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蜜罠~盲愛の枷に囚われて~

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  • 作家深志美由紀
  • イラスト夢志乃
  • 販売日2017/09/19
  • 販売価格300円

今頃気付いたってダメ、逃がさないよ。お姫様みたいに可愛がってあげる――
神戸律花はバイト先で見かける澄田幾月を気にしていた。
整った容姿に反し、だらしない生活のようだから。
そんな彼がある夜道端で座り込んでいる。
親切心で送ってあげた律花は、なぜ見ず知らずの相手にそこまでしたのか、答えが見つからないまま幾月に押し倒される。
ダメだと分かっていても身体は素直に反応し、幾月の手に、唇に翻弄されてゆく。
格好とは不釣り合いな豪華マンションで暮らしている幾月は何者なのか、律花をずっと前から知っていた?
容赦なく与えられる快感とともに明らかになる二人の関係。
お願い、触れて、もう離さないで――この気持ちの答えは……?

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 その日、道端で出会ったのは運命の男だった。
「あの……具合でも悪いんですか?」
 バイト帰りの夜十時。アパートへ帰る途中で、私は男の人が道路に座り込んでいるのを見つけた。
 もちろん、普段なら、そんな状況で見知らぬ男性に声を掛けたりはしない。私にだっていちおうの危機意識くらいはある。けれどその時つい話し掛けてしまったのは、彼が、私のバイト先であるコンビニエンスストアによく買い物に来るお客さんだったからだ。
「……」
 公園の入り口を仕切る銀色のポールにだらりと背中を預けていた男は、気怠そうなしぐさで顔を上げる。さらさらの黒髪に、すっと通った鼻筋。整った顔立ちに似合わないどんよりと澱(よど)んだ瞳が私の顔を捉え、まるで射抜かれたような気持ちになって思わずぎくりと身を竦(すく)めた。
 しかしその目がこちらを見たのはほんの一瞬で、彼はすぐに再び俯いてしまう。
「……大丈夫だ」
「で、でも……」
 私の言葉を振り払うようにして立ち上がろうとした体がぐらりとかしいだ。
「危ない!」
 私は咄嗟に飛び出して男を支えた。伸ばした腕にずしりと体重が掛かる。なんとか脚を踏ん張りながら、ぜんぜん、大丈夫じゃないではないかと思った。
 怪我をしているような様子はないが、酔っているのだろうか。
「……悪い」
 体勢を立て直しながら思いのほか素直に謝る彼に、私はつい余計な一言を掛けてしまった。
「あの、お、送りましょうか? おうち、近いんですよね?」
「は……?」
 怪訝な表情をされて、あっ失敗したと悟った。慌てて、言い訳じみた弁明をする。
「あ、えっと、私、そこのコンビニで働いてて……。お客さん、よく普段着でいらっしゃいますよね? だから、家が近いんだと思って。すみません」
「……普段着、ね。パジャマの間違いじゃないか?」
 男は自らの服装を見下ろして自嘲するように笑った。僅かに舌がもつれていて、やはり彼が泥酔していることを確信する。
 確かに、彼の服は部屋着というよりは寝巻きと言った方が相応しいようなものだった。毛玉の目立つカーディガンにくたびれたジャージ。足には踵(かかと)の潰れたスニーカーを引っ掛けている。
 今日に限ったことではない。彼はいつもそんな恰好でダラダラとコンビニへやってくる。まるでモデルかと見紛うような長身の美形なのに、その容姿にあまりに不釣り合いな格好をしているので嫌でも目を引くのだ。
 昼となく夜となく、一日中いかにも寝起きという風情で彼はカップラーメンやビールを買いに来る。毎日毎日そんな調子なので、仕事はしていないのだろうか、ちゃんとご飯は食べているのだろうかと以前から気になっていたのだ。
 数えきれないほどやってくるお客さんの中で私が彼を特に気に掛けてしまうのは、その容姿のアンバランスさばかりではなく──なんというか、全体から発せられる雰囲気のせいでもある。
 人生すべてに飽きてしまったような、気怠げなまなざし。無機質な冷たさの無表情は近づくものを拒否するようで、他人を信用していない野性の獣を思わせる。
──どこか、私に似ていると思った。
「とにかく、大丈夫だから。ほっといて」
 そう言って私の手を払い、再び歩き出そうと二、三歩進んだところで彼は足をもつれさせる。
「ほら! 無理しないで」
 もう一度腕を伸ばしてその体を支えると、男は何かを諦めたようにため息をついた。
「……本当にいいのか?」
 乗りかかった船だ。「はい」と頷く私に、彼は初めて──僅かに、唇だけで微笑んだ。
 男の家はそこから三分ほど歩いた場所にある高層マンションの最上階にあった。

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