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本気の愛で咲かせて~クールで強引な上司の略奪行為~

  • 作家玉置真珠
  • イラストまりきち
  • 販売日2018/03/30
  • 販売価格300円

唐獅子組組長の一人娘、牡丹。胸に五百円玉ほどの痣があり、それが牡丹の花のように見えるからそう名付けられたのだが、牡丹自身はコンプレックスになっている。普通の家に生まれていたら単なる痣だったのに、こんな家に生まれたからタトゥだと思われそうで、イヤ。そんな思いから恋にも奥手。しかも親が決めた許嫁がいる。だから片思いの甲斐課長も遠くで見つめているのが精いっぱい。それなのについ好きと告白を。そしてそして、初めてのこの身を捧げてしまった!けっして実らない、許されない恋。愛しい甲斐課長、今夜だけ私を愛して、そして忘れて――

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スマートフォンから流れる大音量のラブソングを止めて、のろのろと半身を起こす。
 昨日──いや、時計の針が今日に変わりそうな頃、いま手がけている広告の仕事でようやくクライアントからのゴーサインが出た。そのために大急ぎで社内の制作部、コピーライターやデザイナーたちに発注をかけて──。
「十二月二十日、午前八時ジャスト……。帰ってきたの、四時くらいだったっけ……?」
 はあぁ、と、海より深いため息をつきながらダボダボのシャツパジャマを見下ろす。
 よし、ちゃんと着替えている。メイクも──うん、落としてある。ヘロヘロだったけど、シャワーを浴びてよかった。頑張ったなぁ、四時間前のわたし。褒めてつかわす。パジャマのボタンが二つしか留まっていなくて、胸元がはだけているけれど、このくらいは許容範囲内だ。
 勤務先の広告代理店『SEE‐DO』は服装規定がゆるいけれど、腐っても二十三歳。皮脂でべたついた髪にガサガサの肌で出社するなんて冗談じゃない。特に、憧れの甲斐(かい)課長にだけは、そんな姿を絶対に見せたくない。
 直属の上司、甲斐辰巳(たつみ)課長──。
 大学卒業後、『SEE‐DO』へ入社し、営業部に配属され、噂の〈鬼課長〉、甲斐課長をはじめて目にした時の夢心地と現実(リアル)のギャップは一年以上経っても目の裏に鮮明に残っている。
『本日より営業部に配属となりました、獅子堂(ししどう)牡丹(ぼたん)です。よろしくお願いします』
『甲斐です。よろしくお願いします』
 緊張しながら挨拶をしたわたしに淡くほほ笑んだ甲斐課長。髪も瞳も茶色がかっていて、全体的にどことなく色素が薄くて、甘く端正な顔は、どこかの国の王子さまが間違えて課長の椅子に腰かけているのかと思った。
 しかし次の瞬間、部内の先輩が誤発注をしたという一報を受けるや否や、穏やかな表情はあっさりと消し飛んだ。先輩を一喝するとすぐにパソコンに向かい、恐ろしい勢いでキーボードを打鍵し始めた。それから、どうしたらいいのかわからずに立ち尽くすわたしに向かって彼は冷え冷えとした声でこう告げた。
『いつまでぼさっと突っ立っている。お前の名前はもう聞いた。仕事がわからないのならその辺の誰かをつかまえて聞け。働く気がないのなら目障りだ、消えろ』
「新入社員に『消えろ』って言うかなぁ、普通」
 苦笑いしながら、ドレッサーの前に立つ。
 あれがあったから必死で先輩に食らいついて、いちから仕事を覚えた。もちろん、まだまだ足りないところだらけだから、もっともっと勉強していかなくてはならないけれど。
 アルバイトもしたことがなかったので、働くことの大変さと面白さで矢のように一週間、一ヶ月と日々が過ぎていった。
 王子さまのようなほほ笑みを見たい下心で、修正につぐ修正も頑張れた。
 入社から一年経って、〈甲斐チーム〉の一員として甲斐課長の下で働けるようになった時は本当に嬉しかったっけ。
「んー」
 鏡を眺める。いまは亡き母ゆずりの、長く伸ばした黒髪は連日の疲れのせいかちょっと艶がない。目の下にクマが少々。このくらいならメイクで隠せるから大丈夫だろう。
 前開きのパジャマが盛大に開いているせいで胸元にある五百円玉大の痣が目に入り、もう一度ため息をついた。
「この痣も消えてくれればいいのに」
 痣は、わたしの最大の肉体的コンプレックスだ。
 ただの痣ならまだいい。
 くっきりとした模様になっていて、まるで牡丹の刺青のようだ。
 しかも、胸に立派な花を咲かせているからと、痣にちなんで〈牡丹〉と名づけられたものだから、ますます嫌になってしまう。いわゆる普通の家に生まれていたのなら、妙な痣があったって、ここまで気にしないだろう。
 だが、わたしは唐獅子(からじし)組のひとり娘だ。
 唐獅子組は、昭和の中頃に巨大組織から分派した博徒系ヤクザである。
 縄張り内で賭場を開き、賭場から上がる利益、いわゆる寺銭(てらせん)を主収入として、縄張り内においては裏の相談役として尽力してきた。素人衆に迷惑をかけることをよしとせず、汚い仕事(シノギ)を大いに嫌い、非道な行いをした構成員は絶縁となるそうだ。
 特に三代目となる現組長獅子堂勝臣(かつおみ)は特に人情に厚いと言われている。鬼瓦のような顔をしたその組長こそ、わたしの父である。
 正真正銘、極道の娘。

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