夢中文庫

恋する魔法 ~キミを独り占め~

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  • 作家立花実咲
  • イラストnira.
  • 販売日2013/5/17
  • 販売価格300円

三つ編み、黒縁メガネ、白衣……地味な薬剤師、川岸美桜(かわぎしみお)はある日、眉目麗しい患者に声をかけられる。彼は有名なプロダクション社長。君のような人を探していたと言い、猛アプローチ。最初は自分なんて……と思っていた美桜だったけれど、彼のそばにいるうちに彼の人柄に次第に惹かれていき……。「裸になったらずいぶん大胆になったね。それとも……僕とそんなにしたかった?」だなんて……。彼はやさしく巧みな言葉で責めて私を乱していく。地味な私を綺麗にしてくれるのは、恋の魔法をかけてくれたあなただけ。プロダクション社長と地味な薬剤師のエッチなラブロマンス

三月下旬、しとしとと雨の降る金曜日。
私、川岸美桜は、ここ「ひまわり調剤薬局」の窓から見える桜の木をぼんやりと眺めていた。
陽当たりのいい場所にあるからか、一部だけが淡い花を開かせている。せっかく開花したばかりなのに、雨だけじゃなく木々を揺らすほど強い風に吹かれて、薄紅色の小さな花びらがどんどん散っていく。
まるで乙女の初恋をあらわすかのように、儚く散っていく桜の花――。
不意にガラスに映った三つ編み、黒縁メガネ、白衣という自分の格好に目が止まり、ふっと嘆息する。
三日前に誕生日を迎えて二十八歳になった私は、美しい桜の季節に生まれて美桜という名前をつけられたのだけれど、この通り私は万年地味女で、週末にお花見デートをする恋人などいない。
「ひまわり調剤薬局」は、となりの大橋内科医院からくる患者がほとんど。インフルエンザの流行が落ち着いてからは患者の数も少なく、薬局内も比較的空いている時間がつづいた。
このままあと一時間が過ぎて五時になったら、さっと帰れそうだ。
春先はどうも体がだるい。気分もなんとなく靄がかったようだ。今日は帰りにスーパーに寄ってお惣菜で済ませようかな。それともどこかにふらっと寄り道していこうか。
そんなことを考えていると、三十分ぶりに自動ドアが開いた。
サングラスをかけた男性が入ってくる。よく芸能人がするような目元から鼻先まで大きく覆えるぐらいの黒いサングラスで、こちらからは僅かに輪郭が分かるぐらい。
彼は寒気がするのか、震える手で処方箋を差出してくる。私は受け取って彼の様子を窺った。
彼の袖口からだろうか。雨に濡れた桜の匂いが漂い、何故か胸がドキリとする。
この人の場合は風邪というだけじゃなく、栄養が偏っていそうだな……と、線の細いスタイルを眺め、「少々お待ちください」と声をかけた。
ソファに腰かけた体は大きく、ずいぶん背丈がある。第二ボタンまで開けた黒いシャツに細身のパンツスタイル。寒いならジャケットぐらい羽織ったらいいのに。
私はカルテを確認した。名前は黒木慶介さん。年齢は三十八歳。同僚が準備をしてくれた薬の種類を確かめて、私は名前を呼んだ。
「黒木さん、準備ができましたので、どうぞ」
準備を終えてお渡し口に立った私は、サングラスを外した彼に、一瞬息を飲んだ。
さっきのように震えているのは変わらないけれど、それと対照的な、怜悧そうな男前の顔。きりっともちあがった眉、切れ長の二重の瞳、角ばった鼻梁、甘さを含んだ薄い唇。それらが目の前に迫ってきて、私の心臓の音が一気に跳ね上がった。
目と目が合って私は我に返り、慌てて説明をした。
「喉に炎症があるそうですね。こちらが抗生剤です。一日一回、夕食後に飲んでください」
彼は黙って頷く。その拍子にさらっと前髪が流れこんでくる仕草にさえ、私はドキッとしてしまっていた。
格好いいというだけじゃなく、彼には大人の男の人だけが醸しだせる色気があった。線が細いと思った体は、シャツの合間から見える鎖骨のラインや袖からはみ出た手首の骨格からして、着痩せしているだけで、本当は筋肉質だというのが分かる。
細面なのに脱いだら凄いタイプの人なのかも……なんて、悶々と視線の先を想像してしまい、私は反省する。
風邪を引いて辛そうなのに、なんて不謹慎なことを考えてしまっているのだろう。
彼はどんな職業の人なのだろう。仕事を休んだのだろうか。抜け出してきたのだろうか。いい年齢しているから、それなりのポストで多忙を極めていたりとか。タバコは吸ったりするのかな。長い指先で挟んだら似合いそうだけれど。
なんだか妙に疼いてしまう。これも春だからなのかしら……と、勝手に欲情の目で見てしまった自分の言い訳を頭の中で並べた。
「あの、もしお疲れのようでしたら、当薬局で調合したおススメのビタミン剤がありますよ」
私が勧めると、彼はついと私の顔を見て、
「じゃあ、それも」
と指差した。
「あとは、あったかくして、ゆっくり休んでくださいね。十五分でもいいんです。きっとお忙しいのでしょうけれど、リラックスできる時間をもつだけで違いますから」
彼は私が言いたいことを察したのか、照れ臭そうに髪をかき上げ、にっこりと微笑んだ。
その甘やかな表情に、私の心臓が、ぎゅうっと掴まれる。
彼は本当に芸能人か何かなのか、女心と母性を両方刺激させられる。
「ありがとう」
社交辞令以上の感謝の念がこもった彼の声を聴いたら、なんだかそれだけで幸せで、心地よく一日が終われそうな気さえした。

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