夢中文庫

片想いは今日まで

asahiyurine04_s
  • 作家朝陽ゆりね
  • イラストまろ
  • 販売日2015/6/30
  • 販売価格300円

佐武倫子は語学堪能な秘書室員。周囲は美人と思っているのに本人にはまったく自覚がない。告白された経験もないから自分に対して自信もない。そんな事情なので、大きな声では言えないがバージンだった。経験はないけれど、意中の人はいる。同期の遠藤に二年越しの片想い中なのだが、当の遠藤はこれまた同期で親友の絢子に片想い中。遠藤、絢子、それぞれの事情を知っているため、自分の本心がますます言えない。そんな時、遠藤から絢子に失恋したと言われ、愚痴を聞くために食事に出かける。遠藤はよほどショックだったのか、酔いつぶれてしまう。慌てた倫子は遠藤を自分のマンションに運ぶのだが――恋に不器用な倫子の切ないラブストーリー。

「そのニヤニヤ、やめてよ」
「だってさぁ。絢子(あやこ)ってばさぁ~。おかしすぎるんだもん」
「どこがよ」
「全部よ、全部。なにが、困ったヤツなの~、よ。ぜんぜん困った顔してないし」
両頬を手で押さえる姿が微笑ましい。だけど、私には少々胸が痛いこの会話。
同期の吉高(よしたか)絢子(あやこ)は困ったとかなんとか言いながら、ホントは好きなんだよね、いとこ君のこと。だけど、彼は絢子にとって、五つも年下で、現在大学生で、いとこという関係。頭から「ない」と思っているから、なかなか自分の本心に気づけないのだと思う。
対していとこ君のほうは、絢子の話を聞く限り、かなりはっきりとしたシグナルを送っている。それも、ずいぶん早くから。だって、実家が長野の彼は、小中高、長い休みの時は決まって東京の絢子の家にやってきたそうだから。
しかも抱きついたり、頬や額にキスしたりするっていうのよ? 小さな時から続いているスキンシップだって絢子は言うけど、中学生にもなったらしないわよ、そんなこと。それなのに大学生にもなっていまだにやっているって。それって「好き」ってことじゃない。
そもそも今のこの時代、大学進学で上京してきた大学生が親戚の家に下宿するってさ、ある? 一人暮らしするじゃない、普通。それって絢子のそばにいたいからだって丸わかり。それに気づかないなんて鈍感なんだから。
「マジ?」
「にやけて嬉しそう」
「やめてよっ」
「そのいとこ君、本気なんじゃない? いくらいとこ同士でも、そーいうスキンシップはしないと思うけど。私も母方のいとことはけっこう仲がいいけど、ありえないわよ、胸を触ったり、頬とはいえキスしたりするなんて」
「……でも、子供の頃からだもん。祥太郎(しょうたろう)が小学生の時からよ?」
「今は大学生でしょ? 自重するわよ。女の体、不用意に触ったりしないと思うけど」
絢子のムムムって顔を眺め、ちょっと言い過ぎたかな、と反省の気持ちがムクムク。
この鈍感な友達には、実はもう一つ問題があるのよね。
「でもさ」
ホントだったら言いたくないのだけど、でも、絢子の悩み事は別件でも少々私の中では大きな問題で……墓穴なんだけど、やっぱり、なんというか、好きな人のことを考えたら、無用のことを考えてしまって――。
「もし本気でカレシ作るつもりなら、同期の遠藤(えんどう)君が絢子のことを気に入っているようだから、アプローチしてみたら?」
「それってカジュアル部の?」
「そうよ」
「……ありえないんだけど」
ありえない?
「どうして? 遠藤君、背も高いし、営業マンらしくて爽やかでマメだし、いいんじゃない? 即交際かもよ?」
だって、私が惚れちゃってる人だから。
「いいよ、タイプじゃないから」
……タイプじゃない?
それってやっぱり、いとこ君が具体的イメージってこと?
とはいえ、ここはちょっとカマをかけてみる。
「そうなの? イケてると思うんだけど。ねぇ、じゃあ、絢子のタイプってどんな人よ」
「それは」
あぁ、もう、絢子ってば。
そこで顔を赤くして慌てている様子ってば、本心丸わかり。頭の中にいとこ君の顔が浮かんでるのが見えるわよ。
「なによ」
「やっぱり、そのいとこ君が好きなんじゃないの?」
「やめてよっ! 違うって」
「まぁいいけど。敦子(あつこ)がまた同期で集まろうって話していたから、ロマンス目指してみたら?」
「……はぁ。そういう倫子(りんこ)はどうなのよ」
「私?」
ギクリ。
想像にたやすい切り返しなのだけど、言われてしまうとギクッとしてしまう。
「私はいいのよ」
「どういいのよ。もういるってこと? 聞いてないぞっ」
「違うって。気になる人はいるけどってレベル」
「いるの? 誰? 誰?」
「気になる程度だからいっぱいいるのよ」
ヤバいヤバい、これ以上の追及は困る。
「あっ、ごめん、もう行くわ。じゃ!」
ランチタイム終了十五分前。お化粧直しに行かないとマズい、ということで、席を立った。
配属先の「秘書室」は容姿端麗なスタッフばかりで、私のようなフツーがどうして配属されたの!? と言いたくなる部署。まぁ、語学が認められただけだってわかってるけど。
