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女王様と呼ばれましても

  • 作家鳥下ビニール
  • イラスト天路ゆうつづ
  • 販売日2020/04/07
  • 販売価格700円

ある日突然、新女王にさせられてしまった花街の娼婦ツェラ。顔も知らない父親の正体が、前々王だと判明したのだ。護衛として仕える近衛長ヴィクターは厳つく生真面目──だが実はツェラの「元常連客」。しかも特殊な趣味の娼館で出逢った。周囲には前職も二人の関係も悟られてはならない。自由を奪われ本物の女王様になったツェラの反抗に、思わず湧いてしまう欲望と興奮を隠し傅くヴィクター。ただ女王らしく振舞い存在していればいい。国の体裁を守るための傀儡、その役割を果たせればいい。やる気のないツェラだったが、前王の子を名乗る青年が出現。王位継承権争いが始まって……!?

一、シェルフから玉座
「十五代目国王オーグウェンが世子、ミリツェリア。汝を今この時より、第十七代目国王として認める」
 仰々しい帽子をかぶった老人が、重々しくそう言って装飾過多な杯(さかずき)を私に持たせる。
 諸侯が集ったこの部屋の天井に、みっちりと描かれた国土と神話を絡めた絵画。
 杯に満ちた透明な液にそれが反射して、悪趣味なほど押し付けがましい意図を伝えてきた。
 誰が考えたんだ、こんな直裁な儀式。
 しかしここでそれを口にする勇気は、さすがの私にも存在しない。
 事前に教わった通り、粛々とその杯に、口をつけた。
 この液体が、強めの酒であることだけがせめてもの救いである。
 国王業なんて、酔わなければやってられない。
 喉を通る熱い感触に、代々の王たちも同じ思いだったのだと確信した。
《女王ミリツェリア》の戴冠式は、恙無(つつがな)く行われた。
 集まった国民たちを見下ろせるバルコニーへと連れられながら、ため息を押し殺す。
 私の本当の名前は、ツェラ。
 王都の花街にて暮らしていた、しがない娼婦である。
 少し前に死んだ、私の母親も同じ。
 本来ならあの街でそれなりに稼いだ後、適当な相手か財産を見計らって早期リタイアをして、慎ましく余生を過ごす予定だった。
 そのために必要なお金だってせっせと貯めていたし、遠方から訪れた客に土地の話などを聞いて、引越し先を見繕ったりしてもいた。
 父親のことは知らないが、母親の職業を思えば気にする意味もあまりない。
 一生知るつもりもなかったのに、つい先日他人から答え合わせをされてしまったのだ。
 私の隣で上品に微笑んでいる、年かさの女によって。
 突如私を攫い関係貴族のお屋敷で《血統解析》を行った彼女は、この国の宰相だ。
 どうやら私の母は大当たりを引いたらしく、私の父はこの国の前々王だったらしい。
 そんなバカな、とは思うものの、血統解析でそう判明したのだから仕方がない。
 王都にある花街のしがない娼婦である私には、なんと王位継承権が存在してしまったのだ。
 権利とはいうが、実質的には義務である。
 ここ数十年、政治上で色々あった結果、この国の王族は私しかいなくなってしまっているのだ。もう王権制度、廃止した方が良くない?
 そしてあれよあれよという間に王城へと拉致られた私は、ほとんど脅迫のような交渉と教育を経て、この場に立っている。
 紙吹雪が舞う中で、歓声を上げる民衆。
 大勢の声が重なって、もはや漠然とした音としてしか拾えない。
 ただ一様に私に笑顔を向けている光景は、悪い意味で壮観だった。
 私が娼婦だったということは、もちろん秘匿されている。
 前々王が辺境の小貴族の娘と恋に落ち、秘められた関係の中で生まれた存在が私という筋書きだ。
 多少の醜聞っぽさは否めないが、平民の子供として出すよりマシと判断したらしい。
 真実が知れれば、この歓声はあっさりと罵声に取って代わるだろう。
 あぁ全く、できることなら三ヶ月前の朝に戻りたい。
 まとまった金を持って、国外に高飛びするから。
 使い古された物語のような運命も、自分の身に降りかかればマンネリだと笑えない。

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