夢中文庫

ファインダー越しの愛~アナタを忘れられない~

izumirena03_s
  • 作家泉怜奈
  • イラスト雪乃つきみ
  • 販売日2016/03/23
  • 販売価格500円

「乃枝、ぐっしょりだよ。ここ。感じやすくていやらしい体だ。乃枝は全部俺のものだ」全てを捧げた賢吾が乃枝を捨て、世界に飛び立ってから6年になろうとしていた。乃枝は賢吾との日々を忘れる為、勤務先の社長の息子拓真に望まれるまま婚約したが、未だ彼のことを忘れることが出来ずにいた。そんなある日、世界的に有名になった賢吾が現れた。彼を目の前にした瞬間、乃枝は細胞ひとつひとつが彼を覚えていることを感じる。二人は燃え上がるままに情熱に溺れ、乃枝は拓真との別れを決意する――。一方、二人の関係を知った拓真は、乃枝との結婚を強引に進め、次第に狂気に走り……愛を確認した二人の運命が狂い始めるラブサスペンス!

プロローグ
 出発、到着のアナウンスがひっきりなしに流れ、多種多様な人種が行き交う空港は異国の言葉が飛び交い、混雑していた。
 到着ロビーに出ると足を止め、母国の空気を肺一杯吸い込んだ。懐かしさで胸が一杯になる。走馬灯のように思い出が忙しなく駆け抜けていくまま喧騒の中目を閉じた。
 脳裏に浮かぶのはかつて、いや、今でも愛している彼女の面影。
 真っ直ぐな栗色の髪が自分の肌を掠めたときの感触を昨日のことのように思い出してしまう。リスのような愛嬌(あいきよう)のある瞳は琥珀色で、光に反射すると宝石のようにキラキラ輝いた。真っ白な肌はシルクのように滑らかで、いつまでも触れていたいと思ったものだ。
 6年経った今でも彼女の全てを鮮明に覚えていた。
 過去の余韻に浸っていると、20代の若い男性がこちらに向かって歩いてくるのが目に留まった。
 手にカメラを抱えていることと滲(にじ)み出る独特の雰囲気から、カメラマンだろうと推測する。
「飯島さん? 飯島賢吾(いいじまけんご)さんですよね? ファッションフォトグラファーの」
 そう問いかけてきた男を観察するようにじっと見つめた。
「そうですが。なにか?」
「あ、僕、勝本(かつもと)と申します。一応、カメラマンですが、週刊誌のほうの」
 名刺を差し出し、彼は軽く頭を下げ挨拶をした。
 週刊誌のカメラマンがなぜ自分に声をかけて来たのだろう? 警戒心を強くしながら相手の出方を待つ。
「飯島さんは、ファッションフォトグラファーで世界的に成功されている日本人ですから、いろいろ注目の的なんですよ。写真、使わせてもらいます」
 彼はカメラをかざしてそう言った。賢吾は勝本の言葉を嫌味には感じなかった。真っ直ぐな視線を向けるその目に誠実さを感じ、賢吾は緊張を緩めた。
 ほとんどのゴシップのカメラマンはこんな風に相手に接触はしない。しかし勝本は丁寧に声をかけてきたのだ。
「そうですか、あまり周りをうろつかれるのは困りますが、あなたも仕事でしょうから、適当に使える写真は使ってもらっていいですよ」
 その言葉に勝本は面食らった様な表情をした後、破顔した。
「すみません。恐縮です。あ、僕、こう見えて、飯島さん尊敬してますんで、ちゃんとした写真を出させてもらいます」
 誰にでも言う建前にもとれなくはないが、その言葉を素直に受け止めた。
「あなたも大変ですね。じゃ、よろしくお願します」と、肩を叩き、立ち去った。
「あっちゃー、男前はどこまでも男前だな」
 勝本の独り言は賢吾の耳には届いていなかった。
過去と現在
 心地よいオーガニックなアコースティックギターの音色に合わせて甘い声で歌う『I’m Yours』がスピーカーから流れている。レンガの壁に囲まれ、まるでNYのロフトの雰囲気のようなお洒落な空間は、世界最先端を行くと言っても過言ではないファストファッション系アパレルメーカーのオフィスだ。その一角の机で長谷川乃枝(はせがわのえ)は、直毛の栗色の長い髪を後ろで一つにまとめ、唇を噛(か)みながら製図を引いていた。
 唇を噛むのは乃枝の集中しているときの癖なのだ。
 Vネックのフェミニンな花柄のブラウスに、ヒップがきれいに見えると評判のジーンズ姿の乃枝の服は全て自社ブランドのもの。つまり乃枝がパターンを起こした服たちだ。
 乃枝は若者のあこがれブランド「B-yours」のパタンナーの一人だ。ファッション系専門学校卒業後、幸運なことにこの会社に採用が決まった。社長の坂下和人(さかしたかずひと)は一代でファストファッション系のアパレルメーカー『B-yours』を世界に進出するまでに急成長させた敏腕経営者だ。
 自社ビルを表参道の一等地に構え、1階から3階に「B-yours」のブティックがあり、4階からオフィスとなっている。
 ブティックの店員も、オフィスのスタッフも自由な服装で、個性的でエネルギッシュな人材が集まる活気のある会社だ。
 乃枝は6年たった今でもまだまだ下積みだ。真面目な性格で団体行動より独りを好む乃枝にとって、独り集中して作業が行えるパタンナーの仕事が性に合っていた。
 トゥルンと、スマートフォンがメールを受信したことを知らせる機械音が鳴った。しかし乃枝にはそれさえ耳に入ってこない。
 横で作業をしていた三上瑠衣(みかみるい)がデスクに置きっぱなしの乃枝のスマートフォンを手に取り、彼女の目の前にかざした。
「ほら、乃枝ちゃん。メール。返事しないとまたお坊ちゃんの機嫌損ねちゃうよ~」
 乃枝は気だるげに顔を上げた。
「瑠衣先輩、すみません」と言って、自分の携帯を受け取る。
 瑠衣の言った通りメールを送ってきたのは営業部にいる乃枝の婚約者、坂下拓真(さかしたたくま)だった。瑠衣がお坊ちゃんと揶揄(やゆ)するのは彼が社長の息子だからだ。
 画面を見ると『今日接待。ドタキャンごめん』とメッセージが入っている。乃枝は直ぐに『OK』とだけ打ち込み返信した。
「超かんけつー」横で見ていた瑠衣が笑っている。乃枝は微笑んで誤魔化し、作業に取り掛かった。
 拓真は乃枝より3つ年上の29歳。付き合って3年になる。30歳までに結婚して落ち着きたいという拓真の意見を受け入れ、婚約して半年になろうとしていた。スポーツ選手のような骨太のがっちりとした体格の拓真は大きな瞳のせいで童顔に見える甘い顔立ちだが、性格は自己中心的で強引な面があり、思い通りにいかない場合、何としても従わせようとする支配的な一面がある。それを知った乃枝はトラブルを避けるためにほとんど口答えをしないようにしていた。
 お互い多忙なため具体的な結婚の日取りなどは決まっていない。その状態に、安堵している自分がいる。乃枝は拓真との関係にどうしてものめり込むことができないでいた。
 ふとした時、特にこんな風に拓真との関係にため息をついてしまいたくなるような時は、思い出してしまう。
 激しく燃え上がり感情のまま突き進んでしまう恋をしていたあの時のことを……。彼だけが全てだったあの頃を……。

