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【深志美由紀ベストセレクション】恋蜜牢は純潔をからめ乱して

  • 作家深志美由紀
  • イラスト乃里やな
  • 販売日2017/11/07
  • 販売価格600円

こんなふうに蔑まれるなんて悔しい、絶対に負けないわ……憧れの職業に就いた女性たち。喜び勇んで仕事に熱中するものの、成果が出せず上司に叱られ意気消沈の日も少ないくない。このままではダメだ、そう思っているところに、ある女性デザイナーには「研修」の提案が、またある女性教師には生徒からの「相談事」が持ち掛けられ――。仔ウサギのように怯え潤んだ瞳の女性たちに待ち受けていたのは、甘くて淫らな罠。狂気さえ感じるほどの美しい容姿を持つ男性に捕まって、閉じ込められて、与えられるのは究極の愉悦。身体に直接教え込まれる大人の刺激にいつしか陶酔する彼女たちの行く末は……?剥き出しの欲望に煽られる珠玉の4作品収録!!

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*1
「きゃあっ」
 音を立てて倒れる椅子と机。
 リノリウムの床へ散らばる教科書。
──舞い落ちる、真っ白な封筒。
「黙れ──」
 大きな手のひらで口を塞がれて、私の喉はヒッと引き攣(つ)った。
「声を、出すな」
 低く囁く、苦しそうに掠れた声。
──これは『男』の声だ。
 ほんの少し前までは私と大して変わらない、女の子みたいなソプラノをしていたはずなのに。彼の声はいつのまにこんな無骨で深い、『男』のそれになってしまったのか。
 彼は私の身体へぐっと体重を伸し掛けて身動きを封じ、手首を掴んで床へ押し付けた。床に落ちたシャーペンの先が腕を刺す、鋭い痛み。
 とろりと甘い金色の夕陽に満たされた、放課後の教室。遠くに部活動の声が聞こえるだけで校内に人気(ひとけ)はなく、物々しい騒音に気付く先生もいそうにない。
「頼む……拒絶、しないでくれ」
 搾り出したその声、こちらを見下ろす切れ長の瞳が苦しげに歪む。私は彼が泣き出すのではないかと思ったが、そうはならなかった。
「んんっ! あぅっ……!」
 引き裂かれるブラウス。
 スカートの中へ侵入する手のひら。
 指先が無遠慮に、布越しの私の一番大切なところへ触れる。まだファーストキスもしたことなかったのに。こんな場所でこんなふうに──そんなのは、いやだ。
「……やめてぇっ!」
 自分の叫び声ではっと目覚めた。
「あ……」
 また、あの夢だ。
 窓の外は既に明るい。雀の鳴き声に時計を見ると、朝の五時半を指していた。起きるには少し早いけれど、再び眠れる自信はない。まだ胸がドキドキしている──指先が震える。
「もう……いい加減にしてよ」
 私は自嘲した。
──もう二十八にもなるのに、まだ、中学生の頃のことを夢に見るなんて。
 あれから何度も男の人と恋愛をしたし、セ○クスを楽しめるようにもなった。いくらなんでも、もう忘れてもいい頃だ。
 私は重い頭を振ってベッドから這い出した。
「あら、早いじゃない。珍しい」
 キッチンへ降りると、お母さんが朝食を作っているところだった。テーブルの上には三つのお弁当箱が置かれている。私は余った卵焼きを摘(つま)み上げてひょいと口へ放り込んだ。
 私の両親は自営で小さな印刷会社を営んでいる。二人とも少し前まで昼は店屋物ばかり取っていたのだが、最近は節約を心がけているらしい。私の分までお弁当を作ってくれるので願ったり叶ったりだった。
 上げ膳据え膳のOL生活は気楽で快適だ。早く嫁に行けと急かす両親には悪いが、とてもまだそんな気にはならない。
 私は淹れたてのコーヒーをマグカップへ注いだ。芳しい香りを胸いっぱい吸い込むと、夢見の悪さも薄れていく気がする。
「あっ、貴巳(たかみ)くんよ、ちょっと」
 突然、料理の手を止めて、お母さんがテレビの音量を上げた。
 画面には近頃爆発的な人気を誇るアーティストの入江(いりえ)貴巳が映っている。ドキリと心臓が跳ねた。朝のニュースにふさわしい爽やかな男性アナウンサーが、先日、彼が初の武道館ライブを成功させたというニュースを読み上げる。
「ますます人気が出て、凄いわねえ」
 感嘆の声に、私は曖昧に頷いた。
──入江貴巳。
 彼は私の幼馴染で──たぶん、初恋の人だった。
「きゃー、それ、タカミンのチケット?」
 華やいだ声に、私は思わず顔を上げる。昼休みの終了間際、ギャル風メイクが未だ抜けない新人社員の二人がきゃっきゃと楽しそうにはしゃいでいた。
「凄ーい、どうやって取ったの? 倍率高いのに」
「へへ、私の叔父さんが芸能関係でさー」
 私は内心ため息をつく。朝のTVといい、最近は毎日のように彼の話題を耳にするようになった。そのせいで、あんな夢を見てしまったのだろうか。
 入江貴巳とは家も隣同士で同級生、それこそ生まれた時からずっと一緒に過ごしてきた。貴巳はひ弱で泣き虫で、背が小さくて顔が女の子みたいなものだから近所の男の子たちによくいじめられて、そのたびに私が守ってあげたものだ。
──『美音(みなと)ちゃん、好きだよ』
 耳元に、甘い、とろけるような響きの幼い貴巳の声が蘇る。
──『しょうらいは結婚しようね』
 他愛ないおふざけだったあの頃の言葉。それがいつからか別の意味を持つようになって……私は、彼のことを避け始めた。
──それがまさか、あんなこと。
 中学を卒業してから私たちは別々に進学した。彼は全寮制の高校へ進み、気が付くとミュージシャンになっていた。今では誰もが知っている、日本を代表する国民的アーティストの一人だ。
──もう、雲の上の人。
 私には関係ない人間だ。だから、彼のことで私が気に病むことなんてひとつもないのだ。記憶だっていつか薄れる──楽しかったことも、辛かったことも。

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