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天才ショコラティエの溺愛チョコレート

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  • 作家黒羽緋翠
  • イラスト中田恵
  • 販売日2016/01/22
  • 販売価格300円

「そんなかわいい声を出して、俺を挑発しているのか?」颯真はお皿に載っていたショコラを口の中に入れるとすぐに私にキスをする。「その顔を俺以外の男に見せるなよ。命令だ」相手は颯真なのにどうしてこんなにドキドキするの?――スイーツが大好きな樹里は、会社近くにショコラ専門店がオープンすることを知る。朗報に心躍るのもつかの間、ショコラティエの浪河颯真の店だと聞き、愕然。実は颯真は悪魔のような幼なじみだったのだ。颯真との関係を周囲に隠していたが、同僚に誘われ彼の店へ行くことになった樹里。いじわるな颯真に翻弄されたあげく、ショコラをちらつかせて誘惑され……嫌なのにどうして逆らえないの? ショコラがつなぐ初恋ラブストーリー


 休日の午後。スイーツ専門店は、今日もカップルや家族連れで賑にぎわっていた。
「樹里じゆり、あんたはいくつ食べれば気が済むのよ」
「うーん。まだ狙っているケーキがあるから、あと二つは食べる!」
 呆れたようにため息をつく香川梢ががわこずえをよそに、私、佐々木ささき樹里は三個目のショートケーキを口に入れる。
 口溶けのよい生クリームといちごが混じり合ったこの感覚は、何度食べても至福だ。
「今日はすでに三つも食べたでしょ? これで終わりにしなさい」
「やだ! 最後にぜっーたい、チョコレートケーキを食べるもん」
「わかったから、子どもみたいに駄々をこねないで」
 梢は窘とがめるようにそう言うと、素早く席を立ち、チョコレートケーキがずらりと並ぶショーケース前に移動する。
 高校時代からの親友である梢は、私の行動を熟知して最後のケーキを自ら取りに行く。
 そんな梢だからこそ、気兼ねしないでスイーツのお店に付き合ってもらえるのだ。
「そんなにチョコレートが好きなら、天才ショコラティエと結婚すればいいのに」
「は? そもそも、そんな人と知り合いになれるわけないでしょ?」
「颯真そうまさんに決まってるじゃない。今はフランスの一流ショコラティエだもの」
「ありえない! そもそもそんな人なんて知りません!」
 至福の時間にどうしてその名前を出すのかわからないが、梢はすごく楽しそうに微笑む。
(人のことだと思って、絶対に面白がってるよ)
 そんなことを思いながら、私は梢の持ってきたチョコレートケーキを口にした。
──浪河なみかわ颯真、三十歳。フランスの有名店の日本人ショコラティエ。
 女性誌では『天才イケメンショコラティエ』と取り上げられるほど人気がある人物だ。
 どうしてそんな雲の上の人の名前が梢の口から出たかと言えば、私と颯真が幼なじみだからだ。
 お互いの両親が仲がいいので、小さい頃の私たちはいつも一緒に遊んでいた。
 ただし、いじめっ子といじめられっ子の関係なので、私からすれば黒歴史でしかない。
 大切にしていたくまのぬいぐるみを取り上げられたり、大嫌いなカエルを見せつけられたり……。
 その名前を聞くだけで、思い出したくもない過去が次々と蘇よみがえるほどだ。
「今をときめく天才ショコラティエと幼なじみってだけですごいと思うのに、なんで隠したがるの?」
「颯真だってきっと忘れているに決まっているし、日本に帰ってこないよ」
「そう思ってるのは樹里だけじゃないの?」
「この話は終わり! そもそも、そんな雲の上の人が一般人を相手にするわけないから」
 梢の表情が気になったものの、何年もフランスにいる颯真が日本に帰ってくるとは到底思えず、話を打ち切る。
 本音を言えば、もっとスイーツを堪能たんのうしたいところだけれど、この話を長引かせたくないのでしかたがない。
 少し不満が残りながらも、私たちは店をあとにして買い物へと出掛けた。

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