夢中文庫

秘密

  • 作家紅緒まこ
  • イラスト坂本あきら
  • 販売日2018/4/17
  • 販売価格700円

ケンタウロスと聖女の禁断の恋の物語――パンプトラ修道院の修道女マフィは、ある日、ケンタウロスの青年セインとの間に子供をもうけるように教皇に直々に指名を受ける。番〈つがい〉となった二人は“箱庭”と呼ばれる楽園で甘く濃厚に身体を重ね合わせ始めるが幻獣との交合は普通とは違い戸惑うこともしばしば。美しく優しいセインに次第に惹かれるマフィ。しかし彼からの愛情を強く感じるほど、彼女の心は罪の意識に苛まれていく。秘密の扉が開いた時、二人の間に残るものは愛か、それとも…。

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【プロローグ】
 漆黒の雲が空を覆い隠す不気味な夜の出来事だった。夕方から降り出した雨は今や清らかな川を濁流に変え、大地を抉って大きな水溜りを作るほど。美しい緑の芝は泥にまみれ、咲き乱れていた黄色いアンネリーズの花は無残に散ってしまった。
 そんな篠突く雨の中、ひとりの少女が物陰に隠れていた。全身ずぶ濡れでガタガタと歯を打ち鳴らして震えている。寒いからではない。尋常ならざる恐怖で震えているのだ。
「どうしよう……だ、だれか……っ。ひっ!」
 雲間から稲光がピカッと走り、一拍後、耳をつんざくような轟音が空を駆け抜けた。ゴロゴロと不愉快極まりない雷鳴はどこまでも轟く。少女は焦点の定まらない視線をそのままに両手で耳を塞ぐ。いつもと同じ夜だと思っていた。けれど違った。一瞬の間にすべてが地獄に変わったのだ。
 あれは数刻前。敷布に弟と共に寝転がり身体を休めていると雨音に紛れて叫び声が聞こえてきた。ひとりではなく、複数人の恐怖に染まった阿鼻叫喚の声。何かが起こっていると理解した少女は飛び起きて、外へと駆けた。するとすぐに風が、物が焼ける臭いと濃い血の臭いを教えてくれた。
 視界は赤かった。信じられない思いで周囲を見渡せば泥水の中に同胞たちが倒れている──首を落とされた状態で。彼女は思った。「次はわたしの番だ」と。
 この凄惨な夜が来るまで、己が他者に狩られる側だと考えたことはなかった。強者が弱者を蹂躙するのは世の習いだ。受け入れがたいが否定はできない。だが、これほどまでに無慈悲に日常は瓦解し、幸せは泡と消えるものなのか?
 あの瞬間から現在までの記憶がない。ただ気が付いた時には物陰にひとりで隠れていた。雨に降られた身体は冷たく、叫び過ぎたのか喉がひりひりと痛い。張り裂けそうなほど脈打つ心臓はいっそのこと止まってくれればどれほどいいだろう。でも弟を残して死ねない。あの子はどうしただろう。上手く逃げただろうか。それとも──
「早く……早く帰って来て……セ……」
「見つけた」
「ひっ!」
 絶対的な存在の帰還を願おうとしたところ、ねっとりとした男の声が耳に絡みついてきた。知らない男の声。喜色を含んでいて恐怖心など一切感じない──強者の声。もはや破裂しそうな心臓だが、恐る恐る視線を右に向けると、暗闇に赤い目が二つ浮いていた。
「きゃああああああ!」
 少女は立ち上がり、逃げようとした。だが暗闇からぬっと手が伸びてきて頭を掴まれた。彼女はそのまま乱暴に地面に投げられ、泥土の中を這いつくばる。
「っぐ、ううっ」
「なんだ、餓鬼かよ。こんなちっこいの殺しても後味が悪いだけだっての」
「だが、若い獲物は金になる。逃がす理由はない」
 赤目の男の後ろからもう一人別の男が現れた。闇と同化するように全身黒ずくめの人間が少女を見下ろし、鼻で笑う。黒い頭巾の隙間からのぞく獰猛な目。血を好み、殺戮を好む野蛮人の目だ。早く逃げなければ殺される。少女は泥水の中で足掻くが、背中を踏みつけられてしまった。
「急がなければ雄(オス)が帰って来る。行くぞ」
「了解だ。でも、こいつはどうする? 今、やっていいか?」
「子供の始末なら猫(キャット)ひとりで十分だ」
「まあ、確かにな。あいつ強いし。おい、出て来いよ」
 ずっと後ろに控えていたのだろう。もう一人、一際小柄な人間が前に出てきた。出で立ちは同じ。全身黒ずくめで、目のあたり以外何も見えない。
「お前なら仕損じることはないだろう。できるな?」
「……」
 猫(キャット)と呼ばれた人影は一度頷くと、少女に向き直った。それを合図に二人の男は静かに闇に消えていく。
「やめて…おねがい……なんでもするから……」
「……」
「わたし……まだ、死にたくない。死にたくないの! まだ弟がいるから……死ねないの!」
 猫(キャット)と見つめ合った時、少女の琥珀色の大きな双眸からはぽろぽろと涙が零れた。そして恥も外聞もなく、泥水の中を這い、敵の脚にしがみつく。命乞いをすることで助かるならいくらでもする。自分は弱い。この人間たちには敵わない。生きるためならなんでもする。
「お願い! ひっく……お願いだから……!」
「……大丈夫」
「え……」
「弟も後を追うから寂しくない。良かったね……すぐに会える」
「……いっ、いやっ!」
 猫(キャット)は腰の剣帯にぶら下げた二振りの短剣を鞘から引き抜き、両手に握り込んだ。静かに、そしてゆっくりと鈍色(にびいろ)の刀身が空へと掲げられ、鋭い剣先が稲光にきらりと光る。
 ああ、自分はやっぱり死ぬのか……。
 少女は己の死を悟り、抵抗を止めた。

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