ご意見・ご感想

編集部

忘れられない恋を忘れる為の別な男性との婚約してしまう乃枝さんの気持ちが切なすぎます。
突然帰ってきた賢吾と狂気じみた婚約者の間で繰り広げられる展開にハラハラ&ドキドキです~~

泉怜奈先生ならではの愛と狂気渦巻く極上のラブサスペンスをご堪能ください!!

2016年3月23日 8:37 PM

泉怜奈

初めまして。
夢中文庫さんでは本作3作目となります泉怜奈でございます♪
今回はサスペンスタッチということで、作者のカラーがより強く出た作品なのではないかと思います。
思い入れは、すみません!3作品の中では断トツ!!なんですー!!
ですので、多くの人に読んでほしいです!

今作のヒーローは寡黙で、落ち着いた大人の男性です!
ズバリ、自分の好みなんですが…(;´・ω・)

好きなのにはっきりそれを言えなかったり、大人だから不安な気持ちを年下の彼女の前で出せなかったり、そんな年の差ゆえの行き違いなども、サスペンスな雰囲気の中ドキドキしながら感じていただけると本望です。

ご意見ご感想、お待ちしております♪

2016年3月23日 11:46 PM

オススメ書籍

izumirena07_muchu

この愛は偽装・・・・・・? それとも、真実ですか?

著者泉怜奈
イラスト夢志乃

「いたってノーマルだ。コスプレをしろとも言わないし、縛らせろとも、目隠しもなしだ。普通に君を抱く。なんなら今試すか?」高級ホテルの客室清掃のバイトをしていた涼夏は空室のはずの一室で、全裸でバスルームから出て来た男と鉢合わせをする。再会したホテルのハプニング男は誰もが一目置くエリートのサラブレッド、桐谷の御曹司、要だった。怜悧な雰囲気を崩さない氷の美男子から契約恋愛を持ちかけられるが……。官能小説家の涼夏は傲慢な彼の態度に憤慨し、拒絶するも、執拗に彼に口説かれていくうちに彼の意外な一面に心が揺れて……。心も体も彼に捕らえられていくが、彼には涼夏に惹かれる理由があった。桐谷兄弟シリーズ第三弾。

この作品の詳細はこちら