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マッドな御曹司に溺愛されました

  • 作家桐野りの
  • イラスト一味ゆづる
  • 販売日2018/09/14
  • 販売価格300円

製薬会社研究員、美野里の上司、斉藤は職員たちからひそかに「マッドサイエンティスト」と呼ばれている。背が高くてイケメンだが、滅多に笑わず誰とも会話をしないため、周囲からは変人扱いだ。豪邸に住み虎を飼っているという噂まである。しかし美野里は彼が飼犬のアレックスに髪の色や雰囲気が似ているため、何となく好感を持っていた。ある日美野里は同僚に頼まれ、弁護士とお見合いをすることに。理系女子へのありがちな偏見を口にするお見合い相手に辟易する美野里。ふと喫茶店の隅にいるフードにサングラス姿の男が目に入った。真夏なのに厚着。なんだか怪しい。ハイスペックな変人ヒーローと真面目な理系女子とのピュアフルラブ。

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◆一話
「ねえねえ、マッドの家ってトラがいるんだって」
 昼休みにデスクでコンビニ弁当を食べていたら、隣席の同僚、木下(きのした)ときこが小声で話しかけてきた。
「さすがにそれは嘘でしょ」
 市川(いちかわ)美野里(みのり)は苦笑いで否定した。
 マッドサイエンティスト、略してマッドこと斉藤(さいとう)平太(へいた)は、製薬会社『オースリーメディカルラボ』の研究員で、同じく研究員である美野里の先輩である。
 ボサボサ頭で、白衣はヨレヨレ、決して笑わず口から吐くのは毒舌ばかり。
 185CMを超える高身長とがっちりした肩幅、無駄に整ったルックスと言う威圧感のあるスタイルは、フレンドリーな職員揃いのこの会社ではかなり浮いている。
 ある意味、珍獣扱いの名物社員で、彼には信憑性の高いものから低いものまで、様々な噂が囁かれている。
 ペットがトラ、と言うのも、そのうちの一つだ。
「ま、さすがにそれはガセネタだろうけどさ。御曹司だっていうのは本当っぽい。おうちがすごい豪邸なんだって。どこかの王子さまかっていうぐらい」
 小声で囁くときこを、美野里は半分呆れながら眺めた。
「いつもいつもなんかすごいね。どこからそんな情報もらってくんの」
「秘密」
「やだ」
 二人できゃいきゃい話していると、ふらりと白衣姿の斉藤が入ってきた。
「トラ」
 ときこがポツリと言い、美野里は吹き出しそうになりながら、やめなよと、ときこの肩をつつく。
 斉藤はちらりと二人を見ると、
「ふん」
と小馬鹿にしたような笑みを浮かべ、フロアの中央にあるソファーに横たわった。
「……こんなにでかい体で、ソファーを占領されると威圧感あるね」
 ときこが囁く。
「確かに」
 美野里は頷いた。
 去年の四月に、本部からの異動で、斉藤はこの部署に行ってきた。
「斉藤です。よろしく」
 ぺこりと頭を下げた彼に美野里は、
(うちのアレックスに似てる)
 という感想を持った。
 アレックスというのは、実家にいるゴールデンレトリバーである。
 茶色い髪の毛とでかい図体がそれっぽい。
 アレックスみたいな愛嬌など、微塵もないとわかったのは、一緒に働きはじめてすぐだった。
 めったに笑顔を見せないし、話す言葉はいつも理路整然としていて、人間味がない。
 話しかけても全然会話が盛り上がらないし、目つきも鋭すぎてちょっと怖い。
 ラボに勤めるほとんどの女性職員たちと同じように、美野里も彼が苦手だった。
(見た目だけは激似なんだけどね……)
 ソファーからはみ出した長い足を眺めながら、愛犬を思い出していたら、「ところでさ」とときこが、膝がぶつかる距離まで椅子を滑らせてきた。
「明日、暇? だったらお願いがあるんだけど」
「別に予定はないけど……何なの」
 美野里はプラスチックの容器を片付けつつ、警戒モードに入る。
 ときこのお願いにはろくなことがない。
「明日、私の代わりに、お見合いに行ってきてくれないかな」
「お見合い!?」
 声が大きかったのか、斉藤がむくりと顔をあげた。
 細められた目がピタリと美野里に据えられる。
「す、すいません」
 斉藤は何か言いたそうな表情をしていたが、再びソファーの上に仰向けになった。

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