夢中文庫

一週間の虜 ~愛をくれた監禁救世主~

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  • 作家うかみ綾乃
  • イラスト夜桜左京
  • 販売日2013/4/26
  • 販売価格200円

私たち、たくさん、たくさんセックスしたけれど、キスをしたのは、いまが初めて…真奈美はある「罪」から匿われるように、豪華なマンションに連れてこられ、隔絶され、濡れた時を恭平と過ごす。乳首を吸い上げられ、屹立が媚肉を…いっそこのまま溺れることができたら―が、別の女性が現れ、一人残された真奈美は「罪」の場所へ向かう。追いかけてきた恭平から、聞いたのは意外な事実。そして初めてのキス―濃密な一週間の物語!!

その男に会ったのは、六本木の路地裏だった。
チカチカと点滅する街灯が、細身のスーツをまとった長身を、薄闇に浮きあがらせていた。
都会のダークスポットみたいなその場所で、彼がいつから私のことを見ていたのか知らない。
目が合うと、彼は切れ長の瞳で、私の乱れた衣服を見下ろした。
それから私の足元の、手足を伸ばして転がっている巨体に視線を留めて、肩をすくめた。

ボシャン――ッ
「きゃっ、溺れる……!」
放り込まれたバスタブから、慌てて起き上がった。
鼻と目にお湯が入って、「コホッ、コホッ」と噎せたところに、シャンプーが頭にかけられた。
ワシャッと髪がかきまわされる。
「わめくな。女のキンキン声は嫌いだ」
問答無用とばかりに私の頭を泡立てながら、男が静かな声を出した。
「どうして、あなたがこんなこと―」
「泥のついた手足で部屋を歩いてほしくないからだ」
「だったら自分で洗います」
「右手右足を捻挫した状態でなにを言ってる」
「洗えます! だからお願い、出ていっ……」
「うるさい。これ以上わめくと警察を呼ぶぞ。オッサン殺しの真奈美ちゃん」
おちょくるようなその声に、ビクッとした。私は乳白色のお湯に胸まで浸かって、相手をおずおずと見上げるしかない。
男は澄ました貌で、私の後頭部を洗っている。長い指が美容師さんのように器用に髪をかき上げて、柔らかな泡を立てている。
でも表情の窺えない、冷たく感じるくらい整った貌立ちは、どう見ても接客業ができるような人でもなくて―
「どうして私の名前を知ってるの」
「財布の中の免許証を見た。本籍は、長野だそうだな」
「……うん」
「来月で二十七歳になるのか」
「……はい……」
来月……か。
そのころ、私はどこでどうしているんだろう。
もしかしたら、刑務所の中にいるのかもしれない……
「あのオッサン、知り合いだったのか」
後頭部からこめかみを洗いながら、男が訊いてくる。私のほうはタクシーでこのマンションに連れてこられてすぐに、着ているものを剥ぎ取られたけれど、男はバスルームに入る前に、スーツの上着と靴下を脱いだだけ。上等そうなスーツズボンの裾が、私の跳ねあげたお湯で濡れている。
部屋は玄関から廊下からいちいち広くて、ライトも調度品もアジアンチックで洒落ていて、いま私が入れられているバスタブも三人くらいは一緒に入れそうなくらい大きい。
齢は私と十歳も離れていなさそうだけど、どんな仕事をしたらこんなところに住めるんだろう。お金ってやっぱり、あるところにはあるんだな……
「訊いてるんだ、すぐに答えろ」
ガシガシッと、耳の後ろを乱暴にかかれた。表情も声も落ち着いた人なのに、急に短気を見せてくる。
「こ、答えますから……」
バスタブに手をついて、私はふぅと溜め息をついた。
「あの人は、私のバイトしてるお店の店長なの……。知ってる?ANAホテルの前の、けっこう大きな中華料理店。私、勤めていた会社が三か月前に潰れて、でも次の就職先がなかなか見つからなくて、それでそのお店でバイトしはじめたの」
「ふぅん、それで」
「今日……あの店長に呑みに誘われて。入った当初から、しつこくはされていたんだけど」
そう、初日にいきなり『制服、似合うね』と肩を撫でられたり、休憩時間に外食に誘われたり。それで先輩たちからは『店長にすり寄ってる』なんて陰口叩かれて、本当にいやだった。
「でも今日、『僕の裁量ひとつで正社員の道もあるよ』って言われて。私、母子家庭で育ったから、母親に心配かけたくなくて。田舎に帰っても仕事はないし。ここでなんとかするしかなくて……」
「それでノコノコついてって、案の定、あんなみすぼらしい路地裏に連れ込まれたわけか」
「……確かにノコノコかもしれないけど。でも断るのも悪いなって思ったの。すごく熱心に誘ってくるし、店長のお家は埼玉なのに、もう電車はない時間だし、私が先に帰ったら、ここに店長が一人残されて可哀相だなって……」
「バッカだな。それが中年オヤジの手口だ」
「……そうか……バカだね」
男は私の髪を洗い続けている。頭はもうモコモコの泡に包まれて、俯いたら白い塊がポタンと、男の足の指に落ちた。手と同じ、まっすぐな容のいい指だった。
「で、あの路地裏で抱きつかれて、突き飛ばしたと」
「突き飛ばしたっていうか……雨上がりで路地が濡れていたし、足がすべってしまって……気がついたら……」
気がついたら、店長がふわーんと後ろに倒れていくところだった。
それからゴツッと大きな音がして、そのまま地面に仰向けになった。
急いで「店長?」と駆け寄ったけど、店長はぐったり、天を仰いで動かなかった。
すぐ脇に、ビールケースが二段重ねて詰まれていて、店長はその角に頭をぶつけたみたいだった。
どんなに呼んでも、肩をゆさぶっても、店長は起きなかった。地面に伸ばした手足が、反動でぐらぐらと揺れるだけだった。
(うそ……死んじゃったの……?)
焦って周りを見まわして、そうしたら、この男が路地の入口に立って、私を見ていたのだ。
男の手がカランを下げた。シャァァーッと勢いよく水音が響いた。
貌をくいっと下に向けられ、後頭部にシャワーのお湯が注がれた。
お湯はちょうどいい温度だった。久しぶりに、あたたかいものに触れた気がした。
「あなたはどうして……私をここへ連れてきたの」
「なんとなく。ヒマだったからかな」
シャワーの音に混じって、淡々とした声がバスルームに響く。
「……ヒマ……いいな」
失業していままで、やることがなくて時間を持て余すことはあっても、気持ちはいつも焦っていた。ヒマだなんて優雅な思いは、私からは遠い彼方にあった。
「……警察は、すぐに私を捜しだすわよね。私、十年くらいは出られないわよね」
「捕まるのは怖いか」
「怖いわ、もちろん。刑務所って自由がないんでしょう。本も好きに読めないんでしょう。でもやっぱり、お母さんを悲しませるのがいちばん辛いな……」
「だったらここにいればいい」
前髪を指先でいながら、男が言った。
「え……?」
「せっかく、あのオッサンから身を守ったんだろう。なのにその身を刑務所に閉じ込められたくないだろう。だったらそのカラダ、自由と引き換えに俺に売れよ」

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