夢中文庫

クールで口下手な専務の溺愛プロポーズ

  • 作家本郷アキ
  • イラスト
  • 販売日2018/11/06
  • 販売価格400円

大学時代に両親を亡くし、二人の弟を進学させるため高級デートクラブのバイトを始めた成美。初日から指名が入り、緊張の成美が向かった待ち合わせ場所にいたのはなんと上司である専務の東馬だった。鋭い目つき、不機嫌そうな眉間の皺、そして手厳しい指導と嫌味とも取れる仕事に関係ない服装などの指摘。てっきり嫌われていると思っていたのに、東馬は迷いなく成美の体に触れてくる。しかも「成美」と呼び捨てに。私のこと、嫌いじゃなかったの!? そう思いつつ接していたら、どんどんエスカレートしていって止まらない。だけど、嫌じゃない。戸惑う気持ちとは裏腹に、東馬の誘惑に溺れていく。そして成美は自分の気持ちに気がついて――

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 夜になっても星の一つも見えない大都会。月の明かりは淡く空に滲んでいて、誰の目にも留まらない。
 窓から外を見渡すと、まるで星屑の絨毯のような世界が広がっている。そんな界隈の中心に位置する地上二十階建てのビルに、真鍋(まなべ)成美(なるみ)はいた。
 成美がいるここ「プレシャス」は、男性会員の入会金、セッティング料が非常に高額だと言われる、いわゆる高級デートクラブだ。
 女性のプロフィールをチェックし、その中から理想の恋人を探している人もいれば、一時的に疑似恋愛体験をしたい男性が来ることもあるらしい。
(家族のためなんだから……っ。頑張らないとっ!)
 控え室に女の子たちの楽しそうな笑い声が響く中、今日が初出勤である成美の心境は複雑だ。
 指名料は高額で、金に困っている今の成美にとってはこれ以上ないバイトだが、今まで恋人の一人もいたことのない自分が勤まるだろうかと不安もあった。
 それに、よく知らない男性と二人きりになることにどうしても躊躇してしまう。
(会社ではいつも専務と二人きりに近いけど、別にデートしてるわけじゃないしなぁ)
 成美は毎日顔を合わせる男を思い出し、小さくため息を漏らした。
 もしバイトのことがバレたら──きっと嫌味っぽい口調で「不器用な君に二足のわらじが履けるとは思えないな」などと言うに違いない。
 無表情のまま淡々と話す口調と、眼鏡の奥の冷たい視線を想像し、なぜか強張っていた肩が下りる。あの上司以上に怖い人なんていないかと考えれば、ほんの少しだけ気が楽になった。
 成美が勤めている東馬証券は、時代の波に乗ってか本来の仕事に影響を及ぼさない範囲での副業は自由だった。入社して三年目。ある事情で金が必要になり、高額バイトに手を出してしまったのだ。
 しかし、バイトの内容を家族に言うことはできなかった。きっと知れば心配するだろうからと、データ入力のバイトをしていると嘘をついている。
(もしもの時はスタッフが来てくれるみたいだから……大丈夫だよね)
 成美は時計型防犯ブザーをつけた腕をぎゅっと握りしめ、白の清楚なワンピースへと着替えた。肩までの茶色い髪を手櫛で整えて、鏡の前で自らの姿を見つめる。
(真っ白い肌に白いワンピースって……なんか幽霊みたい)
 まるで成美のためにこしらえたかのようにサイズはぴったりだった。着いて早々に着替えるようにとスタッフから手渡されたのだ。
 成美は普段、白い服を好んで着たりはしない。会社に着ていくスーツは、汚れるという理由で黒や紺の濃い色ばかりを選んでしまう。
 化粧も落とすようにと言われ、メイク落としでマスカラやアイラインを落とした。
 二十五歳には見えない幼顔が鏡に映った。赤ちゃんのように柔らかい頬はほんのりと赤みが差していて、目は大きいものの眉尻が下がっているためか頼りなく見える。
(本当に、これでいいのかな?)
 鏡に映る自分をいくら見ても判断はつかない。
 初日にもかかわらず指名が入っているらしく、準備を終えた成美は落ち着かず何度も姿見をチェックしてしまうのだ。
 所在なげに窓からの景色を眺めていると、ノックの音と共に男性スタッフが現れた。指名待ちの女の子たちが一斉に振り返り、成美の緊張はピークに達した。
「成美ちゃん、お願いします。お客様から指名四時間分も入ってるから、リピ客になるように愛想振り撒いて、頼んだよ」
「は……はいっ!」

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