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月結い 雅狼4 ~祠☆闘士シリーズ~

  • 作家朝陽ゆりね
  • イラストもなか知弘
  • 販売日2015/12/15
  • 販売価格600円

「結華さんて兄様の婚約者だった方なの」怜柯から語られる、舞の知らない矢代家の過去。征一朗が元の会社で秘書だった丸山と再会し、新会社でも雇用して上機嫌になっていた頃、舞は疑心暗鬼に陥っていた。心配した守也が征一朗に、不要な災いに関わらぬよう注意する。しかし征一朗は元婚約者結華との過去を償い、彼女の不安を取り除くため動き出す。結華の兄佐伯秀真もまた、父が亡くなったことで矢代家との確執を解消しようと画策を始め――。結華のために元政財界大物所有の山へ悪霊退治に向かう征一朗。『破魔矢』長の恋人として征一朗の本業を手伝った舞は「世界中を敵に回しても私はこの人と一緒にいる」と心に誓う。婚約指輪に馳せる思いも番外編で収録!

秋蛍
 呪術一派『破魔矢』の一員であり、当主一家に仕える執事である守也(もりや)秋史(あきふみ)は、緊張した面持ちで矢代家の正面玄関の前に佇んでいた。間もなくやってくる客を出迎えるためだ。
 老いを刻み始めた顔には、いつもの穏やかな微笑みはなかった。執事として働き始めて幾歳月、百戦錬磨の守也であったが、今日ほど緊張することはなかった。何度も胸に手を当て、動悸を収めようと心がける。それほどまでに緊張していた。
 やがてグレーのセダンが門扉を越えて入ってきた。守也は車を追って来客用駐車場に歩み寄った。
 連絡通りだ。門扉は開けておくので、到着すればそのまま入り、来客用の駐車場にとめるよう伝えている。この屋敷の当主の妹、矢代(やしろ)怜柯(れいか)がそのように伝えているはずだった。
 守也は車に歩み寄り、客が降りてくるのを待った。そして目を見張った。車から現れた客は警察官の礼祭用の制服に身を包み、制帽を被って姿勢よく真っ直ぐ立ったのだ。
 斉藤(さいとう)光一(こういち)、警視庁刑事部捜査第一課に籍を置く捜査員。普段は私服で走り回っている男だ。腕にある銀色の階級章が彼の階級を示している。被る制帽の中央には、金色の桜の大紋が誇らしげに光っていた。その姿はまさしく凛々しく、彼が首都・東京の治安を守る一人だと痛感させた。
 斉藤が守也に向け、軽く頭を下げた。
「申し訳ありません。途中、事故で混んでいまして。遅れてしまい、恐縮です」
「い、いえ、時間通りでございます。わたくし、執事を務めております、守也と申します。どうぞお見知りおきくださいませ」
 そう述べ、深々と頭を下げた。
「はじめまして、斉藤です。怜柯さんからよく伺っています。こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します」
 斉藤は礼儀正しく名乗ると、守也同様深く頭を下げた。彼の顔にも緊張があった。
「こちらです」
 案内をする守也は、高まる気持ちを抑えるのに苦労した。慈しんできた愛娘にも等しい怜柯と付き合っている相手が、凛々しくも頼もしい男であることを確信して胸が震える思いだった。
 剣術の師範でもある守也の信条は、「日本男児たるもの、強く、凛々しくあれ」だ。が、昨今ではなかなか難しい注文になりつつある。「我が世界狭し」と諦めていた守也にとって、警察官の凛々しい制服姿は、文字通り理想的なものだった。
「どうぞ」
 玄関に入り、中へと案内する。
「当主はリビングにてお待ち申し上げております。客間ではなくリビングにご案内致しますのは、親愛の心故とご理解頂きとうございます」
 守也の言葉に斉藤は軽く会釈をして応じた。守也の緊張も相当だったが、斉藤の緊張のほうが遥かに大きかったのだ。
 やがて扉の前に立ち止まり、ノックした。
「征一朗様、いらっしゃいました」
 リビングにて新聞を読んでいた矢代(やしろ)征一朗(せいいちろう)が、守也のかけた言葉に新聞を置いて立ち上がった。彼も高級スーツをカッチリと着込み、隙のない完璧な格好で待っていた。そして時間通りに訪れた斉藤に顔を向け、やはり驚いたように彼を見た。隣に座る怜柯も同じだが、彼女の場合は頬を朱に染め、見惚れている。さらにその隣には、怜柯の生みの親である麻奈江もいた。スタンダードなデザインの黒のスーツ姿は、美しく着飾っている怜柯とは対照的だった。
 先月、妖しい宗教団体に囚われて大怪我を負った彼女は、十日程度入院し、退院後は屋敷で過ごしていた。胸に負った火傷の移植手術が完全に終わるまで、住まいのあるニースに戻ることを禁じられたのだ。そんな時に決まった斉藤の訪問の話だったので、欠席は不自然且つ失礼と判断され、同席を促されたのだ。
 斉藤は背筋を伸ばし、右手をこめかみ辺りに向け、警察官の礼を以て挨拶をした。
「失礼致します。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
 そう言って、制帽を取って左脇に抱え、切れのある動作で頭を下げた。

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