男性も女性もモデル&俳優なみで、私ごときが身なりを整えるのに手を抜いたりしたらエラいことよ。なので、十五分前からお化粧直しに余念なく……。
鏡の前で自分の顔を見つめながら、考えているのは脳裏に浮かんでいる遠藤君のこと。
そっか、絢子はマジで遠藤君には興味ないのか。
嬉しいようで、そうではないようで……複雑。
……私、ヤな女よね。自分で自分がイヤになる。
遠藤君は……私の片想いの相手で、入社間もなく開かれた同期会で好きになってしまった。彼の屈託のない笑顔に胸を射抜かれたのを素で実感したから。
でも、その遠藤君は絢子のことが好き。同期会なんかでは、彼、いつも絢子の横をキープしているからすぐに気づいたけど、数ヶ月前に決定的なことを尋ねられたから。
――吉高って、付き合ってるオトコとかいるの?
それを聞いて、いないってちゃんと答えたけど、自分の失恋を痛感して凹んだもんね。ところがどっこい、その絢子は、いとこ君が好きなもようで……。
うまくいかないなぁ。けど、この状況の全容を把握しているのは、きっと私だけだと思う。
絢子は遠藤君の気持ちを知らないし、いとこ君は遠藤君の存在を知らない。遠藤君もいとこ君の存在を知らないだろうから。
絢子が「いとこだからNG」って言うなら、遠藤君の片想いを応援したいと思ってる。そりゃ、悲しいけど、彼が私のことをなんとも思っていなくて、さらに脈もなさそうなこの状態では、告白して傷つくより、今の関係を維持したいと思ってしまう。絢子の情報が欲しくて私に声をかけているってわかっていても、一緒にいられるのが嬉しい。
結局、意気地なしなのよ、私ってば。
……はぁ。
自分の恋より他人の恋を優先して、それでうまくいったら……私、ピエロよね。我ながらバカだと思うのだけど、とてもじゃないけど告白なんてできない。
悶々としつつも午後の仕事がスタートしたら、頭の中から絢子との会話は吹っ飛んでしまった。
電話、電話、電話……なに、これ? この電話攻撃。なにかあったのかしら?
立て続けに電話が鳴って、たまった資料作りが着手できず。あっという間に終業時間が過ぎて、残業タイムに。一時間半ほど頑張って、帰ることにした。
疲れた……週末だし、疲れもたまってるし。お化粧直しをする気にもならない。このまま帰ろう。エレベーターに乗り込み、一階を押す。下降が始まったけど、途中の階で止まった。
「あっ」
心臓がドキンと跳ねる。
「よぉ」
遠藤君……。
どきどきどきどき……。
やだっ、心臓君、おとなしくしてよ、聞こえちゃうじゃない。
「終わり?」
……声、震えていないよね?
「おぅ。実はこれから吉高とメシなんだ」
――え?
「昼に顔を合わせたから、勢いに乗じて誘ったらOKでさ」
「よかったじゃない、狙ってたもんね」
「ははっ、そうはっきり言われたら恥ずかしいんだけど。でも、まぁ、佐武(さたけ)にはバレてるから正直に」
「うん、頑張ってね。報告聞かせて」
「うまくいったらな」
エレベーターが到着して、扉が開いた。
「じゃ、また」
「がんばれ~」
嬉しそうな顔で手を上げて去ってゆく姿を見送る……。
そっか……遠藤君、絢子とデートなんだ。
そっか……。
……そっか。
少し歩いてエントランスに行くと、遠藤君と絢子の姿が見えて、思わず隠れてしまった。
嬉しそうな遠藤君の笑顔が切ない。
昼にって言ってたな。ランチタイムはずっと私が一緒だったから、お化粧直しに席を立ってからの話か……そっか……。
なんだかドッと疲れが……。
早く帰りたい衝動に駆られたけど、二人の姿が完全に消えるまで、動けずにいた。
だって、顔、合わせたくないじゃない。どんな顔して送り出せばいいのかわかんないもの。そもそも表情を作るなんて器用な真似はできない。きっと泣き出しそうになると思う。
うまくいくのかな、あの二人。
絢子はいとこ君のこと、いとこで終わらせられるのかしら。
……でも、終わらせるほうがいいよね。いとこで五歳も年下で、現役大学生なんだから。だとしたら、このまま遠藤君と交際するのがいいのだと思う。
やっぱり、愛されていることは大きいもの。遠藤君は絢子のことが好きなんだから、絢子さえ受け入れ態勢ができれば、もうそのまま突っ走ったらいいんだもん。
私の片想い、今日で終わりかな。
うぅん、それはムリよね。二人が交際を始めたからって、さっさとあきらめられるほど軽い気持ちじゃなかったし。
告白なしの失恋決定か。だけど片想いはまだまだしばらく続きそうだわ。

コメントを残す

ご意見・ご感想を投稿してください

メールアドレスは公開されませんのでご安心ください。
また、* が付いている欄は必須項目となりますので、必ずご記入をお願いします。

オススメ書籍

katofumika04

絶頂バスツアーでオモチャ研修-上司とイケメン後輩達のドSな三次会-

著者加藤文果
イラスト

アダルトグッズメーカーに出向することになった優奈は、親睦旅行で大人のオモチャの装着を命じられる。宴会の後には上司に体を弄られ、若手社員二人を交えた3Pバイブ実習まで! 淫らな研修で優奈は新たな快感に目覚めていく!

この作品の詳細はこちら