよ。そっちの窓側につけてくれればいいから」
「ここは真依子ちゃんの部屋になるんだろう? おまえが決めちゃっていいの?」
「窓のない壁側には高さのある家具を置きたいでしょう? そこにベッドを置いたら他のものが置けなくなっちゃうじゃない。ねっ? 真依子」
 突然話を振られ、真依子は慌てて「う、うん」と返事をし、うなずく。ずいぶんと頬が熱くなっている自分に気づき、気まずくなってそのままうつむいた。
 苦笑いをした隆行が、「はいはい」と言いながら無造作に置かれていたベッドのほうへ歩いていく。同じように苦笑し、眞子は真依子の手からブラジャーの束を取りポンポンと背を叩いた。
「大丈夫? びっくりしたでしょう、ごめんね。あいつ、デリカシーがないのよ」
「う……ううん……、そんなこと……。あの、お姉ちゃんの、会社の人なの……?」
「うん。同じ会社だけど、もとは大学の先輩だったのよ。就職する妹が一緒に住むことになったから、引越しの手伝いに来てって引っ張りだしたの。力仕事ができる人間がいたほうがいいでしょう」
 説明をしながら、眞子は真依子がしまおうとしていた下着類を手早くタンスの中へと入れていく。
 大きな家具をずらすときに男手があれば助かるのは確かだが、お手伝いを頼んだともなんとも聞いていなかった。
 それなので、いきなり現れた隆行に真依子はとんでもなく驚いてしまったのである。
(握手しなかったの……、失礼だったかな……)

ご意見・ご感想

編集部

恋に落ちる瞬間は、いつ何時、どんな形でやってくるかわからないもの
その瞬間は、
まるで時が止まったように感じられて……
彼以外は見えなくなって……

そんなドラマティックな恋を体験する真依子ちゃん

衝撃的な出会い、その後だって知れば知るほど好きになっていく
恋する女の子ならば、彼の一挙手一投足にドキドキしたりハラハラしたり
胸が締め付けられたり…キラキラする毎日が待っているはずなのに……

一目惚れしたのは、お姉さんの恋人だったのです(・Д・;)

実らせてはいけない恋だと、気持ちに蓋をした真依子ちゃん
しかし、恋人同士だと知った数日後に、ふたりが別れたと聞いて──!?

別れても変わらずに遊びに来る姉の元カレ・隆行さん
会えるのは嬉しいけれど、もしかしたらまだお姉ちゃんに気持ちがある?と
複雑な気持ちを抱える真依子ちゃんは、極力顔を合わせないようにしてたのに、
ふたりっきりになってしまって……!

──わたしはお姉ちゃんの身代わり?
そんな切ない想いを抱えた真依子ちゃんの恋はどうなってしまうの? お見逃しなく!

2017年3月28日 10:06 AM

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