夢中文庫

酔い桜 紅孔雀1 ~祠☆闘士シリーズ~

  • 作家朝陽ゆりね
  • イラストもなか知弘
  • 販売日2015/12/15
  • 販売価格700円

「あいにく女に興味はないんだ」冷笑を浮かべ花魁のような女に言い放ったのは日野原有慶、祈祷師一派『朱雀』頭領の次男だ。妖艶な女はあらぬ場所に目を持つ異形のものだった――。編集プロダクションギャロップの新人カメラマン朝比奈彩羽は初めての担当、『日本神話入門』取材のため現役の神主有慶を紹介された。桜回廊と呼ばれる桜の名所で撮影に夢中になる彩羽だったが、そこは封じられた妖魔の巣窟だった。桜に酔うように朦朧とする彩羽、そして祖母まで憑依され事態は一刻の猶予も許さない。自らに宿る力を知らない彩羽は火を従える有慶と周囲の者達により名に込められた意味も悟る。夢に向かう彩羽は新たな一歩を踏み出せるか。

文字通りの百花繚乱。
 満開の桜が風を受けて枝を揺らせている。至る所に据えられているガス灯が静かな夜の闇の中で淡い光を放ち、周囲は幻想的な彩りに満ちていた。
 ガス灯といっても本物ではない。改造されたソーラータイプのランプだ。趣のあるガス灯の外枠を残し、中だけ変えたのだ。
 ずいぶんと広い私有地だった。最奥部には古びた洋館があるが、今は無人である。塀は二層造りになっていて、洋館に至る中塀より奥が立入禁止とされ、中塀から外塀にかけては一般に開放されていた。
 春は桜、秋は紅葉。持ち主は雅を好む人物だったのだろう。そして現在の主も、転居の際、せっかくの彩りだからと地元に解放したのだからずいぶん粋な性格だ。すぐに地元の人気スポットとなった。最近ではわざわざ遠方からやってくる観光客もいるほどだ。
 今も真夜中にもかかわらず、夜桜見物に勤しんでいるギャラリーが少なからずいる。私有地ということで飲食は禁止とされているため場所を取ってはしゃぐ無粋な輩もいず、実に静かで上品なお花見スポットとして好まれていた。
 灯りに浮かぶ薄紅色の桜は昼に増して可憐で美しい。朝比奈(あさひな)彩羽(いろは)はファインダーに見物人が入らないよう位置を取りながら夢中でシャッターを切っていた。一眼レフのデジタルカメラ。液晶画面を上から見下ろすのではなく、直接覗いて確認するようにしている。こだわっているのではい。未熟だからこそ自分の目で確かめたいのだ。
 闇の中にうっすらとライトを受けた薄紅色の花びらにピントを合わせる。
(綺麗)
 ザワリ──また一つ風が吹く。居並ぶ立派な茎から伸びる枝々を一斉に揺らせる。そこにカシャリカシャリと音が響く。数日したら、その風に花びらが乗ることだろう。闇夜に舞う薄紅色の花びらはさぞや美しく、風流だと想像するにやすい。
 彩羽は蕾がつく以前から通っていた。そして開花が始まると、昼と夜それぞれ訪れ、その変化をカメラに収めていた。ようやく満開を迎えた華やかさに心が躍らないはずがない。後は散り始め、風に舞う姿が撮りたい。
 花は散るからこそ美しい──。
(あっ)
 ファインダー越しに男を見つけた。そのまま顔を上げ、直接確かめる。幻想的な薄紅色の世界に悠然と佇む男は、両手をパンツのポケットに突っ込み、揺れる桜を見上げている。その姿がサマになっていて、景色に溶け込んでいるかのように映る。
 身長は一八〇センチぐらいだろうか。けっこう背が高い。細身で、少し長めの髪が風に靡いている。黒のパンツに若草色のジャケット。カジュアルながらシックだ。桜を見つめる目元と、横顔から受ける印象は穏やかで優しげだった。年齢は三十前後と見受けられる。
 彩羽は視線を動かすこともできずジッと見入っていたが、ふいにその目を大きく見開いた。男がこちらに顔を向けたのだ。彩羽は息をすることも忘れたかのように硬直した。
 目が合った。
(あの人──)
 その瞬間、彩羽は現実的ではない光景が広がるのを見た。
 炎。
 薄紅色の桜の中、火の粉を散らしながら渦巻く炎に巻かれている姿。悠然と、そして優美に立っている。まるで炎を従えているようだ。

オススメ書籍

夕闇の王立図書館~強引王子の求愛行動~

著者熊野まゆ
イラスト弓槻みあ

「おまえの気持ちがどうであれ、周囲はあの状況を婚約だと認識しただろうな」――読書好きのジュリアは友人の口利きで運よく王立図書館に就職することができた。勤務初日は何事もなく終わりそうだったのに、夕闇迫る閉館間際にとんでもない客がやってきた。容姿以外はなにもかも王子様とは程遠いその男に、みだらなイタズラをされつつ強引に迫られて!? 強引王子と新人司書の異世界ラブ・ファンタジー。

この作品の詳細はこちら