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花笑むワルツ~男爵子息の焦れる指先~

  • 作家さえき巴菜
  • イラストまろ
  • 販売日2017/04/18
  • 販売価格600円

「君はだれが好きなのか、はっきりと教えてくれ」――ミルディナは幼なじみの男爵子息ユージン・モルズウェルに想いを寄せていたが、彼の弟が留学してから距離を置いていた。自分は貴族ではなく、資産家でもない。そして男爵の跡を継ぐユージンは、どこかの伯爵令嬢に求婚していると耳にしていた。想い続けても叶わない……そう思っていたミルディナだったが、数カ月後、偶然出会ったユージンにキスをされる──。やがてある事件によって、男爵家の領主館リリー・ハウスに匿われることになったミルディナ。それを追うようにやってくるユージン。幼き日の思い出が詰まった百合の香りのする館で、ミルディナは想いを口にするが……。

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プロローグ
 モルズウェル男爵の領地は、豊かな森と湖を持つ南西にあった。
 木々に囲まれた小高い丘に建つ領主館は、別名をリリー・ハウスともいう。
 以前は土地の名前をつけたありふれた館だったが、優美な白い外観や、庭園を彩る花々の中でもっとも多く植えつけられたのが百合だったことから、いつしかそう呼ばれはじめた。
 夏の数週間──。
 白い花々が甘い芳香を放つ季節、そのリリー・ハウスで過ごすのが、ミルディナ・メンデルの毎年の決まりだった。
 一介の大学教授である父親と母親、そしてミルディナが招かれるのは、ひとえにモルズウェル男爵の友情ゆえである。男爵と父親は同年で、寄宿舎に入っていた少年の頃から大学まで共に過ごした親友だった。
 狩猟、釣り、ピクニックに晩餐会──夏はあっという間に過ぎていき、メンデル一家はリリー・ハウスを去る。
 そして……。
(今年も、もう、終わり)
 ミルディナは、オイルランプが淡く照らす室内を見つめてため息をついた。
 両親は最後の晩餐会に出ている。十歳のミルディナには参加できない大人の集いだ。
 客間付きのメイドに頼んで、オイルランプを灯したままにしてもらっている。両親の部屋は隣だったが、その前に父親は必ずミルディナのベッドを覗き込むから、戻れば消してくれるだろう。
 天蓋のついた巨大なベッドの中、ひとり寝返りをうつ。程よい弾力のあるマットレスは自宅のものとは比べ物にならず、シーツは今夜も清潔な匂いがした。
 それでもミルディナの小さな唇から、もう一度、ため息が漏れる。
 明日の夜には都の小さな自宅にいて、いつも不機嫌な母親と家庭教師とふたりのメイドと顔を突き合わせるだけの日々に戻るのだ。
(つまんないの)
 ミルディナはまた寝返りをうった。
 コンコン、と小さな音が聞こえたのは、そのときだった。
 ミルディナはシーツを剥いで、パッと飛び起きた。その視線を待っていたように、淡い灯かりに照らされた扉がゆっくりと開いていく。
「……ミリー?」
 くせのある黒髪にふわりと縁取られた白い顔が現われ、ミルディナは笑った。
「起きているわ!」
 ベッドを飛び降り、白いリネンの寝間着のまま駆け出す。銀に近いほど淡い金色の髪が、背で軽やかに跳ねた。
 扉が大きく開いて、手前にアスティン、背後で手燭(てしよく)を持ったユージンが姿を見せた。ふたりとも寝間着姿だったが、眠っていた様子はない。
 彼らはモルズウェル男爵の息子たちだった。ユージンが十三、アスティンが十一歳。どちらもまだ、晩餐会には出席できない。
「紳士らしくないのは認めるけどさ……」
 アスティンがクスッと笑う。
「でも最後の夜だし。来年まで耐えられる思い出を、ひとつでも作らないとね」
「そうね」
 ミルディナが頷くと、「やれやれ」と嘆息された。見上げると、ユージンは蝋燭(ろうそく)の炎が微妙な陰影をつける顔をしかめた。
「僕はお守りだ。おまえたちが満足してベッドで休むまで、監督しないと」
「ユージン監督官! どこでなにをするの? 広間を盗み見する?」
 ミルディナが手を挙げて問うと、ユージンは目を細めた。
「僕は、おまえたちの、お守りだ」
「はいはい」
 言い含めるような一語ずつ切った言葉を気にせず、顔をしかめてベェッと舌を出すと、ユージンはいつものように肩を竦めた。だが黒褐色の目の中に怒りはなく、形のいい唇は少し笑っている。ミルディナは安心した。
「ミリー、向こうに行こうよ」
 アスティンが兄とよく似た、けれどずっと柔らかな印象の微笑みを浮かべて、ミルディナの手を握ってきた。
「向こう?」
「音楽が聴こえるんだ。聴きたいって言っていたよね」
「うん」
「じゃ、行こう!」
「ユージンも?」
 アスティンに引っ張られながら、ミルディナは慌ててもう片手を差し出した。ユージンが唇に苦笑を残したまま、手燭を持つのとは逆の手で握ってくれる。
 三人は足音を消して、表通路を進んだ。

ご意見・ご感想

編集部

魅惑的な秘密と、夏だけという限定的な楽しみに彩られた
幼き日の思い出は、色褪せることなく、いつまでも記憶に残るもの──

――兄さんは伯爵令嬢だかに求婚するようだよ
幼馴染みのアスティンさんから聞いた衝撃的なその言葉
身分違いの恋、望むこと自体が間違い……きっと叶うことはないだろう……
ミルディナさんがそう考えて、ひた隠しにしていた想い

しかしそれは、想い人であるユージンさんのある行動によって
再び呼び起こされてしまうのです!

ふたりだけの時間を過ごしながらも
鋭い言葉に秘められた意味を勘違いしながらすれ違い……
長年秘めていた想いをぶつけ合いながらもすれ違い……

幼き日の思い出と百合の香りに包まれながら、
大人になったふたりは何を思うのか?

言葉にできない、言葉にしないもどかしいさ
近づいては離れる距離、噛み合わないふたりの気持ち
そのじれったさ、思わず癖になってしまうはず(ノω< *)ぜひお楽しみください♪

2017年4月18日 8:55 AM

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